bgm, The 1975 /be my misstake

1 miss 色のないテープに音はのらない






留守にしていた数日で、機嫌がさらに悪くなったかどうかは測り兼ねる。目の前にいる彼女はあの日行ってきますを言った時と同じドライな風合いで、立ったまま話し続ける俺の周りを行ったり来たりしている。

悪くはなっていないだろうか。
良くも悪くも、前のままだろうか。

長く付き合うとこんなものかもしれない事例は幾らだって見てきたのに、いざ自分となると納得がいかない。自分に仕方ないだろなんて言わせたくなくて、ないがしろにした何処かに反省点を探していたが、もう自分では見つけられないほど二人に昔の色は無い。

「そのサーファーがさ、恋人がいるならそこの土産屋なんてどうですか? なんて言うんだよ。非公式だっつーとイエスに取られるだろ? だから居ねぇって言ったんだ。そしたら信じてくれなくてよォ。またまたァァ? とか言って。ニタニタとな。
だから俺に彼女なんて居たら全国のリスナー泣かせちまうからってァァ! ってのはウソで、まぁ本業ヒーローなんでそういう事よって言ってやったんだ。まあまあ誤魔化せたと思うだろ? ところが新展開が始まるワケ。

居ないならちょっとくらい遊びません? いい子紹介しますよ〜って盛モリ酒盛られて、ワンナイ紹介オレ惨敗! っつって。ちっとばかし飲んじまったんだよゴメンな。あ、解ってると思うケドそれだけだぜ? 何もねぇから」

彼女はドレッサーの引き出しからピアスをより分ける。昔使っていたお気に入りはどこへやら、近頃よく見る当たり障りのない物で耳を飾った。口紅ではなくリップクリームを少しだけ乗せて、「うん解ってる。もう行くね」と鏡に応えている。


「おう、気を付けてな」


あっさり行ってしまった空間に、
温もりを残したスリッパと虚しさが転がる。

慌てて唇を追い掛けたが、こんな、手放したく無いルーティンに縋り付くような必死さは、何でもない風に隠しておく。
扉の外へ向いた流し目の余韻とほんの少しだけ目があったが、彼女は風に攫われるように消えていった。


――まあ、仕方ねぇよな。


あれだけ他人に言ってきた「仕方ねぇ」がこんなにも残酷だったと下を向き、まだ仕方ないわけが無い言い訳をしたくて、化粧品が転がったままのドレッサーに座ってみる。鏡の中に彼女の面影は無く、ただ何も言えなくなったダサい男が映っていた。







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