清光の主は一発殴られたら全力で殴り殺す主義
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とりあえず清光は【見習い 対応】をタブレットで検索してみたが、刀剣男士専用の情報交換掲示板で大量の乗っ取り案件が出てきて震えあがり、皆に注意勧告をしてまわる羽目になった。
にこにこしながら奇怪な絡繰りを倉から運び出してくる主から、見習いを守らなければならない。いや、見習いがごく普通の意味での見習いならばなんの問題もないだろう。
「みてみて僕が造った『敵短刀ミキサー』」などといいながら邪悪な代物を見せびらかすぐらいで、ちゃんと師事が出来るはずだ。しかし、見習いが今また流行り始めている乗っ取り目的なら―――。
『マ”ァマ”ァァァアアアアアア”ア”!!!!!!!!』
「っきゃああああああ!!!いやぁ?!なに!なによこれええええ!!!!」
「ぎゃぁぁぁぁあああ”あ”!!!」
「くそ!やっぱりか!!」
陰鬱で怖い日本人形型呪具探索機を「かわいいうさぎさんにして!」と言ったのは清光だった。
基本的に刀剣に優しく、相手の意見を素直に取り入れる審神者は、その日のうちに言われた通り可愛いうさたん人形に改造を施した。本丸の廊下をぴょこぴょこ跳ね飛ぶ1メートルほどのウサギは大きさ以外は愛くるしく見えたし、「電気の代わりに霊力を食べるんです。本丸は霊域だから気が向いたらそこらへんの雑草を食べさせてあげてくださいね」と言われた為に何度か餌を与えたこともある。癒しだった。
なのに何故、呪具発見時の動きが日本人形型とまったく同じなのか。
歯茎を剥き出しにして突然ママと叫びながら、見習いの喉元…首飾りに喰らいつく巨大ウサギ。
見覚えのない役人もまた何らかの呪具を持っていたのだろうか。いや、たぶん香なのだろうか。皮を剥ぎ取る勢いで噛みつかれている。「形あるものの方が攻撃対象が狭まっていいんだねえ」「確かに…香などを媒介にされると些か手がかかります」と大太刀の御神刀二振りがのんきに会話をしている。
悲鳴をあげてウサギと格闘している見習いと役人を前にして、清光はゆっくりと己の主を横目で見た。
「………」
ニヤア…。粘着質な笑みを浮かべ、静かに袖から何かを取り出す。その何かを清光が取上げようとした瞬間に、本丸全体に人工音声が響き渡った。
『全刀剣男士に告ぐ。
現在本丸に侵入者あり。
対侵入者用排除ロボ起動開始。
各自隊長の指示に従い行動すること。』
「ああ!くそ、早い!主が消えた!」
放送に気をとられた一瞬の隙、そこをついて審神者はその場から逃走。残された刀剣男士が「第二部隊点呼しますよー」やら「おら!内番中止!各自点呼開始!」と自主的に動いている。のたうちまわる人間二人を助けようとする者はおらず、仕方なく清光がうさぎを破壊して止めることになった。
恐慌状態になっている見習いの頬を一発張り飛ばし、「逃げるよ!」と活をいれる。
この本丸の審神者は、どこか可笑しいが刀剣男士にとても優しい。人の意見をよく取り入れ、目上の者に従い目下の者には親切だ。が、自分に一度攻撃を加えたものには全く容赦しない。
過剰防衛がなんだと言うのか。殴ってきたもの負けなんですよとは彼の弁。
つまりこの名も知らぬ役人と見習いは、「こいつは僕が力いっぱい殴ってボコボコにしてもいいサンドバックだ」と認識されてしまったのだ。
「逃げるぞ見習い!!!このままだと主が人の法で裁かれる!!たぶん対検非違使用の合体巨大ロボを起動させるつもりだ!!今のうちに逃げ……門が開かない!?くそ!!ここにもギミックが!!井戸だ!井戸の底に隠し通路がある!そこからお前を逃がす!!!」
門を開けて見習いと役人を放りだそうとしたが、いつもは簡単に開く門がまったく動かない。こんな機能知らない。内緒でつけたな主!
仕方なく、清光は役人を見捨てた。男なら自分の身ぐらい自分で守れ。守れなかったら潔く死ね。駆けだした背後で『マァァァァマァァァァアア』とウサギの鳴く声、そして絶叫が響いたが振り向くことはなかった。お前が悪いんだ仕方ない。
今や本丸は混沌と化している。
空には刀剣男士には無害だがそれ以外は必ず殺す謎のレーザー放射をする小型のラジコンが飛び交い、自立歩行する鎧兜型警備ロボがガシャンガシャンと重たい音を経てて動き回る。
その鎧兜に「ご苦労さん」と同田貫が声をかけたり、短刀達がラジコンに声援を送っている。
ちょっとした出し物のような感覚だ。
付喪神としての本能が働く道具に親近感を覚えてしまう。本当は清光だって、ウサギを破壊なんてしたくなかった。しかしこれは主の為、主が人の法で裁かれてしまう事だけは避けなければならない。
思い出すのははじめて会った時のこと。「赤くて格好いいからこの子がいいです」と自分を初期刀に選んでくれた主。
善意と好意で弟子卒業する兄弟子に、対人用即死効果を付与した人形をプレゼントしてから「やだ…こわい…引く…」と怯えられた主。
技術力を持つ主でも、時代を遡る力はない。彼の素晴らしい作品たちは役に立たない。絶対に帰ってくるようにと祈られ渡されたお守りには、その苦悩と護りの気持ちが強く念となって籠っていた。優しくて、大好きな主。
初期刀である清光は主の師の元で顕現された、至って凡庸などこにでもいる『加州清光』だ。
清光以外の刀剣は、初鍛刀の蜂須賀を筆頭に主の気質を強く引き継いでいる。だから今現在ものんきに楽しそうに、主の発明展覧会のようなこの状態を楽しんでいられるのだ。
それを少しうらやましいと感じると同時に、自分だけはしっかりせねばと強く思う。
さっきから引きずっている見習いが何も言わなくなったけど死ななきゃ安いと長谷部も言っていた。問題ない。
『本丸内にいる全刀剣男士に告ぐ、
今から離れを変形させて侵入者抹殺くん3号を起動させる為、
巻き込まれないように裏庭に集合するように』
「1号と2号はどこ!!?!こっちだ見習い死にたくなかったらもっと早く走れ!!」
遠目で土煙と轟音をたてながら岩融五振分くらいの大きさの何かがゆっくりと立ち上がり、その轟音よりも大きな声で仲間たちの歓声が上がった。いいな、俺もそっちに行きたい。
すごい楽しそう。いいな、俺も操縦席にいる主に向かって「主すごい!かっこいい!」とか声援を送りたい。
「き、きよみつ…!ありがとう…!」
呼び捨てんな斬るぞ。イラッとした。トサカに来た。
そもそも汗と埃とその他もろもろにまみれながら一生懸命走っているのは全部こいつらのせいだった。本当だったら今日は主の決めた休みだから、のんびりと平和な一日を過ごすはずだった。やりたいことはたくさんある。暇じゃない。
新しく買った爪紅の色を褒めてもらいたかったし、主の趣味のお手伝いだってやりたかった。人形造りや機械いじりなどはよくわからないが、聞けばなんでも楽しそうに答えてくれる主をみるのが好きなのだ。それをこいつらのせいで…。
ズォオオンズォオオンと重い足音を経てて3号くんが歩き出した。見習いは悲鳴をあげて清光に縋りつき、走りにくい。ああクソ!すぐそこに井戸があるというのに!
「あれ、清光。きみは主の元に行かないのかい」
「見てわかれよ蜂須賀…こいつを逃がさないと!主が手を出しちゃったら、主が人の法で裁かれちゃうだろ!!なんでみんな呑気なんだよー…!主が捕まっちゃったら、会えなくなるかもしれないのにいいいいい!!!」
あまりにもいつもと変わらず、頭にお花でも咲いていそうなほのほのした調子で声をかけられて、ついに清光の涙腺は決壊した。
顎に手をあてて思案した様子の蜂須賀が、不思議そうな声音で問いかける。
「主が手を下したら駄目なんだろう?俺達は人の法では裁かれないぞ」
「………あ、」
「呪具を用いて俺達を主から引き離す算段をしていたんだろう。証拠はウサギが咥えている。俺達が怒ってしまっても、仕方ないよ」
「…あ――、そうか…」
「君はいつも真面目に考えすぎる。少し頭を柔らかくしないと」
「うるっさい。あんたらが笑って済ませすぎるんだろ。俺だってそっち側に行きたいよ」
硬い音を立てて本体を引き抜く。
引きつった顔をした見習いが腰を抜かせて悲鳴をあげた。が、清光は特に何も思う事はなかった。
「厨が変形合体ロボになってるから、今日の夕餉は出前にするそうだよ。何が食べたい?近侍殿」
「らーめん」
「伝えておくよ」
「おおーい、誰か主をとめて――!もう”侵入者はいなくなった”よ――!!」
その言葉を誰かが伝えたのだろう。まだロケットパンチしてないんですけど…と不満そうな主の声がスピーカーから流れる。ロケットパンチみたい!みたい!の声に持ち上げられて、意味もなく空に打ち放ったロケットパンチは攻撃的な花火のようだった。
その喧噪の中、『いつもの役人さん』がでっぷりした身体を揺らしながら走ってくる。
「もうしわけありませ―――ん!こちらの不手際でした―――!もうしわけありませ―――ん!」
でしょうね。
なにやら主の本丸情報が妙な漏れ方をしたらしい。「主を間接的に侮辱されたので俺がやりましたごめんなさい」と2つの塊を渡すと「いえいえ、こちらこそ本当に申し訳ありません…!」と深々と頭を下げられる。
この役人さんは審神者も信頼している良い人なので、全部許す。気にしないで、持ちにくくない?この肉もう少し細かく斬ろうか?とサービス精神をみせてみたが丁寧に断られてしまった。
「ほら、何も言われなかっただろう」
「結果論じゃん」
「近侍殿がそうやって気を揉んでくれるから、主も俺達も安心して過ごせるんだ。いつもありがとう」
「…べーつにい、主のためだし。好きな事やってるだけだし」
それにしても今日は疲れた。でも、楽しかったかもしれない。
主も今までずっとしまいっぱなしだった作品を表に出せて嬉しそうだ。主が楽しそうだと、刀剣達も楽しくなる。全て合わせると、今日は良い日だったと言ってもいいかもしれない。
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