かんじょうはどくです


ナマエは元々、訓練生になどなりたくなかった。確かに恵まれたスペックを持ってはいたが、本人が望んだわけではない。あからさまな劣等生であったら、あからさまに落ちこぼれであったら、ナマエは今よりもっと幸せになれたのだ。


精神を司るスパークがか細く出来ていたに違いないと思考する。
ナマエはこのまま消滅してしまおうと、一人で宇宙を漂っているところだった。母星から飛び出す前に、生まれ持った恵まれた技術力を駆使して自分で頭の中身を少し弄った。その結果、ナマエから恐怖という感情が消え去ったのだ。同時に、彼を構成していた個人の性格や思考ルーチンも初期化された。いちいち『思考する』とブレインサーキット内で命令を下さなければ、ナマエは無のまま漂い続けるだろう。
どこまでも客観的に、ナマエは暗い闇の中を流されていた。いつか嵐にあたって壊れるか、エネルゴンが尽きて飢えて死ぬかのどちらかだ。安らかな気持ちで、闇と星を見詰め続ける。感情が消えた今、記憶は記録となり冷静に見ることができる。自分は何故あんなにも怯えていたのだろうか?死に怯え、仲間に怯え、怒りに怯えた。捲し立て自分を揺さぶる水色の機体と、それを止めようと尽力する黒の機体を思い出す。彼らには申し訳ないことをしたのだろう。しかしあの時あの瞬間の思考回路を消し去ってしまった今では、謝罪はなんの意味もない。そもそも、二度と会うことはない。

ナマエは見た目に合わず、持って生まれたスペックにも不釣合に、大人しく臆病で繊細な性格をしていた。その結果、壊れた。彼はとにかく、トランスフォーマーという生き物には向いていなかった。


『おや。』

宇宙船が横を通り過ぎ、マイクを通して音を出した。

『おやおやおやあ。オートボットじゃありませんかあ』

自殺志願ですかあ?助けてあげてもいいですよお。勿論お金は八割増しでいただきますけどねえ。飛び出たアームに掴み取られ、そのまま船内に収納される。わざとらしい丁寧な言葉使いをする男は、腹にディセプティコンのマークを貼り付けていた。
よくわかったなその通りだ。そう思考したが、会話をする意味を見いだせず為すがまま転がっていた。周囲には整然とよくわからない武器や何かが並べられている。
本人はそれほど戦闘に特化してなさそうであったが、総合すれば火力は凄まじいのだろう。好きにすればいいと、目を閉じたまま瞼の裏にある闇をみていた。



『どうしましたぁ?スパークは生きているみたいですけど、頭可笑しくなっているんですかあ。だったらバラして売っぱらっちゃっても人道的に問題ないですよねえ。死体みたいなもんですからねえ』

ディセプティコンというものは、本当に録でもないものだ。




『あ、』

もぎ取るつもりだったのか、負荷が掛かりかけた腕から急に手がどく。その手が頬に来た感覚がして、眼を開けた。
珍しい紫色のアイセンサーをしている男が阿呆のように口をぽかりと開けている。アイセンサーも口もでかい、絵に書きやすそうな顔をしていると思考していたら、両頬に負荷をかけられた。顔からもぎとる気なのか。速やかに痛覚を遮断する。



『あなた、良い顔してますねえ!私が貰い受けることに決めましたあ!』

なに言ってんだこいつ。


←前 main|top 次→