相思相愛





2024.6.30 彼に恋する女の子のはなし。再録
※時系列としては6〜7話の後あたりです。



 蝉の鳴き声が耳に残り、蒸し暑さが一層高まる夏の日こと。呪いのバーゲンセールも終盤にさしかかり、久しぶりに四人で地方の任務へ向かった。祓除の対象である呪霊の目星はついていて、あとは祓うだけ。夜よりも朝から出向いた方が良さそうと判断し、宿で最後の作戦を練る事になった。四人仲良く部屋へ戻る廊下の途中、ふと壁に貼られた一枚の紙に目が留まる。

「へぇ、明日花火大会あるんだ」

 数秒だけ立ち止まってしまった私の目線の先を、後ろを歩いていた夏油も気になっていたようで声に出していた。

「宿に戻るまでに海沿い通ったじゃん、あの辺りで打ち上がるらしいよ」

 何処からか情報を仕入れていた硝子は、この辺じゃ一番大きい花火大会なんだってと付け加える。確かにここに帰るまで、太陽の沈む大きな海原が見える道を歩いてきた。

「俺、花火見た事ねーんだよな。面白れーの?」
「夏の風物詩さ。元々、昔疫病で亡くなった人達の慰霊の意を込め、疫病退散の為に行ったものなんだ。迎え火や送り火の意味もあるから、面白味を感じるというより、夜空に打ち上がった光景を楽しむものだね」
「はぁ〜〜傑、そういうのよく知ってるな」
「前に調べた事があったからね」

 花火が打ち上がる理由なんて考えた事無かったな。何を考えたら調べようと思うんだ。相変わらず夏油の思考は謎めいてる。だが、死者を迎えると言われるお盆も夏にあるし、大量発生している呪霊を祓うので大忙しなこの季節にぴったりの風物詩だ。
 共通点に関心していた私をよそに、五条は張り切った声を出す。

「よし、んじゃあ見にいこーぜ。明日の任務も楽勝っしょ」
「いいね、久しぶりにかき氷食べたいな」
「ああ? なんでかき氷が花火に出てくんだよ」

 疑問を問う五条の声は宿の廊下に響き渡り、夏油は人差し指を唇にあてて、静かに。と囁く。硝子は面倒そうに五条を見ては、これだからと呆れ顔を見せた。

「ボンボンの坊ちゃんは知らないだろうけど、花火を見ながら焼きそばやかき氷を食べるのが花火大会の楽しみ方なの」
「花火大会には出店が付き物だからね。……悟、驚かないで聞いてほしいけど、出店のかき氷は色が違うけど味は一緒なんだ」
「マジ……⁉」
「大マジだよ」

 関わるまいと見ないようにしていたが、目線だけ動かし彼の顔を見ると凄くワクワクした表情を浮かべ、サングラスの奥の瞳が一層キラキラしている。うわぁ、見るからに興味津々で面倒そうだ。これじゃあ私の本音も言えないじゃんか。

「つーかオマエは? ずっと黙ってるけど、花火見たことあんのかよ」

 いつもなら会話に参加するはずの私が三人の話を黙って聞いていたのが変だったようで、五条は私に目線を向け問いかけた。黙って事を終わらせたかったが、そうにもいかないようで目を逸らしたまま口を開く。

「あー……うん。昔、おじいちゃんと見た事あるよ」
「じーちゃんと? あぁ友達居なかったんだっけ、そりゃあ一人じゃいけねーもんな」
「はあ? 花火も見たことない坊ちゃまのくせに!」
「ああ?!」
「こら二人とも、喧嘩しない」

 言い合う私達の間に入った夏油は、肩を竦めて溜息を吐く。人を馬鹿にしてきたのは五条が先なんだから私はわるくないもんっ。顔を膨らませてそっぽ向くが、夏油は何かを察したようで顎に手を当て問いかける。

「まあ私もキミはこういうイベント事が好きだろうと思ってたから、乗ってこなかったのは意外だと思ってた所だよ。もしかして……花火が嫌いだったりする?」
「いや、そういうワケじゃないけど……」
「人混みが苦手なんでしょ。大丈夫、いざとなったらこのクズ共が対処するし。何かあったら私も居るからさ、一緒に行こーよ」
「う、うん」

 硝子の誘いの言葉には、ノーとは言えない。だって私も硝子や夏油、それに五条と、沢山遊びたいし思い出も沢山作りたい。昔嫌いだったイベント事も、今は大好きだ。だからこんな事言えない。迷子になるのが嫌で花火大会に行きたくないなんて、言えない。


*



 最初で最後の花火大会に行ったのは、小学一年生の頃。近所の小さな花火大会におじいちゃんと一緒に出かけ、可愛らしいお面の出店に釘付けになった私は、お面のお店まで走っていって後ろを振り向くと、そこにおじいちゃんの姿は無く、迷子になっていた。
 待っていればおじいちゃんと出会えるだろう。楽観的な考えで出店の前で待つが、一向に現れない状況に昔の記憶がフラッシュバックする。
 ――おじいちゃんにも捨てられた。
 私を産んでくれた母は、父が事故で亡くなってから変わってしまった。異様な行動をとる私を、生前父は微笑みながら見守ってくれていたのに、父が亡くなってからというもの母からは気味が悪いと、人では無いモノを見る目を向けられ、心理的虐待を受けていた。それでもお母さんの事が好きだったが、お母さんは違ったらしい。
 山奥に置いていかれ捨てられたあの時を思い出し、大泣きしていた所を自治会の人に声をかけられ、迷子テントにいた私をおじいちゃんが迎え来てくれた。
 おじいちゃんと再会した時は既に花火は打ち上がった後で、結局テントの中でずっと泣いていたから花火は見ていない。それからおじいちゃんに何回か一緒に行こうと誘われたけど、トラウマになって行かなかった。もちろん人混みが嫌いだという理由もある。人が多ければ多いほど、自分勝手で傲慢な人も増えて頭が痛くなる。その手で断っても良かったけど、三人とも行きたがってたし迷子になるから嫌だなんてこの年で言えない。それにあの頃から十年は経っているんだ。もう迷子になる年齢でもないし、あんなに喚いて泣いたりしないもん。


*




 そう思っていたのに、迷子になった。自分のばか。

 花火を見に行く約束をした翌日。朝のうちに無事目的の呪霊を祓い終え、ラフな服装に着替えて目的の花火大会に向かったのは夕方過ぎ。四人で花火大会の会場まで続いてる出店が並ぶ道を歩き、出店を点々と寄って食べ歩きをしていた。
 途中、硝子がタバコを吸いたいと言い出して「もしかしたらナンパされるかもしれないし着いていくよ」と夏油が硝子の後を追う。二人とも私に向けて、親指を立てて健闘を祈るサインをだし、五条と二人きりになるよう気を利かせてくれたみたいだ。しかしドギマギしている私に目もくれず、初めての出店にキラキラした目を一層キラキラさせた彼は、お構いなしにどんどん先へ進んでいく。
 溢れ返る人混みに巻き込まれて、ついには高身長な彼の姿が見えなくなってしまった。五条に追いつくべく人混みの中を歩くが、我先へと様々方向へ進む非術師の群に気分が悪くなり脇道に抜ける。はぁ、なんだか息が詰まるし、どっと疲れちゃったな……。
 五条と二人きりになった場合、喧嘩して何処かへ行く可能性もあるとは思っていたけど、まさか好奇心で放っておかれるとは……まあいい、硝子に連絡して再集合場所を決めよう。五条の自己中心な行動に呆れつつ、ポケットに入れていた携帯を開くが画面は真っ暗のまま。あ、あれ?
 電源ボタンを長押しするが、一向につく気配がない……そ、そういえば昨日充電してないな? 今日は任務で電話使う事もなかったし、バッテリーの持ちは結構良い方だからたまに忘れてしまう。電源がつかないかフタを開けてバッテリーを取り出して差し直すが、うんともすんとも言わず、見事な詰み状態。これには自分自身にも呆れてしまった。
 途方に暮れ、脇道をそれた先には海が近くにも関わらず木々が生い茂る。道の途中にぽつんと佇むベンチがあり、ゆっくりと腰掛ける。先程のまでの騒がしい声が消えて、鈴虫やコオロギの鳴き声が聞こえてきた。
 三人を探しに行くか、宿に戻って三人を待つか。入れ違いになっても嫌だしなあ。
 元々方向音痴な所はあるけど、どうにかこうにかすれば宿に辿り着く事は出来るだろう。でも、またあの人混みの中に入ってしまうと思うと、億劫になる。
 やっぱり来なきゃ良かったな。いらいらするし、三人に迷惑かけちゃうし。
 あの三人のことだ、バカだなあって言いながら私の事を探してくれるんだと思う。独りぼっちだった私に声をかけてくれた、出会った中で一番優しい友人達。でも、いっそのこと私の事なんか忘れてしまえばいいのに。一人になった事でだんだんと心細い気持ちになり、暑いはずなのに肌寒く感じて胸の辺りがざわざわする。
 だって三人だけの方が楽しいに決まっている。知らなかったとはいえ、呪詛師の末裔みたいな人間が仲間に入れる方がおかしい。
 子供の頃「アンタなんか居なければ」「父が死んだのはオマエのせいだ!」と、私に対して泣き喚いていた母親の顔が鮮明に浮かんだ。お母さんの言う通り、あの時誰にも気づかれずに、居なくなってしまえば良かったのに。
 息を吸っても吐けなくて、うまく呼吸が出来ない。だんだんと苦しくなって目尻から涙が溢れていく。誰か助けて、でも誰も助けてなんかくれない。それが私の辿る運命なんだ。

「おい‼」

 遠のく意識の中、声が聞こえた。いつもなら鮮明に聞こえる音が、耳に膜が張ったよう籠って聞こえる。息をするのに精一杯で、気にする事が出来ない私の身体を、脇の間から背中にまわった手がとん、とん、と一定のリズムで背中を優しく叩く。「ゆっくり吸って、ゆっくり吐け」と言葉通りに呼吸を繰り返し、徐々に篭っていた音が鮮明に聞こえ、寒さと息苦しさが少しずつ消えていった。

「こンのバカ、何迷子になって過呼吸おこしてんだよ」
「へ、あれ、五条……?」

 五条の声が耳元から聞こえ、抱きしめられていた事に驚いて胸板を押すが、彼の手は背中に回ったまま。じゃ、じゃあさっき背中を叩いて落ち着かせてくれたのも五条? 

「おい、支えてやってんだから暴れんな」

 いや、いやいや。そんな事言われても、まさか好きな人とこんな密着してるなんて。

「ったく。勝手に居なくなって、居たと思えば人気のない所で倒れてるし。バカすぎんだろ。探す身にもなれっつうの」
「う、うるさい。元はといえば勝手に先に進んじゃう五条が悪いんでしょ」
「そう思うんなら連絡くらいしろよ」
「携帯、充電なくて電源切れてたんだからしょうがないでしょ」
「ハァ〜ったく、正真正銘のバカだな」
「っバカ言い過ぎ! 別に五条居なくても大丈夫だし。ほら、早く二人の所もどろ」

 勝手に何処かへ行って文句を言う所はムカつくけど、こうやって迎えに来てくれたのは感謝しかない。これ以上迷惑かけまいと離れようとするが、突然くらっとする身体を再度支えた彼は、背中を優しく撫でたまま離さなかった。

「まだ治ってねーだろ。そんな簡単に戻るもんじゃねーし、このままじっとしてろ」
「……よく知ってるね」
「傑が、前に過呼吸なった非術師にこうやってたんだよ」
「そっか」

 ごめん、迷惑かけて。と言いたいのに、胸につっかえて出てこない。多分、声に出したら溢れるものは言葉だけじゃ済まないだろう。それに彼が背中をさすってくれるおかげで、少しずつ気分がよくなってきた。流石夏油の知恵袋。

「オマエも体調悪ィなら行く前に言えっつうの」
「別に、体調悪かったわけじゃない……」
「じゃあ何だよ」

 皆に迷惑かけてばかりで消えたくなった、とか本人の前で言えないじゃん。無言になる私に溜息をつく五条の背中を、思わずぎゅっと握りしめた。

「別に、言いたくないなら無理して言わなくていいけど」
「笑わない……?」
「ああ? この後に及んで笑うかよ」

 逆に怒るっつうの。と言いながらも、いつもと変わらない声のトーンの五条は、多分気を遣ってくれているんだろう。

「たまにそうやって心の奥隠してるの、なんとなく理解してる。前に母親の話した時もそーいうツラしてたし、昨日あたりからおかしいなとは思ってた」

 そういうツラって……結構わかりやすいって事なのかな? でも思慮深い一面を見せる彼に黙っておくのは何だか申し訳なく、笑われてもいいから本当の事を伝えたくなった。

「私……五条に、みんなに一つ嘘ついちゃったの」
「ンだよ」
「……花火、本当は見てないんだよね。子供の頃、花火大会で迷子になっちゃって。おじいちゃんと会った時にはもう終わってて……それで、お母さんが居なくなったときのこと、思い出して、三人とも、来ないんじゃって、私なんか、居ない方がっ」

 言葉を紡いでいくと同時に涙が溢れる。抱きしめてくれたままで良かった。こんな事で泣いてるなんて術師失格だし、不細工な泣き顔見られたくないから。なのに彼はいつもの調子で貶したり意地悪をする様子は全くなく、その感じがこそばゆい。夏のそよ風に浸る中、遠くで花火が打ち上がる大きな音が聞こえてきた。

「あ……」
「花火、始まったな」
「ご、五条、私もう大丈夫だから。先に硝子達と行ってて、後で行くから」

 あれだけ楽しみにしてたんだ、空に打ち上がる大きな花を彼が見たくないわけがない。だが、抱きあう身体を緩めた彼と向き合うと、なんとも不機嫌な顔をしていた。

「はあああ〜?! オマエさっき言ったよな、俺達がオマエを見つけに来ないかもって。でも俺はバカなオマエを探して、見つけた。居ない方がいいだぁ? ンな事思ってたら、出会った時に高専に連れて行こうなんて思わないっつーの!!」

 そういえば五条と出会った時、呪霊に襲われていたのに不思議と死の恐怖は無かった。祖父もいない、大切なものが何も無いのに、ただ死に方が分からなくて生きていた。そんな私に、五条は手を差し伸べた。だけど私の祖先は五条のお家にとんでもない事していて、嫌われて当然だというのに恨みを晴らすような酷い事をされるわけでもなく「祖先は祖先。オマエはオマエだろ」と術師になると言った私を受け入れ「一緒に地獄を楽しもうじゃん」と笑って迎えてくれた。なんでそんなに優しいのよ、ばか。
 彼の言葉に「ごめん、ありがとう」と素直な気持ちを吐き出し涙ぐむ私を見て、五条はふざけた顔で「最初からそう言えって、不細工」と笑った。

「弱いくせに歯向かってくんのはうぜーけど、連れてきたのに見捨てるつもりはねーよ」

 何も考えずに楽しそうだけで高専に連れて来たと思ってたけど、今思えば五条なりに色々考えてくれてたんだ。

「それにアイツらも別行動しよって連絡来たし。オマエもまたこの人混みの中進むのはキツイだろ」

 五条は携帯のメール画面を私に向ける。メールの送り相手は硝子からで『あの子をちゃんと探して見つけること! 人混みが苦手だろうから今回は別行動な。あの子に会ったらファイトって伝えておいて』と書かれていた。なるほど、硝子が気を利かせてくれていたのもあるのか。彼女のいうファイトは多分、五条にアタック頑張れって事なんだろう。今はそれどころじゃないけど、でも五条が色々私に対して気遣っていた事が知れてよかった。

「でも花火ここから見れないし、やっぱり会場に戻ろうよ」
「それがさ……あ、そうだ。ちょっと待ってて」

 何かを思いついた五条は私に待つよう声をかけるが、身体が無意識に動き、五条の服の裾を掴む。行かないでと縋りついてしまった手をとっさに戻すが、その手をさらに彼が上から掴んだ。

「すぐ戻るから。つーかオマエもここから動くんじゃねーぞ」

 約束だからな! と言い放ち、来た道を戻っていく五条の背中をただぼうっと見つめた。なんだか、こんなに五条がかまってくれるなんて夢みたいだ。いつもなら勝手にしろとか、俺はこっちだからと放ってどっかに行くのに。
 遠くの方からドン、ドンと胸に響くような音が聞こえる中、彼の言う通りにじっとベンチで待っていると、走って戻ってきた五条は氷と書かれた発泡スチロールのカップを両手に持っていた。

「え、かき氷?」
「せっかくだしそれ食べながら見よーぜ。夏の風物詩ってやつ」
「でも見ようって何処で」
「さっきいいとこ見つけたんだよ。って事ではい、これ持って」

 片手にブルーハワイのかき氷、片手にはいちごのかき氷を持つと、五条は私の腰に手を回して抱き抱える。そのまま重力が消え、突然の浮遊感に思わず彼の顔に抱きついた。

「ひゃっ!? ちょ、何してっ」
「何ビビってんの? つーか無い胸顔に押し付けられても困るんだけど」
「ば、ばかばかばか!」
「しっかり捕まってろ、落ちても知らねーぞ。あ、かき氷落とすなよ!」

 言われなくても、落とすもんか。これ以上弱い所見せるわけには行かない。
 ふわふわしていた感覚は突然、飛ばされたかのように空気が一変し、気づくと電波塔の吊り足場にいた。足を地面について正面を向くと、目線と同じ高さに真っ黒なキャンバスに大きな花が打ち上がった。

「おーいい眺め。流石俺、穴場見つけるの上手いわ〜」
「ちょっと、ここって入っちゃいけないとこでしょ。てか術式使うなんて!」
「別に人に見られてないからいーだろ。オマエもここなら落ち着いて見れるだろうし」

 確かにここなら人の五月蠅さも無い。先程までのもやもやも何処かへ消えて、ただ大きな花火が目に焼き付き、打ち上がる音とともに胸に響く。座ろうぜと足場に腰を下ろした五条は、私が持ってたいちごのかき氷を指差して「それ俺の」と言ってきたので渡した。

「五条がいちごなんだ」
「気分悪いなら爽やかな感じの方がよくね? いちごがいいのかよ」
「ううん、ブルーハワイの方が好きだよ」

 ブルー色のかき氷をスプーン型のストローで一口掬って食べると、冷たい食感が口の中に広がる。夜とはいえ、むしむしした真夏の暑さにこの冷たさは気持ちいい。

「つーか傑の話だと全部同じ味って言ってなかったっけ」
「そういえば……でもブルーハワイからいちごの味しないよ?」
「それ一口くれ、俺のもやるから」

 あーと大きな口を開け、食べさせろと言う彼に対して思わず驚いて声が漏れる。な、なななんだ、なんでこんなに今日フレンドリーなの?
 かき氷を掬って彼の口に入れると、少し悩んだ顔をして「いや、同じじゃね?」と言い放ち、同じように私にかき氷を掬って口元までもってくる。あーんされてあーんしてもらうなんて、これは多分神様が今日だけくれたご褒美なんだろう。私の味覚はいちごかブルーハワイかなんて見当がつかない程、それどころじゃなかった。

「わ、分かんないけど……でもなんかいちごの感じする」
「はー? オマエの舌、おかしーんじゃねーの」
「はあ? 五条が味オンチなだけでしょ」

 べぇーっと舌を出して悪態をつくと「ほら、オマエの舌色変わってんぞ」とバカな顔をして舌を出す五条の舌も紫色になっていて「五条だって舌紫色だよ」と言えば、なんだかおかしくなって二人で笑い合った。
 視界の端に大きなしだれ柳の花火が夜空に打ち上がる。それは今までの不安や恐怖がちっぽけに思えるほど綺麗だった。


 父が亡くなって、母が居なくなり、一緒にそばに居てくれたおじいちゃんが居なくなって、一人の私の前に現れた王子様は、沢山の仲間を私に教えてくれた。
 今でも五条家の関係には大昔の因縁が未だ壁を隔てていて、これ以上の関係を望むのも前途多難の道だ。彼を好きになった気持ちもずっと諦められなくてモヤモヤしている。叶う事なら彼が私を支えてくれたみたいに、私も貴方の支えになりたい。認めたくはないけれど彼の言う通り弱いのは事実だし、強くなって、いつか彼と一緒に闘えるようになってみせる。色んなモヤモヤを考えるのは、出来た後でいい。だって私には頼りになる仲間がそばに居るから。

「五条、私を見つけてくれてありがとね」
「あ? なに、花火の音で聞こえなかったんだけど」
「うるさいばーかって言ったの、ばーか!」
「ああ? ばかはそっちだろ、ばーか!」

 大空に打ちあがる花火のように大きな花を咲かせ、彼の隣で闘える術師になろう。