002

「あ、葵おはよ」
「おはよー清光」
「相変わらずお熱いことで」
「ただの腐れ縁ですぅ」

 大学の授業で使う教室に入るとそこには既に清光がいた。座ったまま手を振る彼の隣に腰を下ろすと、恒例になりつつあるやり取りを交わす。鶴丸は教室に入ってすぐ別の友人の所へと行ってしまった。別にいつでも一緒な訳じゃないし。
 清光は高校の時に出来た友達だ。異性ではあるけれど美に対して真っ直ぐな彼はサッパリとした性格で付き合いやすい。こちらも不要な気遣いをしなくていいから一緒にいて気が楽だし、きっと相手もそう思ってくれているに違いない。そうじゃなければわたしと清光が数年間も友達でいれる理由が思い付かなかった。

 清光は、わたしにとって何でも言い合える仲の一人。だけどどうしても鶴丸の事は言えそうになかった。
 ……なんとなく、気付かれていそうな気はしているけど。

「課題終わった?」
「もち。わたし真面目だから」
「真面目……?」
「真面目だけどなぁ」

 たまにサボって休むけど、ちゃんと課題は提出してるし基本的には出席してるし。授業だってちゃんと聞いてるのに。どこに疑問を浮かべる要素があるんだろう。

「あれ、清光爪変えた?」
「やっぱわかる? そ、ちょっと暗めの色にしたの」

 清光は男だけど、常に爪を綺麗に塗っている。
 だいたいが赤。たまに違う色。だけどそれがとても似合っていて、わたしは特に彼の目とお揃いの赤色の爪が好きだった。
 手を広げて新しくなった爪を見せてくれる。ムラなく塗られているそれはなんと自分でやっているそうで、初めて聞いた時はなんて器用なんだろうと感心したものだ。
 今回は本人の言う通り、前回よりも少し暗めのくすんだ赤色をしている。大人っぽい色は、とても清光に似合っていた。

「やっぱり赤色似合うねぇ」
「葵も塗っちゃえば? 俺やろうか?」
「赤似合わないもん」

 似合うのいいなぁ。自分の爪を見ながら呟く。
 わたしの爪はそこまで伸ばしていない。指より長くなると指先が扱いづらくて苦手だった。……というのは建前で、本当は伸ばしてしまったら傷をつけてしまうからなんだけど。清光にはいつもそう言っている。

「他の色でもいいじゃん。折角なんだし、就職したら出来ないんだから楽しんだらいいのに」
「うーん……」

 赤以外で想像してみても、自分の爪が綺麗な色を纏っているのはなんとなく違和感があるような気がした。


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