今度こそは貴方を幸せに。


※現代パロ



「名前、この前のコンプラ研修のテスト結果、補習の連絡が来てたよ」

バックヤードに私を呼び出した店舗リーダーの夏油さんは、たいそう不服そうな顔をして私を見た。

「えっ本当ですか?!やっちゃった〜どうしよ」
「……はぁ。名前、正直に言いなよ」
「夏油さんそんな怒った顔しないでくださいよ!次こそ合格しますから!」
「君……わざとだろう?」

バレた。まさか疑われるとは思っていなかった。
ネットワークサービスを提供する販売員の私達は半月に一度、講習がある。お客様の個人情報はもちろん、サービスを提供するにあたって法的な間違いをしてはならない。けれど研修の途中で飽きて寝る人間も居る為、原則として理解出来ているのか最後にはちゃんとテストがある。
しかし私は、わざと赤点になった。……でも、わざとなんて誰にも分からないはずだった。

「な、何言ってるんですか違いますよ!わざと赤点になるなんてどんなメリットがあるんですか!あの時は……つい居眠りしちゃって、」
「君が研修中に居眠りしてたなんて報告はあがってないよ。寧ろ熱心に聞いてたと聞いた」
「えっと……あ、もしかして回答用紙一つずらして書いちゃったかも?」
「回答を見る限りそうは見えないね」

頭の中で浮かんだ嘘をつくが、どれもこれも夏油さんに論破されてしまう。…咄嗟についた嘘はもう浮かば無いし、いつも優しい夏油さんが怒っている雰囲気を出す今、目を合わせるのが怖い。
……私はただの平販売員だ。そんな怒らないでよ。

「君がお客様に対してコンプラにしても、サービス面に対しても、不安がないよう満足いく提案してるってのは知っているし、お客様からも君に対して評価の声を頂いている」
「…あ、ありがとうございます」
「…だからこそ、君がこんな事で追試になるわけがないんだよ」

憮然な表情を見せながら私がわざとやったという謎を解いていく。しかし何故私がこんな事をしたかまでは理解出来ないだろう。証拠を提示されていないのに、こんな所で真実を打ち明けるのは嫌だ。未だ否定の姿勢を見せる私に対して、夏油さんは差し入れで貰った缶コーヒーを飲みやれやれと言わんばかりにまた溜息を吐いた。

「……補習は明後日、仕事が終わった後に集まって管轄の事務所でやるらしいから。行くように」
「わかりました」
「ああ、それと。今日後で悟来るよ。店舗視察の見回りにね」
「え」
「君が会いたかったのは悟だろう?」

掴み所のない笑顔を見せる夏油さんは……すでにこの謎を解いていた。


***




「お疲れサマンサ〜!名前ちゃん研修以来だねえ。聞いたよ、補習だって?」
「お疲れ様です!えへへ……テスト、ちょっと書く所間違っちゃって……」

夏油さんの言う通り、五条さんは夕方に店舗に顔を出した。バックヤードで事務作業を行っていた私に声をかけて来た五条さんに苦笑いで弁明した。なぁにがえへへだ。一向に反省していないような口調になってしまった。

「あ〜そうなんだ!だよねぇ。この店で一番売上上げてるの名前ちゃんだし、おかしいと思ったんだよ」
「いえ、私なんてまだまだ…。…私、昔の五条さんが出した売り上げを超えるのが夢なんで」
「あははそうなのー?嬉しいなあ」
「悟、この前のイベントの売上凄かっただろ。インセンティブの数字見て驚いたよ」

五条さんと話し合っている最中、いつの間にかバックヤードに入ってきた夏油さんは口を開いた。

「えっ、そうなんですか?!」
「まあね〜〜」

五条悟は昔、私がいるこの店舗で働いていた同じ販売員だった。彼はお客様から物凄く評判が高く、上司からも途中から評判がとても良い。途中からというのは、五条さんはよく販売サービスに対して不満をビシバシ上司に叩きつけていたからだった。しかし、お客様から評判が良い事は憎めないし、使いにくい分かりづらい、もっと効率よく分かりやすくするべきだ、と文句と共に彼が考え出した改善案を元に改良すればもっと良いサービスが生まれたのは事実。
そして三年前、五条さんは販売員から管轄の営業マンへと出世した。私がここに勤務する事になって半年後の事だった。
研修中だった私の五条さんの第一印象は面白くて優しい頼りがいがある素敵な人という好印象。クレーマーにぶち当たった時もどう対処して良いか分からず、怯えていた私を慰めてくれた。ナチュラルに対応を代わってくれたお陰で難を逃れ、クレーマーはその後店舗には来ないように対応してくれた、私のスーパーヒーロー。笑顔で弱みを見せない彼はとても輝いて、そのスーパーヒーローに私は恋をした。
しかし彼に告白する勇気も出ず、いつの間にか店舗を去り、会える機会があればいつもと同じ様に接する、ただの先輩と後輩の関係から進歩する事が出来なかった。
月に一度か二度この店舗へ視察へ来るが、五条さんが担当している店舗ではないので私は五条さんが居る管轄の事務所へ行く機会が舞い込んでくれば率先して手を挙げる。営業マンだから事務所に毎回居るわけではないのは分かっているけど、会える確率が高いのであれば行動に移すのがモットー。
五条さんがこの店舗へ視察に来る理由は大親友である夏油さんがいるからだ。二人は学生の頃からの親友らしい。…でも、その夏油さんももう少しでこの店舗から居なくなる。

「傑、これ誓約書。やっと傑も上に出世する気になって嬉しいよ」
「私は身近な所で仲間を応援したいからね。まあ名前も一人前になったし、そろそろ任せて良いかなと思ったんだよ」
「私は夏油さん居なくなるって考えたら不安ですよう」
「今の君なら大丈夫さ。それに担当エリアはここも入る予定だから、サポートするよ」
「え、そうなんですか?!良かった…!」

夏油さんは五条さんと同じ管轄の営業マンになる。担当エリアでの店舗の営業や販売員のケアもしてくれる大切な役割。今までは家入さんという美人の女性が担当だったのだけど、変わるんだ。

「夏油さんがここの担当になるとしたら家入さんはどうなるんですか?」
「ああ、硝子は悟の担当エリアを受け持つよ」
「え、じゃあ五条さんは?」
「僕、本部移動になるんだよねえ」
「…えっ?!?!」

照れるように頭を撫でる五条さんの言葉に気が動転する。本部勤務になれば、今管轄している場所だけでなく、日本全体…いや世界全体を受け持つ事になる。夏油さんがここに来なくなったら五条さんも来なくなるのに、本部勤務になってしまえばそれ以上に会えなくなるのは当然だ。
…それはやだ。どうにかして本部に行く前にもう少し近づいた関係になりたい。どうすれば、どうすれば………あ。

「じゃ、じゃあ今度の夏油さんの送迎会、五条さんも来ますか?五条さんの送迎会も兼ねて!」
「え、送迎会なんてやるの?傑愛されてるねぇ」
「悟が営業になる時にも送迎会やっただろう。…私は良いよ、一緒にやっても」
「うーーん。…そうだね傑と飲むのも久しぶりだし、行こうかな」

よし!場所と時間は作れた。後は私が想いを伝えて近づく権利を貰うだけ。夏油さんには少し申し訳ないけれど、あの発言しかり私の気持ちは理解しているようだ。けれど反対するような素振りはしないし、これは応援していると受け取っていいんだろう。あと一歩、あと一歩頑張れ私!

「あ、あのっ!五条さんライン教えてくれませんか?…送迎会の場所とか、私幹事なので伝えます」
「あれ?僕名前ちゃんのライン入れてなかったっけ?」
「仕事用のラインは知ってましたけど、営業になってから仕事用のライン消してたじゃないですか」
「あ〜そっか!ごめんごめん。営業になってからまた新しく携帯配備されててね、忘れてたよ」

謝りながら笑う彼の顔にニヤけそになるが平静を保つ為に深呼吸して意識を逸らす。五条さんは自分勝手な所があるけれどそれを打ち消すくらい顔が良い。…性格も、もちろん嫌いじゃないけれど。
スマホを取り出した五条さんはラインのQRコードを見せてきたので、すかさず自分のスマホでラインを起動して読み取ると、五条悟の名前と共に大福の写真がアイコンが表示された。

「だいふく…?」
「ああ、喜久福っていう大福だよ。食べた事ない?」
「無いです」
「美味しいよー?そうだ、本部に入ったら研修あるんだけど東北の方だったから今度お土産に買ってくるよ」

そ、れは。本部に行っても、このお店に…私に…会いにきてくれるって事なんだろうか。死ぬんじゃないんだし一生会わないわけでは無いけれど、この小さな約束がとても嬉しかった。
勤務終了後、家に帰って【今日はありがとうございます!】と、いつも使っているウサギのスタンプを送れば、【お疲れ様!】と、生意気そうなサングラス猫のスタンプが送られてきた。
ふふ、五条さんっぽいなぁ。


***




あれから送迎会の場所や好みの食べ物を聞き出す為にラインを送っては、脱線してどうでもいい会話を続けて毎日五条さんと連絡を取り合っていた。
私のノリに乗ってくれるトークのやり取りから、少しずつ距離を縮めれた気がする。これは一度、告白してみても、脈アリなんじゃないだろうか。
…なんて、少し自意識過剰になってしまうくらい五条さんは世間渡りの上手い方だった。こんな小まめに連絡くれたり、おはようやおやすみ、お疲れ様や気遣ったメッセージを送られると、勘違いしちゃうじゃんか。





送別会当日。仕事を終えて送別会の場所となる居酒屋へ行き、私は見事に五条さんの隣を勝ち取った。向かい側には夏油さんと、担当の家入さん。五条さん側ではない私の隣には、最近入ってきた伊地知君が座った。
五条さんは伊地知君がお気に入りなのか、店に来ては彼に意地悪をする。そんな五条さんに疲れた様な顔をする伊地知君をよく見かけた。いいなあ好かれてて。
しかし伊地知君は五条さんとは関わりたく無いらしく、私を隔てた。まだまだ店舗へ入ったばかりだし、後輩達は後輩達で楽しむのも良いだろう。

「では、夏油さんと五条さんの出世を祝って!かんぱい!」

幹事の私が乾杯の合図をすれば、運ばれた酒の入ったジョッキを皆で打ち付けて一気に酒を体に流し込む。
っはぁーー!!やっぱり仕事終わりのビールは最高っ!疲れが解放される気がする。

「いい飲みっぷりだねぇ、お酒強いの?」
「普通だと思います。やっぱり日頃の疲れはお酒で中和するに限りますね」
「へえ、いいなあ。僕、下戸だから全然飲めないんだよ。羨ましい」
「えっ、そうなんですか?!強いと思ってました!」

そういう五条さんはメロンソーダの入ったジョッキに口をつけた。そういえば、前に、五条さんの送別会をした時もウーロン茶飲んでたっけ。あの時は近くに座ることさえ出来なかったから、飲めないなんて知らなかった。

「全然飲めないと酔いは楽しめないですよね。五条さんは疲れってどうやって発散してるんですか?」
「発散ねぇ。こうやって可愛い子と一緒に居る時間が日々のストレス発散かな?」
「可愛っ…?!」

不意に褒められて言葉が詰まる。不意に五条さんはこうやって甘い言葉を伝えてくるので毎度毎度勘違いしそうになるのだ。現に、いま、とても、顔が熱い。

「ふふっ、かーわいっ」
「悟、名前を苛めるのもそれくらいにしてやれ」
「えー?傑だって苛めるの得意じゃん。女の子がこうやって赤くなるのを見るの楽しいでしょ?この前もさあ〜本部に行った時に受付の女の子が失神するくらい赤くなっちゃって面白かったよ」
「クズな発言を堂々とするな」
「そういう硝子は全く僕に赤くならないよね」
「お前に一ミリも惚れる気はしないな」

私を庇う夏油さんの傍ら、大人な雰囲気を醸し出す二人は側から見ればとてもお似合いだった。一歳しか変わらないのにこんなにも大人びていて少し悲しい。惚れる気はしない、と言っていた家入さんの言葉が信じられなくて、もやもやと心が居心地が悪い。もしかして本当は付き合ってたりとかするんじゃないのかな。そういえば五条さんの恋愛話は全く聞かない。女の子に言い寄られていたとか、ナンパのような軽い話はするけれど、恋人や奥さんが居るなんて話は一度も聞いたことがなかった。
もし居たらどうしよう…やだなあ、しんどい。


**




あれから何を喋ったのかよく覚えていない。お酒を煽っていつの間にか寝こけていたらしく、気づけばお開きの時間になっていた。
…うっわ、私のばか。チャンス全逃ししてどうすんだ。
でも、叶いそうにないこの気持ちが辛い。もうこのまま片想いで終わらせても……いや、違う。叶わなくてもいい。あなたのおかげでここまで成長出来たんだって、伝えたい。

「名前ちゃん大丈夫?立てる?」

いつの間にか五条さんの肩に寄り添って寝ていたらしく、近づいた顔に反応して顔が熱る。そんな私の顔を見て誤解した五条さんは、私に「顔赤いよ、とりあえず水飲んで酔い覚まそうか」と水を渡してきたので、有り難くいただくことにした。お酒の酔いなんて、もうとっくに醒めてるんだけどね。

「…すみません、ご迷惑かけちゃって」
「これくらい大丈夫だよ。それよりもちゃんと帰れる?お家何処だっけ」
「東区の方です。あの最近出来たショッピングセンターの裏手の方です」
「へえ、じゃあ家近いじゃん。一緒に帰ろっか」
「へ…いいんですか?」
「うん?こんなヘロヘロに酔っ払った女の子、一人で帰らせるなんて出来ないよ」

微笑みを向ける五条さんに、更に胸が高まる。こんなに優しいと一人で舞いあがっちゃって、後で地獄に落ちるくらい後悔しそうだ。でも今日集まった人達の中には生憎同じ方向に帰る人が居なかったから、それはそれで嬉しかった。


終電に乗って、近くの駅で降りた。ここの駅から家までは徒歩で10分くらい。もしかしたら五条さんの家が駅近ですぐに離れ離れになってしまうかもしれない。

「最近僕もこっちに引っ越して来たんだけど、中々住みやすいよね」
「五条さんの家は何処らへんなんですか?」
「ああ僕のマンションあれだよ」
「あれ、ですか」

彼の指差す方向を見上げれば、駅のすぐ隣に佇むオシャレなマンション。えっ嘘、マジで駅近じゃん…めちゃくちゃ良い所住んでるなんて流石。…てか告白するタイミングないじゃん、終わった。今するしかないのか?!

「僕の家は置いといて。ちゃんと送るから安心して」
「へ……あ、ありがとうございます」

レディファーストもお手の物だ。でも送って頂けるのであれば私の決心を話す時間はある。しかし、こう本番となると緊張するなあ…でも、今を逃すと本当に最後になるかもしれない。心臓が痛くなる一方、そういえば、と五条さんは帰路を歩きながら口を開いた。

「そういえば灰原の事ありがとう。来月から復帰してくれる事になったよ」

灰原君は同じ販売員の、五条さんが受け持つ私とは別店舗の販売員。同時期に勤めだした事もあって研修で一緒になる事もあり仲良くなった。そんな彼は、とても繊細な人だった。
彼が私の店舗へフォローへ来た時、タイミングが悪くクレーマーがやってきた。難癖のあるクレーマーで、いつも夏油さんが対処してくれるはずが、その日に限って休みだった。
何とかそのクレーマーを対処した灰原さんは、それから落ち込んで心の病気にかかってしまったのだ。そんな彼を失いたく無くて電話やLINEを取り合っていたのだけど、この前やっと復帰すると連絡をくれていた。

「いえ。灰原君は悪くないですし…あの時クレーマー処理を任せてしまった私にも責任があります。自分の店舗なのに、クレーマーが怖くて逃げた私は…まだまだ未熟なんです」
「そうかな。昔はさ、経験も少なかったし嫌な事や逃げたい事からすぐ逃げていた印象だったけど、最近の名前ちゃんは克服しようとしているのがよく分かるよ。大事なのは成長さ。過去から逃げ回ってるより、とってもかっこいいよ」

私の担当でも無いのに五条さんは私が欲しかった言葉をいつもくれる。……確かにあれから嫌な事や苦手な事から逃げずに受け入れて立ち向かった。傷つこうが、灰原君が病むまで追い込んだのは私のせいでもあったて、それを乗り越える為に…こんな人がもう出ないように頑張ったとは自分では思っていても、他の人から褒められる事は早々無かった。でも、今日、今ここで言われるのは、ほんとうにズルい。

「……そんな事、言わないでください。これ以上言われたら意識してしまいます」
「……名前ちゃん?」
「私は、五条さんみたいにお客さんからも同じ仲間からも頼れる人間になりたくて……でも、これはただの憧れじゃなくてっ……好きなんです。五条さんの事が…好き、なんです」

吐き出すように出た言葉は、思っていた告白よりずっと不格好で、伝えることで精一杯だった。
思えば五条さんと付き合うなんて烏滸がましくて側から見てお似合いとは言えないような立ち位置と不恰好な容姿の差。無理だ……でも、五条さんのそばに居たい。
心臓の音がうるさい体のまま、背の高い五条さんの顔を見上げると驚いたのちに哀愁をおびた表情をこちらに向けた。





「……ごめんね」

その言葉を聞いて、雨が降り続く窓の外のように視界がぼやけた。まさか泣くなんて思ってなかったけれど涙は瞳からぼろぼろ溢れ出し、現実を叩きつけられた言葉は思っていたより胸を抉る。
……分かっていたのに。それでも良いと思っていたのに…予想以上に辛い。
しかし、五条さんはこちらに近づいてきて、すっぽり私を包み腕を背中に回してきた。
言ってる事とやってる事、意味わかんないよ五条さん。

「まさか、君がまた僕を好きになってくれたなんて」

ボソリと呟いた言葉に、また胸を締め付けられる。なんだ私が五条さん好きなの前から知ってたんだ…。それならチャンスがありそうなんて、LINEをこまめに返したりだとか、優しくしてくれたりだとか、送ってくれたり……こうやって抱きしめたり、慰めて欲しく無い。

「ちゃんと五条さんの気持ち、聞けて良かったです。でも、私みたいにチョロい女も居るんだから、抱きしめたりしちゃだめですよ」
「……そんなつもりは、無いんだ」

矛盾を醸し出すような彼の言葉に引っかかるが、これもナイスガイな性格のせいだろう。しかし皮肉を言ったが元々はチョロい人間の私が悪い。こうやって気持ちを他人に押し付けるなんて、最低だ。
……でも最低でいい。振られるなら、思いっきり振られてやる。
温もりが伝わる胸板を押して距離を作る。……抱きしめられた身体を絡める資格は私にはないのに、そんな辛そうな顔、なんでしてるんですか。

「私、五条さんが振った事を後悔させるくらい、凄い人になってみせますから。後悔しないでくださいね!だから、五条さんも幸せになってください」

出来れば私が、隣に居て幸せにしてあげたかった。彼と同じくらい凄くなれば、いつも笑顔な五条さんの裏に隠れている弱さが知れると思った。きっと五条さんの事だから、一人で抱え込んでるに違いないのに。…けど、五条さんを支える事は私には無理だった。それなら苦しまないように、私が五条さんより上に行くんだ。

「私、もう家すぐそこなんで。……送ってくださってありがとうございました……さようなら!」
「待って、名前っ!!」

いつも優しく呼んでくれるその声が、今日初めて呼び捨てされたはずなのに何だか懐かしい気がした。
…でも、もう会わない。次会う時は、私がもっともっと上に立った時だ。

ばいばい。次会う時は、もっと近くて上の場所で。
……だから待ってて。

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