bgm, Taylor Swift/ME!

2 demo おさかなマーチ





初めてのデートで貰ったピアスは今日もドレッサーの引き出しに無い。いつかコロッと隅の方から出てきて欲しいと願った時もあったけれど、そんなに都合よく馬鹿げた事が起こるはずがない。

シルバーを選ぶ間もひざしはずっと何でもない話をしていてホッとする。こんなに冷えきった今更、私の大切だったものや二人の思い出が詰まった宝物を振り返るなんて事、ひざしだってきっとしないだろうから。


昔恋愛のコラムで、

“付き合いが始まった頃の男は、テーマパークの着ぐるみを着て一生懸命彼女を喜ばせようとしているようなものだから、後で着ぐるみの中から普通の人間が出てきても驚かないように。”――と書いてあった。


がむしゃらに自分を鼓舞して、ゲストに細かく気を配り、必死で楽しさや風船のようなサプライズを贈るんだそうだ。


締めには「大丈夫。中の人が必死で貴女のためにしてあげたかったの。そう思ったら可愛いと思いませんか? 彼も人間です。ずっと着ぐるみじゃありません。中の彼とも楽しく過ごせるように貴女自身も時々着ぐるみを脱ぎましょうね♡」と書いてあった。


破り捨てたのに現在までその記事を忘れられないのは、まぁ図星でムカついたからに他ならない。


だって嬉しかったんだあの頃は。
忘れられないほど。


私のためだけに無理をしたり、
しつこくカッコ良さげなことを言ったり。

胸が大爆発してるのが見てわかるほど首筋の皮膚が脈打っていて、なんでこんな私に夢中でいるのか理解できないのに、幸せだった。


上手く噛み合わないキスがハチミツに感じるほど素敵な勘違いをさせてくれた。実際はそんなに美しいものでは無いかもしれないけれど、その時の私達は紛れもなく二人だけの世界にいた。


ひざしを美化したかもしれないのなら、
恋をした私が悪い。
 
ありのままの中の人を見られなかったのならそれは、浮かれてしまった私が「こんな日がずっと続いて欲しいから」なんて理想的な喜び方をする女を演じたからにすぎない。



着ぐるみを脱いで
ガッカリされたらどうしよう?

甘い甘い愛が
降ってこなくなったらどうしよう?
 

そうやって脱ぎ時を失って、少しずつすれ違って、やさぐれて、自分はさておき着ぐるみを脱いだ彼にガッカリしたなんて思うようになって、気が付けばあんなに嬉しかった筈の素敵な勘違いを、二人してバックヤードに転がしたままにする。

本当はモフモフが大好きだったのに、「長く付き合えばそんなものよ。仕方ないの」なんて言って、自分にはもう無いものだから、次は他人を羨ましく思うんだ。


本当は全部わかっていた。
釣り人は決して釣った魚に餌をやらない訳じゃない。あの瞬間の感動がずっとは続かないのを知っていて、世界に二人だけの絶頂と同時に絶望を見ていたんだ。
 
いつだって失うのが怖かった。
そうして食べ頃も失って、こんな事ならせめて逃がしておけばよかったと後悔しつつ過去ばかり思う。

もっとがむしゃらに、不格好に、
失望されてでも着ぐるみを脱ぎ捨てれば良かった。

出会えた喜びを追い続ける釣り人は、いくら餌を撒いても絶対的瞬間のようには食いつかなくなった物足りなさで悲しみにくれて、お腹がいっぱいで食べられないのにまだ食べたい魚は、無理して釣られる振りをする。
更には自分だって素直に喜べないくせに、簡単に諦てしまった釣り人に怒ってもいる。



あんなに宝物だったピアスを失くしたなんてバレたくない。着ぐるみも着てくれなくなった彼に、宝物だと思っている事も知られたくない。言ってやるもんか、だ。 


近頃ではもう、
彼の前でどんな風にいればいいのか解らない。
これが冷めたって言うんだろうか。
 
だからあの日、私は家に帰らなかった。

 
投げやりな釣り人の糸の先、
きっと海面には、
やさぐれたおサカナが浮かんでいる筈だ。





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