世間はクリスマスイベントまでのカウントダウンを逸る。信仰はないが短刀が喜ぶのでイベントをかかしたことはないが、こちらの世界では少し意味合いが違う。日頃お世話になっている人達へ何か贈れたらと思い、審神者ならではのものでも贈ろうと薬研に相談したところ。魔除けとなる天然石を使用して肌に身に着けられるものをあげるのはどうかという提案を頂いた。
私に関わる人たちは必然的に巻き込まれることがある、かもしれない。身を護るための護法を知っている訳もない現実思考の皆様のために、審神者の私が人肌脱がせて頂きます。これも審神者の修行の一環。霊力が減ってしまっても小作な技法、護法などは使用できる。私がおざなりにしてきた霊力の使用方法を薬研に教わりながら、今回は素材の天然石を選びにやってきた。
天然石や鉱石には霊力に似た力が秘められている。しかも自然に出来たものだから、害がない。力のあるものが加工して漸く厄除けとか魔除けとかになる。解りやすいのだと魔術の技法によく使用される触媒かな。鉱石などを媒体として魔力の増幅を図ったりするのと同じこと。
『結構あるね』
「今は割と加工しやすく手にも取りやすくなってるからな。品質はあまり上物とは言えないが力を映し込む分には有効のはずだ」
安価価格のものが多く取り寄せられている店内。私の手で届く値段のためお財布には優しいが質は高価なものに比べれば落ちてしまうのは当然の事。即ち薬研が言いたいのは、私の霊力の質が良ければいいという事だ。手元が震える。
「大将はこっちに来てから随分と霊力が半減してるな」
『年齢共に退行したよね』
「だが、まあ。歌と一緒で使い続ければ使用幅が広がるし、今は俺っちもいるから安心しろ」
『薬研きゅん。頼りにしてる』
「任せておけ」
黒い石が割と魔除けの効果があるらしい。それ以外にも色々とあるので吟味しながら自分の質と近いもの。似たものを選んでまとめて購入したおかげで今月は赤字だ。暫くは買い食いなどは控えよう。消えていった福沢様に祈祷をしながら、財布を鞄の中にしまい。薬研が荷物を持ってくれる。
『そういえば薬研は何を購入したの?』
「野暮用だ」
『え、めっちゃ気になる』
「大将用だから心配するな」
『にしては荷物ないけど』
「俺っちのは箱買いだから宅配にしたんだ」
『うわ……刀剣の方が私より時代の波に乗れてる』
「大将のは軽いから俺で十分だ」
と言われても。薬研は私のもう一つの荷物まで持ってくれている。将来有望株だ。そこへ見知った顔を見つけて立ち止まった。相手もこちらに気がついたのか駆け寄ってくれた。
『一期と高木刑事。どしたんですか?』
「やあ夜子さん。買い物かな…えっとそちらは?」
「彼は私の弟です」
「どうも、粟田口薬研だ。よろしくな兄さん」
「粟田口君の弟さん?!うわ……凄い美形だ」
「そりゃどうも」
薬研と握手を交わす高木刑事に私は腕を組んで頷く。そうだろう、そうだろう。うちの薬研が美しいだろう。だが美しいだけじゃなく男前なんだぜ。と親馬鹿自慢をしていた心の中で。
「ところで薬研と夜子さんはこちらまでお買い物ですか?」
『薬研とデート中』
「いち兄たちは事件か何かかい?」
「そうなんだよ。この近くの自宅で刺殺体が発見されてね。その犯人の行方を追うために聞き込みしているんだよ」
『大変ですね。それで犯人の目星などは掴めているんですか?』
「それが証言が曖昧でして。全体図は未だ視えてはいないんですよ。通り魔的な犯行の線も洗っている状態ですので、薬研。夜子さんと一緒に暗くならないうちに帰るんだよ」
「わかってるさ。なぁに心配いらない。大将は死んでも俺が守る」
『……薬研。公共の場で突然イケメン発言はやめて』
心の準備が整えていない段階で言われるとどんな顔していいかわからないから、取り合えず下唇を噛みしめ羞恥に耐えた。
「大将は恥ずかしがり屋だからな。仕方ない。じゃあいち兄と高木刑事だったか。俺っち達はまだ逢引中だからしゃれこんでるぜ」
『言い方がおっさん』
「あ、はははは……(安室さんが居たらどうなるんだろう)」
「よい休日を」
一期と高木刑事に手を振って薬研と手を繋いだまま歩き始める。一期……偶然なのかな。このショッピングモールに今、会えたことは。彼の行動は不自然さがまるでない。でもないからこそあのメールによって一気にその自然を違和感へと陥れるには十分だった。髭切と膝丸の会話もそうだ。おかしな点があった。薬研にそれを聞きたいところだけど……よした方がいいかな。聞くなら兼定にしよう。まだ薬研に話す段階ではない。まだ足りない。
「大将。俺たちつけられるな」
『え、そうなの』
「こっちだ」
薬研に引っ張られ手近な店に入り奥の方へと移動する……ってここ。下着売り場やんけ。しかも女性物だし。そして私の目の前にはEカップと大々的に記載されている布面積が少ない下着が置かれていた。いや、これ下着の意味あるのか。思わず手に取りあらゆる方向からその下着の構造を確認する。ってかメロンかよ。メロンふたつかよ。いや、小玉?小玉すいかか。私の顔より大きいぞ。こんなものを普段からぶらさげているなんて……破廉恥だ!!
「女の人は大変だな」
『これくらいのサイズだとどんだけ重いんだろう。凄く応援したい。それか胸を支えたい下から』
「大将のは足りないがな」
『サイズ的には標準だよ。昔のね。今の女の子発育よすぎなんだよ』
下着を前に談義していたら、店内の前でおろおろしている人を発見した。もしやあれかと薬研に目配せすると頷かれる。覗き見るように再び視線を向けると見覚えのある人だった。店内から出てその人の腕を掴む。
『奇遇ですね、風見さん』
そうあの応援したいお兄さんだった。
「知り合いなのか?」
『優しいお兄さんだよ』
「ここできみに会えるとは思っていなかったよ……その。場所を移動してもいいか」
風見さんが目のやり場に困ったようで私と薬研はそこから離れた場所へと移動した。
「あの……これは」
「見て解らないのか眼鏡の旦那。大将の手作り弁当だ」
フードコートの一角を借りて薬研に持ってもらっていた手提げの中から薬研に頼まれたお重箱を取り出し、広げる。
『本当は天気が良ければ外で食べる予定だったんですけど生憎の天候でしたので』
「雨男じゃないんだがな。和泉守の旦那辺りの怨念かね」
『兼定は部活の練習でしょ、今日は』
「こっちの話だから気にするな」
紙皿とフードコートに備わっている飲料水を三つ持ってきて、紙皿に料理を乗せて薬研に手渡し。もう一つ並べてから風見さんに手渡した。
『田舎の味で申し訳ないですけど。良ければどうぞ』
「大将の手料理を食うのはいつぶりだったかな。懐かしい」
「あ、いや自分は」
「大将の手料理を断るのは男としてやっちゃいけえねえな」
「……食べます」
『薬研。脅して食べさせるものじゃないぞ』
薬研の凄味に風見さんが素直に従い食べ始める。それは昨日の残りの煮物だ。薬研はおにぎりを手にもぐもぐと早くも一段空ける勢いだ。
『どうですか?お口に合います?』
「……美味しい」
『よかったです。まだあるので食べてください』
「普段から料理をしているのか」
『はい。あの人煮込み料理しか作れないので』
「そうか…久しぶりに人の作ったものを食べた気がする」
『……』
「……」
薬研と私は無言で風見さんに食べ物を渡した。
「大将の卵焼きは分厚くて一番美味いぞ」
「何層にもなっていてるな。これも美味い」
『普段からあまり食べ物も摂取出来ないくらい仕事が忙しいんですか』
「そうだな。大体忙しくて疎かにしてしまいがちだ。よく上司に怒られる」
『差し入れさせてください』
「え、い、いや……それは」
『お願いします!差し入れさせてください!!』
この人を放っておけない。見放したら何処かで野垂れ死ぬんじゃないか、真面目だから。応援すると誓ったのだからバックアップするのは当然。何かの使命感に燃えていた。
半ば強引に差し入れの許可を貰い、メモを取り出して好き嫌いな食べ物を訪ねる。メモを書いていると、薬研がテーブルに肘をつき水を飲みながら風見さんを見つめる。
「あんたなんでこんな所に居たんだ?」
「買い物を、少々」
「そんな恰好でか」
メモから顔を上げ風見さんを見ると確かに休日なのにスーツを着ていた。先ほど遭遇した一期や高木刑事と同じように。
『もしかして職業は刑事さんとかですか?』
そう尋ねると風見さんは否定する。
「まあ、どうでもいいがな。あんまりこそこそしていると、疑われるから気をつけるんだぜ風見さん」
「あ、ああ…そうだな」
薬研は風見さんに対し微笑んでいた。その美しさに周囲にいた老若男女が想到していることも知らずに。薬研って年齢層の幅が広大だな。
その後、風見さんも交えて男性の下着売り場にいた。
『やっぱり昴さんは黒かな』
「ふんどしでもいんじゃないか」
『そんな恰好でうろつかれたくないんだけど。風見さんはボクサー派ですか?それともトランクス派?』
「どうしたんだ眼鏡の旦那。そんな悩まし気な顔をして」
「しゅ……淑女がこんなところに来るんじゃない!」
何故か怒られた。
『でも、昴さんのパンツを安室さんに貸しちゃったので一枚足りなくて。あの人無頓着だからもう一枚穴空いているのに平気で穿いてるので買わないとノーパンデーが増えるんですよ』
「既にそんな日がある方がおかしい。その男は大丈夫なのか共に暮らしていて」
『嘘に決まってるじゃないですか。夜寝るときは全裸らしいですけど』
「問題じゃないか……私は君の生活が心配だ」
「案外いい奴だなあんた」
『ん〜〜やっぱりボクサーかな』
「俺っちはふんどし派だ」
『……体育の授業どうしてるの?』
「勿論ふんどしだが。何か問題でもあるのか」
『お姉さん的にはボクサーとか穿いて欲しいな(中学生でふんどししめても女子にモテるとか真のイケメンじゃねえか)』
「大将がそういうなら俺っちも挑戦してみるか。あ、ちなみに和泉守はボクサーだ」
『それは容易に想像できる』
よし、やはり黒のボクサーだな。普通に購入した。別れ際に風見さんからゴディバのチョコをプレゼントされた。やさしぃ。
夜子と薬研と別れた後、風見の背後から音も無く忍び寄ったのは彼と共に尾行をしていた髭切だった。
「随分と楽しそうだったね。羨ましいな〜彼女の手料理食べて下着売り場行って選んでもらって」
「前半は当たっていますが、後半は違います」
髭切は薬研に尾行が気づかれたので、風見を囮に早々に姿を消したのだった。
風見は別にそれに対して怒ってはいないが、ずっと何も言わずに観察されていることに苦言があった。だが、それが言えないのは髭切がこの世で最も恐ろしい人ナンバー2という位置づけであるため、風見は何も言えずにいた。
「いやぁ〜薬研は僕より隠密が得意な上に偵察も兼ね揃えた子だからね。隠れるの失敗しちゃったよ」
「我々は粟田口一期の尾行をしていたのではなかったですか」
「弟に頼んだから大丈夫だよ」
夜子の尾行をしていた膝丸に遭遇した髭切は「あとは頼んだ」と言って勝手に任務の交換を図ったのだ。風見は髭切の補佐として来ていたため致し方なくついてきたのが経緯である。
「大丈夫だよ、風見。僕の口は堅いから。ぜっったいに降谷には内緒にしてあげる」
「何をですか。降谷さんに秘密にしなければならないことはありませんが」
「彼女の愛妻弁当がこれから届くことは、ぜっったいに言わないから安心して」
「………」
みるみるうちに青ざめていき胃を抑え始めた風見を横目に、髭切は煌めく笑顔を浮かべていた。人の不幸は金平糖らしい。
「何もしなくても面白い展開になったな。これはいい。降谷はどんな顔をするのかな、愉しみだね風見」
「………」
風見は思った。自分で終止符を討った方がいいのか、それとも上司に終止符を討たれたほうがいいのか。まさにデットオアデットのライフカードが風見の目の前に立ちはだかった。