I let slip the truth

「2人で水族館に行こう」

女の子をデートに誘うのはこうも緊張するのか。小中高と今までそれなりにモテていた自信はあったけれど自分からアクションを起こしたのは17年生きてて初めてで緊張のあまり手のひらが少し汗ばむ。紗織は2人でという事に驚いたのか少し迷うそぶりを見せたものの少し恥ずかしそうに俯いて「うん」と承諾の返事をくれた。



当日、待ち合わせの場所に現れた紗織の服装は彼奴含め3人で遊ぶ時より心なしか可愛い気がした。学校ではノーメイクだが今日は薄らとメイクが施されていてグロスでも塗っているのか唇が潤っている。

「行こっか」

休日のごった返す水族館ではぐれない様にと思い切って手を繋げば
、紗織は特に気にした様子もなく握り返してきた。予想外の反応に俺の方が驚かされてしまう。
そういえばこの子はつい半年前まで海外にいた帰国子女だったと思い出して肩を落とす。手を繋ぐまでの俺の葛藤と勇気を返してくれ。

紗織はそんな俺なんて御構い無しで水槽を覗き込んでいて「あの魚零っぽい」とか「あれロンドン水族館にもいたよ」とか楽しそうだ。

「魚が俺っぽいって何?」
「ほらあの鰭ピコピコしてる小さいやつ!見た目が良くて人気者なのにあんなところに隠れて警戒心強いとかまんま零だよ」

指差す先にいるのは似ていると言われるのが腑に落ちない可愛らしい魚だ。

「腑に落ちない」
「人気No. 1だもんぴったり」

ほら!とその魚の紹介文が書かれたところに目立つ色で(注目の魚!人気No. 1です!)と書かれていた。

「うちの高校のミスターグランプリで零様ぶっちぎりの優勝だったじゃない」

ちなみに2位との得票差はトリプルスコアとか零の顔面偏差値の高さは異常だね、と続ける紗織。見せられた携帯の画面にはランキングが表示されていてNo.1の横に一際大きな文字で降谷零と表示されていて、その下には幼馴染の彼奴の名前が申し訳程度にある。何これ。

「11月の文化祭でひっそりミスコンとミスターコン毎年やってるらしいよ?零去年もミスターだったみだいだけど知らないの?」
「初めて聞いた。なんか去年も一昨年も文化祭の後に彼奴が妙に絡んでくるとは思ってたけど」

お前の幼馴染だと得するけど損もしてる気がする。とか、どうせ俺は3分の1の男ですよ。とか言ってたのを思い出した。

「でもだからってこの魚?」
「いいじゃん。可愛いところも零そっくりだよ」

クスクスと笑っている姿を見ると胸がぎゅっと締め付けられるような感覚がする。苦しいに似てる感覚なのになぜだか嬉しくてこれが彼奴がしきりに力説してた恋の症状なら悪くないかもしれない。

「可愛いのは紗織だよ」

ぽろりと溢れた言葉は雑音に紛れて紗織には聞こえなかったようだ。

俺似らしい魚に満足したのか時計を確認してイルカショーの時間!と俺の腕を引く様子はとても楽しそうで誘ってよかったと心から思えた。



「あー、もうびしょ濡れ」
「最前列にいくからだろ」
「零はそんなに濡れてないのに!」
「日頃の行いかな」

人生初のイルカショーを最前列で見たいという彼女たっての希望で子供たちに混じって最前列に陣取った俺たちにはビニールシートが配られた。それなのに近くで飛び跳ねたイルカの反動で飛び散った水を諸に被った紗織の髪の毛と洋服は水を含み、さながら風呂上がりのようで直視できない。なんで白シャツなんて着てるんだ。俺だって思春期真っ盛りの男なわけでこれは…やばい。
紗織の手を引いてお土産コーナーにある目に入ったタオルを手にすぐさまレジへ向かうと後ろから零?どうしたの?と何もわかってない声がする事なんか構わず会計を済ませる。ただの端っこにイルカの刺繍が入っただけのタオルなのに3500円もしたことはバイト禁止の学校に通う高校生の財布にはかなりの痛手だがやむを得ない。すぐさま開封したそれを広げて紗織の肩にかけるとまだ春の陽気とは言い難い気温に寒かったのか嬉しそうにタオルに包まってありがとうと微笑まれた。そんな顔してくれるなら3500円なんて安かったなと心底思った俺は単純だ。

「楽しかったね」

水族館近くのカフェで休憩を済ませ、そろそろ日が暮れるから帰ろうかと歩き出す。
駅までの決して長くない道を歩いているとぽつりと紗織が呟いた。歩くスピードが心なしかいつも遅いのは俺と同じで名残惜しいからだと期待していいんだろうか。

「楽しかったな」

浮き立つ気持ちに自分でも恥ずかしい程甘い顔をしてるだろうなとは思ったけれど崩れる表情を抑えることなんて出来なくて慌てて手のひらで口元を隠す。紗織はどんな顔しているのだろうかとそっと隣を伺うと視線に気づいたのか顔を上げはにかんだかと思うと恥ずかしそうに少し唇を尖らせて目を逸らされた。

半年前、好きな男について話した時の顔と同じ顔をしている。
そのことに気づいた時、今しかないと思ったのだ。歩みを止めた俺に紗織が振り向いた。

「紗織」
「ん?」
「好きだよ」

昨日まで散々緊張してたのが嘘みたいにさらっと言葉が出た。
恋してます、と顔に書いてあると言っても過言ではないあの顔を見たら自然と口からこぼれていたのだ。紗織は驚いているのか目を丸くして俺を見ているが正直俺だって驚いてる。昨日シュミレーションしたときは心臓が壊れるんじゃないかと思う程バクバクと脈打ったのに今は平常運転だ。

言葉の意味を受け入れたのか紗織は顔を真っ赤にして俯き、右耳を触っている。その仕草は恥ずかしい時にする癖だという事はこの半年で知っていた。

「俺と付き合ってほしい」

駅までの大通りなのに歩いている人はあまりおらず、沈黙が痛い。
覚悟を決めたように俺の目を見た紗織の瞳は俺の予想を裏切り揺れていた。

「ごめんなさい」

小さな声で告げられたのは断り文句。今まで散々自分が告白された場面で言ってきた言葉の威力を初めて思い知った。胸が痛い。
紗織の目の淵にじわりじわりと溜まっていた涙がついに瞬きの拍子に落ちた。
imy.