青年の理論


薄汚れた箱の中で小さな猫が鳴いているのを、子供たちが「可哀想」と口々に言いながらコンビニで買ってきた缶詰や牛乳を与える。それを遅れてやってきた少年が、嫌なものをみるように顔を顰めた。

「飼えないなら餌なんてやるなよ」

「ひどいよ名前くん、こんなに泣いてるのになんて事いうの?!」
「名前くんって冷たいよね、そんな事いうなら来なければいいじゃん」
「あっち行けよ!」

そう言われ、特に反論も無かったので少年はそのまま家に帰る事にした。本を引っ張り出して一通り読み終えたころには、太陽はもう完全に落ちている。

「行ってきます」
「どこに行くの?」
「公園。いないと良いけど、いるかもしれないから」
「制限時間15分、いってらっしゃい」

15分以内に帰ってこないと締め出す宣言である。深くは聞かず、融通の利く母の性格に助けられて、少年は子猫が入っていた箱を探す。それは公園の真ん中に移動していた。【かってください】と最初にはなかった大きな張り紙までしてある。やっぱり、誰も連れて帰らなかったじゃないか。人目につくように真ん中に……って、猫を嫌うひどい大人や、カラスに狙われたら死ぬぞ。影のできないところに置きっぱなしだと熱中症でも死ぬ。そもそも牛乳は飲ませちゃいけないし、缶詰も大人の猫用だったんじゃないか!調べもしないで適当な事やりやがって!次第に怒りが湧いてきた少年だったが、箱の中でまだ子猫が元気に鳴いていた事に気が付いて胸を撫で下ろした。

「俺はお前を飼えないけど、飼い主は探してやれるから……」


彼の両親は常々言っていた。人が嫌がることはするんじゃない。できない事はできるというな。頼まれて受け入れたことは責任をもってやれ。中途半端に手を貸して途中放棄が一番最悪なことだ。だから彼は、自分で選び、責任を持って子猫を拾って、里親を探して引き渡した。
「あの猫はどうしたの?」と聞かれ「人にあげた」と答えた時に、「名前くんは冷たい」とまた言われたが、彼女たちの言葉は理解できない。なにもできないし、してやろうとすら思わなかった分際で行動した人間に文句をつけるな。何様だ。感覚的にはそう言いたかったが、語彙力が足りなかったために「うるさい口だけブス」と言って学級裁判にかけられたことは生涯忘れないだろう。




「ああああああああ」

自己嫌悪で項垂れている青年の後ろで、彼の加州清光が放り出された端末をジッと眺めている。

「主ってネット掲示板?だと口調が違うね」
「顔の見えない相手には殊更丁寧に扱うべきだろ。文字じゃ感情伝わんねーべさ…」
「ふぅん……。ね、なんで向こうの三日月たちとこんなに拗れたの?主ってそんなに聞き分けよかったっけ」
結構、我が強い方だよね?と冷静な性格診断をされている中、青年は俯いていた顔を上げた。みるからにしょんぼりとしている。「よしよし」と慰められるのをそのままに、青年は口を開いた。

「メンタル病んでる時に「大丈夫です!私がついてますよ!元気出して!」とかうざ絡みされたらくっっそムカつかない?」
「超うざい」
「せやろ。何にも知らない癖に口と頭突っ込んでくる奴ぶっ殺したくなるじゃん……でもそういうのNOって言えない人っているじゃん……」
「あ――……わかるかも。俺とか安定は「何様だよ失せろ糞虫」とか言えるけど、五虎退とかは無理だよね」
「そうそう。だから気をつかったんだよぅ……。俺みたいな新人相手じゃ気に入らないのも仕方ないだろうって……」
「元ブラック本丸っていうのを気にしすぎたのも悪かったね」
「うん……」

割と最近になるまで送られてくるものに裏があるかもと疑っていたのもいけなかった。確かに、花のあたりで気付いておくべきだった。

「どうしよう清光……」

「話し合えば?」

「なんて言えばいいのかわかんねえ……」

「俺もついていくから任せなって」

もしもの時はこれで殴る!とスパナをポケットに忍ばせた清光に引き摺られて、鉄の扉の前に来た。自分の三日月宗近が微笑みながら待っている。


「扉の向こうに『俺』がいるようだ。ついていこう」
「ちょっと化粧なおす時間ください……」
「したことないでしょ、今度俺とおそろいの爪紅付けてあげるからがんばろ」
「ああああああああああああ」





そして、4年ぶりにその扉は開かれたのだった。


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