「ねえ見て蘭!この雑誌の特集記事」
「え?なになに」
「ここよここ!ほら、彼の事が書かれてる記事」
「ああ!鶴丸国永さん!え、嘘凄い……もう特集組まれてる」
「抱かれたい男ナンバーワン!凄い色気よね」
「突如彗星の如く現れた彼は、儚げな容姿の持ち主だが本人は明るく気さくな人物像で老若男女問わず人気上昇中。モデル活動を得てから俳優へと転身。その演技力は素晴らしく十年に一人の天才と称されるほど。ドラマに映画など彼の活躍の幅は広がりつつある…だって」
「美少年、美青年を幾人も見てきたけどこれ程の逸材は初めてよ!もう超かっこいいっていうか、美しすぎて失神する女子多数なのよ」
「確かに!この前視聴したドラマで怪盗役やってたけど手先起用で本物のマジシャンかと思ったくらいだよ」
「いいわよね〜鶴丸国永。一度でいいから会ってみたいわ」
「わかる〜サイン欲しい」
園子と一緒に芸能人の彼、鶴丸国永について語っていると教室の後ろ扉から世良さんと夜子ちゃんが飲み物を買って戻って来ていた。夜子ちゃんの転校初日は偶々世良さんはお休みだったんだけど、翌日から自己紹介を改めて互いにして、今では世良さんとよく一緒にいることが多いみたい。今だってじゃんけんに負けた夜子ちゃんに付き添って世良さんも一緒に買いに行ったくらいだもの。
夜子ちゃんに「こっちだよ」と手を振ると「蘭ちゃん」と笑みを浮かべている夜子ちゃんは不思議な子だと思う。転校して数日経ったくらいでクラスに溶け込み、いつの間にか私たちと一緒にいることが多くなった。でもそれに違和感は感じなくて、寧ろ彼女の傍にいると気持ちが凪ぐ。穏やかになれるって感じなのかな。ちょっと…いや、かなり天然な上に異性からの好意には鈍感で、安室さんのことを何とも思っていない所が逆に好感が持てる。でも園子と同じで端正な顔が好みみたいで昴さんのことは好意があるみたい。少し照れてるから。おかしいのは何故安室さんの方が女子受けがいいのに普通の態度をとっているのか、かな。もしかして夜子ちゃんって普段から端正な顔の男性たちに囲まれた生活でもしてたのかな?コナンくんのお姉さんってだけあって大人びている部分もあるから……普段は子供っぽいけど。
「何か盛り上がってたけど何の話してたんだ?」
『パンケーキの話?』
「あんたら興味ないでしょ。芸能関係」
「ああ、そっちか」
『パスで』
「ほらね。だからこの話はこれでおしまい。それより夜子、この前あのフルーツたっぷりのったパンケーキ屋にあたしを置いて行ったんだって?なんで誘ってくれないのよ!」
『ごめん…次は園子ちゃんも誘うから』
「仕方ないわね。あんたの奢りながら許してあげる」
「園子ったら」
「僕も誘ってくれよな」
この話をした翌日の土曜日。まさか……まさか、あの人が事務所の呼び鈴を鳴らすなんて思いもよらなかった。
父への依頼は然程頻繁ではない。今日は園子も世良さんも用事があって、夜子ちゃんに連絡を取っていた。
《 ごめん、蘭ちゃん。今日は家の買い出ししないといけなくて…お米とかお水とか、昴さんが車出してくれる日じゃないと駄目で 》
「それは確かに、車じゃないと大変だよね。また別の日に誘うよ」
《 ほんとっごめんね! 》
「いいよ。それより怪我は大丈夫?」
《 うん。割と治ったから大丈夫。心配してくれてありがとう 》
「お礼を言われることじゃないよ。また一緒に遊ぼうね」
《 うん!またね、蘭ちゃん 》
通話を切ると私も家の事しよう。と立ち上がり洗い物を始める。コナン君が私の通話が終わった所を見計らってやってきた。
「蘭姉ちゃんどうだった?」
「うん。それが今日は昴さんと日用品の買い物に行くんだって」
「そっか、それは残念だったね」
「仕方ないよ。夜子ちゃんも家の事しないといけないし、だから今日はコナン君に買い物付き合ってもらおうかな」
「いいよ」
「ありがとうコナン君」
洗い物を終え、手を拭いていると探偵事務所から賑やかな声が聴こえた。
「そういえば安室さんが来てるよ。ケーキのおすそ分けだって」
「そうなの?じゃあお礼言わなくちゃ」
コナン君と共に事務所へ降りて室内へ入ると安室さんがお父さんと談笑していた。安室さんもそういえば不思議な人よね。お父さんよりも余程切れ者なのに、父の弟子なんて……そして多分。このケーキは夜子ちゃんが来る前提でのもの、だったりして。ケーキのお礼を述べると安室さんは「いいえ」と気さくに対応してくれる。けど。事務所の扉へ視線を投げ来訪者を待っているかのような仕草に解っていてやっているのか、それとも無自覚でやっているのか分からない。安室さんは絶対に夜子ちゃんのこと、だと思うんだけど。じと、と安室さんを見つめていると安室さんが困った顔をして「どうしたんです、蘭さん」と逆に尋ねられてしまった。
「あ、えっとごめんなさい!あの、今日は夜子ちゃん買い物に出掛けるみたいでここには来ませんよ」
「……そうでしか。今朝はそんなこと一言も書いてなかったような気がしたんだけどな」
「(連絡してるんだ)急遽決まったみたいですよ。日用品を昴さんと買いに」
「へえー、またスバルさんですか。仲が良いですね、そのスバルさんと」
安室さんの雰囲気が急変した。思わずびくっと肩が跳ねてしまう。突然だからちょっと怖い。これって嫉妬?なのかな……でも嫉妬するってことは少なからず好意があるってことよね。じゃあなんで気持ちを認めないのかな。
安室さんへの謎が深まるばかり。コナン君に視線を向けるとコナン君は既にお父さんの方へ避難していた。コナン君って夜子ちゃんの話になって安室さんのこの態度を見ると拒否反応でも出ているのか逃げるの早いよね。
「今、紅茶出しますね」
「あ、僕も手伝いますよ。もう上がりですから」
確かに安室さんはエプロンをしていない。仕事を終えてから立ち寄ったみたい。奥へと引っ込み紅茶をの準備をしていると、探偵事務所の呼び鈴が鳴り、お父さんが対応する。
「ここは毛利探偵事務所でいいのかい」
「そうですけど」
「人探しを頼みたいんだが」
「人探し?逃げた女に弱味でも握られた口だろアンタ」
「いやいや。そうじゃなくてな。妹を探して欲しいんだ」
何だか聞いたことあるような声の人。透き通るみたいな若い男性の声に丁度用意した紅茶をお客様にも出そうと用意をすませ盆にのせて表に出たとき、私はその若い男性の姿を見て。あまりにも驚いてしまって持っていた盆から手を離してしまい。それを慌ててコナンくんがポットをキャッチし、安室さんが砂糖入れとティーソーサーを受け止め、割らずに済んだ。
「蘭姉ちゃん」
「蘭さんいきなり手を離すと危ないですよ」
「あ、ごめんなさい!」
ふたりに頭を下げていると、その若い男性はくすりと喉を振るわせて優美に笑っていた。
「慌てんぼうのお嬢さん。怪我はないかい」
「あっ、は、はい!あ、その…あなたは、鶴丸国永さんですよね?!あの俳優の!」
私は食い気味に彼に詰め寄ると、豪快に笑いながら彼、鶴丸国永さんは首を縦に振った。
「こんな可憐なお嬢さんに名前を憶えてもらえて光栄だな」
園子と読んだ雑誌の特集記事を思い出し、それが嘘のないことに感動を覚えると。コナン君とお父さんは「誰それ」と首をかしげていたが安室さんはそんな二人に解説していた。
「彼は今若い女性たちを中心に人気俳優として活動している、鶴丸国永さんですよ。女子高生あたりは彼に夢中の人が多いみたいですね」
「詳しいね安室さん」
「彼の話題をお客さん達がしていたからね」
「あのっ!サインお願いしてもいいですか?」
「構わないぜ」
気さくだわ……!そして色紙にお茶目にも鶴の絵まで描いていた。というか絵も上手すぎない?
多才だわっと感動しつつも彼からの依頼を私が父の代わりに返事をしたのは言うまでもなかった。