2学期初日。転入生が来た。黒板の前で挨拶をしている人物の名前はなかなか整った容姿をしていて男子が歓喜する。担任の指示で席は俺の隣になった。
興味津々で自身を見ている周りなどお構い無しの彼女は始まった授業をを真面目に受ける気はない様子で頬杖をついてぼーっと外を眺めて居た。
転入生が来たと言うことはあっという間に知れ渡り休憩時間に彼女は見世物と化す。けれど凛とした彼女はなんとなく話しかけずらい空気を纏っていて、噂はすれど声をかける人はいない。
しかしその時、隣のクラスの俺の幼馴染がやって来て、彼女を見るなりタイプ!と目をハートにしてこれ幸いと隣の席の俺をだしに猛烈アタックを始めた。
イギリスから来たこと。ハーフであること。制服が可愛くてこの学校を選んだこと。
彼女は奴のあまりの勢いに引きながらも聞いたことにはきちんと答えてくれた。自己紹介をする俺たちに彼女も改めて自己紹介をしてくれて紗織と呼んでほしいと言われた。フランクな性格の彼奴はサラッと名前を呼んでいたけれど俺はその時なぜか胸がドキッとした。考えてみれば女の子を名前で呼び捨てするのなんて初めてだった。
「ゼロ!紗織!飯!」
あの日のバカな幼馴染の行動から俺たちは話すことが増えた。話せば明るくて人懐こいのに見た目が影響してか紗織は遠巻きにされていることが多く、昼休みになるたび現れる彼奴が俺と紗織の手を引いて一緒に屋上でお昼を食べる。それが定番となっていた。
「ところでなんで日本に来たの?」
お弁当の唐揚げを頬張りながら彼奴が聞く。
「あー、それ聞いちゃう?」
「聞いちゃう〜」
「実はね、好きな人に会うために来た」
はにかみ笑いで恥ずかしそうに俯く紗織に彼奴がショックのあまり笑顔のまま固まった。漫画のような硬直具合に俺はフォークに刺さった奴の好物の卵焼きを奪ってみた。普段なら怒り狂うところなのにノーリアクション。
「父親が日本人で仕事がこっちだから日本にいるんだけど、私達のことを邪魔だとでも思ってるのか日本には来るなって。12歳まで特に何にも思わずそうして来たんだけど、その時の初恋の人が日本に引っ越すって言うから私も日本に住みたい!って言ったらもう父親と大喧嘩。結局色々あって5年かかってこっちに来たんだけど…って聞いてる?」
「全然聞いてないと思う」
卵焼きを咀嚼して、放心状態のやつの目の前で手を振ってみたが反応はなし。俺はこいつを諦めて紗織に向き直り「それで?会えたの?」と続きを促した。
「ううん会えなかった。アメリカに留学してるんだって」
「ふーん。じゃぁ今度はアメリカに行くの?」
俺が冗談めかして聞けば紗織はニッといたずらに笑って勿論と答えた。その自信満々の即答に俺は会ったこともない紗織の想い人が羨ましくなり、どんなやつ何だろうかと根掘り葉掘り聞いてみた。名前だけは頑なに教えてくれなかったけれどそれでも好きを身体中から滲ませながら想い人の事を話す紗織は可愛かった。
「って、お昼休み終わっちゃう!次体育だから早めに教室戻らないと!」
転入初日に授業を堂々無視していた人の発言とは思えない。と俺が言えば「零って無駄に記憶力いいね」とふてくされ顔で睨まれた。そんな顔しても怖くなんてないのに。
呆けたままのアホを揺さぶって、半ば無理やり教室まで送り届けていれば、いつの間にか始業5分前。着替えもまだ済んでいない俺たちは大慌てで自分たちの教室に飛び込んで更衣室まで走った。いたずらに笑う紗織と目が合って、こそばゆい気持ちになる俺は紗織に恋に落ちていたんだろう。
結局授業にはわずかに間に合わず、校庭ランニングを言いつけられ2人で走りながら絶対彼奴に帰りにアイス買わせるだなんて笑いあった。
それから本当にあっという間に紗織がこの学校に来てから半年が経った。
紗織もそれなりにクラスメイトと仲良くなったようだったがそれでも何かあれば1番に俺の所に来る姿はまるで刷り込みされた雛のようで可愛かった。そんなんだから俺と紗織が付き合ってるという噂が流れているとホームルーム中に彼奴がわざわざ隣のクラスから報告に来て教師に怒られたのは記憶に新しい。
終業式も終わって今日から春休みだ。3年は同じクラスになれますように!と正月の初詣と同じことを校門に向かって願う彼奴を2人で笑って置いて帰る。そうすると彼奴が待てって!っと慌てて追いかけて来るのはもうこの恒例。俺と紗織は彼奴が追いつくまで少しだけゆっくり歩く。
春休み何しようかなぁと想いを馳せる紗織に一緒に遊びに行こうと約束を取り付ければ、俺の幾ばくか緊張した顔に幼馴染の彼奴は何かを感じ取ったのいつもなら俺も!と騒ぐのに今日ばかりは紗織の事を優しい顔で見つめた後、俺に向かって口パクで暴言を吐いてあかんべーをしてみせた。
何となく感じていたけれど、彼奴は紗織とのことに決着をつけたようだった。
( お前しか認めねぇから )
別れ際彼奴が俺に後ろから飛びついてぼそりと言った言葉に俺はこの半年間少しずつ温めきた気持ちをきちんと伝えようと覚悟を決めた。