頼られ探偵助手




闇夜を駆ける白き閃光。星空の下舞うかの如く現れては煌びやかにさらう怪盗1412号。名を改め怪盗キッドとつけられたその通称を背に、一仕事を終えた彼は頬に入った蹴りに痛みを覚えつつ夜空の空中散歩をしていた。
あくまで挑戦に乗っただけの本日は、彼の経験を積むための舞台となっただけだが。

彼はふと視線を下へそそぐ。そこには闇の中でも一際目立つ水色の髪をした長身で穏やかそうな男が端末機のブルーライトによってその端正な顔立ちを浮かばせる。白き怪盗は男に注目するがその男の端末機から禍々しい漆黒の塊が生み出され、思わず目を疑ったキッドは瞬きを数度繰り返すも。姿はいつのまにか消えていた。だがその近くに育つ枝が不自然に切り落とされた。口元を動かし、風が揺れ凪ぐ。

その数メートル先には星と見まごうほどの白銀の髪を束ねる少女と、美麗な顔立ちの長髪の男と紫がかった髪を持つ美少年が片手に日本刀を備え周囲の木々が薙ぎ倒されていた。刀を片手に動き回る少年たちとその奇妙な現場に立つ少女。少女が弦を鳴らし閃光を放てばすべての音は凪ぎ、静寂が訪れる。
少女の元に少年たちが集まり会話をする中、水色の髪を持つ男はその様子を眺めている。だが、空中浮遊からの見物が同時に露見された。金色の瞳と青碧の瞳が彼へと注がれる。流石に不味いと感じたキッドはすぐさま身を隠すためにハングライダーで高く上昇しその場から急速に離れた。

彼の危機感が告げる。関わってはいけないと。いや、寧ろ……これ以上関わってはいけないと警報を鳴らすかの如く闇夜を駆ける白き翼はその羽を休める事を断念した。





■□■






朝食を終え洗い物をしながら湯を沸かしていると液晶画面の報道番組ではここ最近特番が組まれていた。蛇口を閉め水けを払い湯を止めポットに注ぎ、冷やしていたゼリーを取り出す。お皿に盛りつけトレーに乗せ、ポットからカップへと焦げ茶色を注ぐ。用意を整えるとトレーを両手で持ちながらテレビを見ている昴さんの元まで行きほうじ茶とフルーツが乗ったゼリーを置いた。

「夜子さんは怪盗などはお好きですか」
『そうですね。イケメンであれば何でも』
「揺るぎませんね」
『そこは大前提だと割と好きですね』
「なるほど。では彼などはあなたの嗜好に合うのかもしれませんね」

昴さんがほうじ茶を手にすする中、示された画面へ視線を流すとそこには怪盗キッドが大々的に取り上げられていた。彼の顔をはっきりとは報じられていないが意外に若そうだ。じっと画面を見つめているとゼリーに手を伸ばしパクパクと食べてはうんうんと頷きながら、咀嚼する昴さんへ視線を戻す。

『彼ってもしかしてミステリートレインの時の』
「ああ、一度お会いしたことがあるんでしたね」
『素顔と彼の本来の姿には残念ながらお会いしたことはないのですが、一度会ってみたいですね』
「イケメンキラーは流石と言うべきでしょうか」

空になったお皿を覗き、よほど気に入ったのか所望されたので立ち上がり冷蔵庫にしまってあるゼリーをもう一つ取り出しお皿の上に乗せた。

『意外とお好きでしたか?』
「のど越しが爽やかで」
『食べきれないフルーツをゼリーにしてみたんですけどお気に召して良かったです』
「果汁がいいですね」
『まだあるので宜しければ』

隣に座りほうじ茶をすすりながら報道番組はこの後も引き続き怪盗キッドの事を報じていた。そこで鈴木財閥の鈴木次郎吉相談役が出てきて宣伝を始める。どうやらまた挑戦状をたたきつけたようだ。すると携帯の着信が鳴り、家電も鳴り始める。画面を見ると園子ちゃんで私は自身の方の着信を取り、家電は昴さんが取った。

『もしも{ ぜっったいに行くわよね夜子! }

人の台詞を遮りおって何を言い出すんだこのお嬢様。

『えっと何の話ですかお嬢様』
{ ニュース観てる?! }
『リアタイで観てるけど』
{ キッド様の予告状が届いたのよ }
『じゃあ怪盗さんは挑戦を受けるんだ』
{ そうなのよ。チビガキも勿論来るんだけど、そのチビガキが夜子を連れて行ったら一発でキッド様が誰に変装しているか見抜けるなんて言うからおじさまが連れて来いって。連れてこないと出入りさせないっていうのよ!だからお願い!来て、ねえ?ねえ?? }
『やだ』

プツリ、と通話を遮断させ一切の連絡を拒否した。テレビに報道されることを避けたい私としてはそんなリスクを冒してまでキッドに会いたいとは思っていない。だから前回の時だって断ったのに。息を漏らす。ところがどっこい。昴さんの電話はコナンくんからだったようで。代わるように言われ出るとコナンくんの第一声。

{ お願いします、来てください }

初めて名探偵から土下座しているのかレベルの懇願が届いた。

『コナンくん口を滑らせたよね』
{ ごめんなさい。でも頼む!今回は蘭にオレの正体がバレそうなんだ }
『あら複雑。どうしたの?』
{ いや、ついスマホの音を切り忘れて…… }
『……はあ。わかった、お姉ちゃんが行ってあげましょう』
{ 本当か? }
『ただし、テレビには映らないように全力で守ってね』
{ 任せておけよ。ありがとな }

コナンくんが通話を早々に切ると今度は携帯が振動する。どうやら蘭ちゃんからのようで。

《 お願い。一緒に来て 》

その文面にはあ、と息を溢すと昴さんが喉を震わせた。

「大人気ですね。ワトソン君」
『ははは、私を嘘発見器みたいに。変装している人を見抜けても誰が変装をしているかの特定は出来ないのに』
「いい機会です。実際の怪盗に会ってみてはいかがですか」
『昴さんは一緒に行ってくれないのですか』
「私は前に一度彼とお会いしたので、遠慮させて頂きます」

頬をぷくりと膨らませむくれると頭を撫でられてしまう。仕方がない。兼定でも…っと携帯を片手に連絡しようとしたが、あいつはその日遠征しているんだった。剣道部も大変ね。じゃあ薬研にと連絡をとると「おう、そいつは楽しそうだな。勿論お供するぜ」と気軽に了承を得た。これで園子ちゃん用の美少年を確保したが、あとひとり必要だな。と考えていると昴さんに肩を叩かれ時計へ視線を向けると時刻は既に出勤時間を告げていた。慌ててエプロンを外し用意していたバイトのバックを肩に下げ「いってきます」と玄関を出て門を開けると携帯を片手に操作していた安室さんと遭遇する。最近この人待ちぶせているのよね。

「おはようございます。寝坊ですか?」
『違います。ちょっと色々とあって』
「そういえば電話の音がしてましたね」
『え、盗聴ですか』
「普通に窓が開いていれば聞こえてくると思うんですけど。何かあれば相談に乗りますよ」
『そうですね。最近待ち伏せている人についてとか相談してもいいですか』
「仲を進展させれば気にならなくなるんじゃないですかね」
『そっちの相談じゃない』

歩きながら共にポアロまで向かう。彼の足元を見れば贈ったアンクレットが光に反射して揺らめいている。男の人でも似あうようなデザインにしたけど女物でも似合いそうだなこの人。

「大切につけさせて頂いてますよ。そりゃお風呂から寝るまで」
『外せや』
「それで、どんなことでお困りですか?」
『……朝の報道番組観ました?』
「ええ。そういえば怪盗キッドの事で持ち切りでしたね」
『それに参加せざる終えなくなりまして』
「参加、ですか?もしかして犯罪者が好きなんですか」
『その言い方やめてもらってもいいですか』

棘があった。

「成程。怪盗キッドから宝石を守るためにコナン君の助手をきみが務めるんですね」
『ええ、やっとご理解頂けてなりよりです』

結局、ポアロに着き仕事をしながら休憩時になるこの時まで彼は理解してくれなかった。今は調度お客さんも疎らになってきたため梓さんと安室さんへ賄いを出すために、作っている最中。

「今度の宝石は青薔薇の吐息なんだよね」
『はい。ブルーサファイア。花硝子に加工されたこの世で唯一咲いた花、青薔薇と謳われた宝石だそうですよ』
「怪盗キッドってイケメンで有名だもんね」
『はぁい。楽しみです』
「顔が佳ければ何でもいいなら僕でもいいだろ」

梓さんと共に安室さんへ視線を向ける。今、とんでもないことを口走っていなかったか。あ、お湯が沸いた。と火を止めお湯をカップに注ぎ。少し冷ましてから茶葉の入ったポットにカップに注いだ湯を淹れ、器の底が深いものに煎茶を注ぎ完成した。二人の目の前に並べ小鉢を二種類隣に添える。お水を並べれば賄いの完成だ。

『今日はサーモンが残っていたので身を崩しシャケにしノリやネギなどを乗せて、お茶漬けにしてみました。お茶は煎茶です。この煎茶はお茶屋さんを営んでいるおじさまから頂いたものです』
「喫茶店でお茶漬けなんて和風カフェみたいだね。美味しそう」
『ダシ茶漬けもいいんですけど煎茶から淹れるのも美味しいかと思って』

食後のお茶にとほうじ茶の缶を持参しているので取り出し、準備を進める。勿論、自分の分の茶漬けも用意する。梓さんや安室さんは先に食べ始める。

「ん〜シャケを少し焦がして香ばしさがご飯と合う。美味しい。それに煎茶がまた濃く淹れてくれているからご飯の甘味で調和してるわ。料理上手ね夜子ちゃん」
『いえいえ、お洒落料理がひとつも作れない田舎娘なだけですから』
「でもこのお新香も美味しいよ」
『今日、小倉さんが来るのでお新香を渡す約束をしていて余ったものをお出ししているだけですし。それなんて製造者のお力だけですから私はただ野菜を切っただけで』
「でも絶妙だもの。しょうがにきざみゆずがまたいい味なの。口の中がさっぱりする。この卵焼きは?」
『先程卵割れちゃったので再利用して卵焼きに。あ、デザートもありますよ。昨日果物を沢山貰いまして腐らせちゃうのもなんなのでゼリーにしてみました。食後にお出ししますね』
「はあ…一家にひとり欲しい。私の夕飯を作って」
『いやいや』
「この卵焼きのレシピって聞いてもいいですか?」
『え?大層なレシピというものはないですけど。卵を溶きながらしょうゆを入れるんです。ほんのり色が付く程度に。そしたら熱したフライパンに薄く引くのを何度も繰り返して層を厚くさせるだけですね』
「そうですか……」
『口に合いませんでした?』
「いいえ。とても美味しいです。でも何処かで食べたことがある味だったので参考にと」
『そうでしたか。何百人目の彼女の手料理の味と同じでしたかそれは失礼しました』
「はははは、生涯きみだけを特別な一枠にお誘いしてもいいですか?」
『結構です』

ほうじ茶を淹れ、冷蔵庫からゼリーを取り出しまったりと過ごした。


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