01訓







人生っていうのは、思ってたより途轍もなく長い。長いんだったら楽しんで幸せになってやろうじゃないかっていうのが、私のモットー。色々やってきた、幸せのために。
色んな人に手を借りながら人生を歩んできたが、私はアンラッキーガールらしく不幸せな事ばかり起こる。でも、周りの助けがあったからこそ、今の私が居て、生きているのだ。
時に、幸せの為だったら何でもやるが、いつも空まわりのような人生を進んでいるような気がして、これで良かったのかたまに不安になって、少し立ち止まる事はある。

しかし、強制的に立ち止まってしまわなきゃいけない時もある。
何故なら、仕事先が、店が、潰れた。
大変困った事になってしまった。昨日までいつもと同じように働いていたコンビニが跡形もなく消え去っていた。明日からどうしよう…生活が出来ないじゃん。……あぁ、未来が見えない。

困り果て連日ハロワに通って求人を漁っていると、【女中募集!住込可能!家事炊事掃除洗濯が大好きな方募集!公務員の働く高収入の職場!】という私にピッタリな求人があった。
えー?!この仕事内容でこの給料?!しかも住み込みで良いって家賃もかかんないし最高じゃん!と即面接を申し込んだ。
もしかして私アンラッキーガールじゃなくてラッキーガールなのでは?

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場所は、真選組屯所。

「てなわけで働いた分貰えるのであれば、住み込みでいつでも駆けつけます!よろしくお願いしますっ」
「ハイ、採用ゥ〜」
「えっ本当ですか!ありがとうございます!!」
「ちょっ!?ちょっととっつぁん?!決断早くない?!」
「馬鹿いえ男なら返事は三秒もいらねぇや、一秒でいけ」
「一秒は早いよ!?早すぎるよ?!」

真選組屯所にある取り調べ室で面接は行われ、面接の対応は局長さんと副長さんと聞いていたが、何故か丁度鉢合わせた警察庁長官殿らしい松平さんまで参加することに。黙っていた副長さんはタバコに火をつけ、煙を吐き出した。

「近藤さんの言う通りだ。しかも大体女中はおばちゃんばっかだろ。こんなガキにむさ苦しい現場の仕事出来んのか?」
「おばちゃんばっかだから若い子も入れねェと男腐っちまうだろォよォ」
「それもそうだな…」
「いや腐んねぇよ!何納得してんだ近藤さん!」
「あの、お言葉ですが副長さん。今まで様々な仕事をこなしてきたのでお役に立てるかと」
「そりゃ履歴書みりゃ分かるが、何でこんな転々としてんだ」
「私、自分で言うのもなんですがアンラッキーガールみたいらしくて、よく働いていたお店が閉店しちゃうんですよ。お店が潰れたり、火事にあったり、店長が夜逃げしたり。この前辞めた所は…そう、真選組の一番隊の隊長さんがバズーカぶっ放したせいですけどね」

笑顔を向けて副長の方を見て説明すると、あの野郎…!と頭を抱えていた。
そう、私の仕事場は真選組の一番隊の隊長さんが攘夷志士を追っかけている途中に間違えてバズーカをコンビニに向けて打ち、崩壊さてしまったらしい。
真選組側から店の修理代は払うと言っていたらしいが、店長ももう歳だし店を閉めようと思うと強制的に辞めさせられ、今に至る。
別に根には持ってない。何故なら、こんなにも自分にあった仕事が見つかったのだから。
その経歴を伝えたからか、副長さんも「まあ…それは申し訳ねェが」とボソッと呟いた。

「それに私、元々鍛冶屋の娘として生まれましたので、むさ苦しいのには慣れてます」
「ほォー!それじゃあ刀にも詳しいってわけか!」
「あ、いえ…刀鍛冶を営んでた父が生きてた間はよく仕事を見てましたが亡くなってからめっきりなので、詳しくはないですよ」
「そうか…色々大変だったんだな……よし!じゃあ採用!今日からよろしくな!」
「えっ、本当ですか?」
「オイ、いいのか近藤さん」
「いいじゃないか、この子も苦労して生きてきたんだ。困った時はお互い様だ。住み込みなのは緊急な時にも助かるし、若い子が入れば隊士達も喜ぶだろうしな!」
「んじャ、よろしくゥ〜」

はっはっは!!!!と元気な笑い声を上げる局長さんと陽気な長官殿のおかげで、なんとか女中として、働ける事になった。





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住み込みで働く事一カ月。
他の女中さんらが退勤した後の業務もやる事になっているので、急な呼び出しには困惑するが、今まで積み重ねてきた経験のおかげでなんとかやれている。女中の先輩達は年齢的にも年上だけど、優しい人ばかり。真選組の人達も男ばかりでむさ苦しいが、元気で優しくて面白くて、良い人達ばかり。ストレスの無い楽しい生活が送る事が出来ている。今回こそ、とてもラッキーな職場に出会えた。



しかし難点が一点。
ちょっかいをかけてくる邪魔者が一人。



「オイ名前、起きろィ」
「…なんですか沖田さん…こんな夜中に…」

夜、目を開ければ枕元にしゃがみ込む沖田さんが居た。布団の近くに置いてある時計は2時を指している。

「焼きそばパン食いたくなったから買ってこいよ、あとジャンプもな。日付変わったから置いてんだろィ」
「…沖田さん、私女中であってパシリではないですおやすみなさい」
「ふざけんなテメェ、ここでバズーカぶっ放して追い出してやる」
「明日朝早いんですっ、沖田さんも朝から会議でしょ?!寝なくていいんですか?」
「大体いつも会議中寝てるから関係ねェや。後から山崎あたりに聞くし」

呑気に沖田さんは居座り続け、寝ていた私の頭のつむじをぐりぐりと押してきた。
私の部屋は男性の隊員達とは少し離れた場所で部屋を貸してもらっている。女性の寝室という事もあり気を使ってか、殆どこの場所に来る隊士は居ない。だが、この一番隊隊長の男だけはズカズカとお構いなしにはいってくる。

「はぁ…今日だけですよ。いっつもいっつも何で邪魔ばっかしてくるんですか」
「そりゃテメェの存在が気にくわねぇからでさァ」
「酷くないです?」
「いつかテメェの弱点見つけて虐めてズタズタしてやりてェな」
「なんて腹黒い思考持ってんですかアンタ…」
「俺の望みはお前がグチャグチャの泣き顔しながら俺に縋り付くのを見てェだけでさァ。それが叶うまでやめねーよ」
「いややめてくださいよ?!自分にピッタリの仕事見つかって超幸せなのに!…まぁ、あたしはそこらでビクついたりしませんから、頑張ってくださいね」

布団から出て上着を羽織り、お財布を入れたポシェットを持って部屋から出ようとすると、沖田さんが私の手を取り立ち止まらせる。

「どこ行くんでィ」
「え、焼きそばパンとジャンプ欲しいんですよね?」
「…興醒めした。寝る」

沖田さんは私の手を離して立ち上がると部屋を出て行った。
なんなの、ほんとに…。まあ焼きそば弁当とジャンプ買いに行かなくて良かった。本当、沖田さんの悪戯だけなければ、とっても好都合な職場なのに。店をぶっ壊すし、破天荒な人だなあ。

けれど……もし沖田さんに弱みを掴まれてしまったら……ここには居られない。昔の話だけれどヤンチャしてきたんだ。今やってはいないとはいえ、囚われる身になってしまうだろう。
いや、そんなネガティブ精神は捨ててしまおう。
ポジティブに毎日元気に過ごしていたら、きっと大丈夫。幸せのためには何でもやる。今度こそは、そのカケラだけでも掴みたいんだ。

今度こそ、ラッキーガールに。