商人は簡単には信じない


悪いことはできないというわけで。

スィンドルはうっかりオートボットに捕まったあげく、自分の発明した武器にやられてカチコチになったりしていたら、思ったよりも時間を使ってしまっていた。

どうやらカチコチにされていたあいだに戦況は変わっていたらしく、このまま此処に居てもなんの利益も出ないということだけは長年の勘で察していた。
とは言えど、ブリッツウイングやラグナッツというディセプティコンにおいて最高戦力に匹敵する輩の前で堂々と抜け出すのは無理がある。適度に恩を売りつつ、頃合を見て抜け出せればいい。

メガトロンの老いぼれもそろそろ年貢の納め時ですかねえ〜。

この世に悪の栄えたためし無し。されど悪無き世も在らず。今回の殴り合いはそろそろ終息して、次はまた何百万年か後に次の戦争が始まるのだろう。その時まで、平和的にテロ組織にでも武器の横流しをしつつナマエと一緒に少しゆっくりしよう。

楽しいショッピング、という名の窃盗も良い感じのところで切り上げ、外でドンパチやっている脳筋共を見る。楽しそうでいいですねえ。ああ、そういえばナマエ用のエネルゴンをそれほど補充していなかったような気がします。こんなに長居をするつもりじゃなかったんですけどねえ。どうせまた省エネモードになって死んだように寝ているだけなんですから、問題はないですよねえ。

え。



『……?』




スィンドルは自分のアイセンサーに汚れでもついたのだと思った。それか画像の焼き付きが起こって残像のようなものが残っているのかもしれない。しかし確認しても、結果は異常箇所無しだった。


ドンパチやっているオートボットとディセプティコンのあいだを、見覚えのある船がするすると通り過ぎている。あれは緊急脱出用のものなので、ステルス性を極限まで上げて宇宙空間ではオーナーであるスィンドル、そしてペットのナマエ以外のアイセンサーでは捉えられないようにしているのだ。それが、来ている。


『まさか………』

嫌な予感に震え上がった。オートボットに囲まれた時も、捕縛されたときも、こんな気持ちになった事はない。
運転操作を失敗したのか、はたまたスィンドルの持っている武器庫とのワープ地点を逆探知して到着目標にしたまま微調整していなかったせいか、船と船が激突する。

これ、私がカスタマイズした船じゃなかったら大破してましたよ何考えているんですか何も考えてませんねですよねえ。

久しぶりに会ったナマエは、相変わらず顔だけのクズだ。顔だけだが、それでもスィンドルはどうしてもナマエが好きで仕方ない。好きになってくれないなら嫌われたい。嫌ってくれないのなら無視は止めろ。それもダメならひとつだけ、頼むから、マトモにはならないで欲しかった。
性根がクズじゃないナマエなんて、ただのイケメンだ。スィンドルがいなくても生きていける。そんなのは嫌だ。

ああ、でも、まさか…

『貴方まさか、私を…たすけ』

『おいスィンドル。エネルゴン足りないぞ、たしてから仕事行け』

『よかった!やっぱりクズだった!』

『声がでかい』

迷惑そうな顔をしたまるでだめな元オートボットを船に詰め込んで、狭い機体に無理やり入る。鼻歌をうたいながら、移動ではなくワープを選択した。足取りをつかまれないようにいくつか経由するが、これで最短ルートで武器庫兼自宅に戻れる。


よかったよかった。ナマエは相変わらずのクズだし、録でもない。こんな男を好きでいるのも、世話を焼くのも、飼ってあげられるのもこの宇宙で私だけですよねえ。












ご機嫌なスィンドルをみて、ナマエが心底安心していたことを彼は知らない。
『無事でよかった、心配した』と抱きしめたくて仕方なかったのを、気持ち悪がられると思って我慢したことなんて知る由もない。

一度壊して無にした感情と個性が再構築された結果、ナマエがスィンドルを憎からず想うようになってきた事をスィンドルが知るのは、それからまた数十年後のことだった。


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