「はあ…お茶が美味しい」
『私は京都に倣ってどの店でもほうじ茶を出して欲しいです。食後まで煎茶や緑茶を出されると悲しくて』
「そう言えば夜子さんから頂いたほうじ茶とても美味しかったです。何処で売っているものなんですか?」
『じゃあ今度一緒に行きますか?お茶屋さんのおじさまがブレンドしてくれるので』
「是非」
「(それはいいんだ)このゼリーも美味しい…今度はあんみつをお願い」
『梓さんだってお料理上手いんですから作ればいいじゃないですか』
「夜子ちゃんの方がお菓子は美味しいの。他にも食べたくなったよ。今度は私のためだけに作ってね」
『いいですよ(ん?)』
梓さんの笑顔を見て違和感を抱きつつも、持ってきてよかったと胸を撫でおろした。風見さんへの差し入れ何にしようかなと考えながらスプーンを銜えている。そこへ来訪者を告げるベルが鳴り、私の席近くまで来るとバンっと園子ちゃんが手を突いた。
「行くっていってお願い」
『うわぁ〜それは人に物頼む態度じゃない気がする』
「お願いお願い!生キッド様見に行こう。絶対にカッコいいから」
『若いお兄さんならいいけど』
「お願い夜子ちゃん。一緒に来て」
『蘭ちゃんまで…そう言われても。コナンくんに既に返事返したのに聞いてないの?』
「「 それ早く言ってよ! 」」
『ごめんなさい』
左右から大音量で責められた。くらくらと身体を傾ける。お昼休憩は終わり食器を片す。洗い物は安室さんがしてくれるようなので、私はテーブルを拭き、梓さんは珈琲を淹れている。カウンターに座る蘭ちゃんと園子ちゃん。特別にまだ余っているゼリーを出すと機嫌を直していただけた。
「本当にどんな変装をしている人でも見破れちゃうの?」
『まあ、変装しているかしていないかは。でも誰かっていう特定までは出来ないよ』
「どうやったら出来る訳それ。コツとか教えなさいよ」
『と、言われても……勘だし。なんとなく?』
「じゃあキッド様が現れたらわたしに教えてね」
『なんで』
「この手紙を直接渡すために決まってるじゃない」
『キッドはアイドルか何かなの?』
「まあ、アイドルっぽいよね」
『プレゼントボックス作ればそれも盗んでくれそうだね。目立ちたがり屋って感じみたいだし』
「それいいアイデアね。今度設置しようかしら」
「もう園子ったら」
彼女たちに珈琲を提供する安室さんは、笑みを携え園子ちゃんに向かって。
「あのそれに僕も参加してもいいですか?」
「え、どうしてですか?」
「コナン君が招待されているなら保護者として毛利先生も行かれますよね。じゃあ弟子として見学しに行きたいと思いまして」
「いいですよ。安室さんなら寧ろ大歓迎。今おじさまに連絡してくるわ」
園子ちゃんが出て行く。私は彼女の背を見つめながら「ちょっと外の掃除してきます」と言って彼女の後を追いかけると路地裏から伸びた手に口元を覆われ、腰を掴まれ引き込まれた。多分園子ちゃんに変装した人物だと思われる。暴れもしない私の様子に園子ちゃんの声で彼はこう言った。
「やはりあなたにはすべてお見通しのようですね、江戸川夜子さん」
『昼間から女子高生に変装するなんて本当に女装趣味が……』
「それは誤解だ!……コホン。男であっても女に変装出来るのが一流の怪盗たる所以です」
園子ちゃんの声から男の声へと替わる。いや、青年かな。若い声だとすると20代、いやもっと若いかも。同い年くらいかな。手を放され互いに対面する。
『それで態々園子ちゃんに変装して何をしに来たんですか。内部偵察とか?』
「いいえ、そんな物騒なことは……僕はあなたに興味があるんです。麗しの夜子嬢」
人の波が途切れ園子ちゃんの変装マスクを剥がした彼は、私にその素顔を晒した。大胆。とても若い。それにどことなく工藤新一に似ている。コナンくんの変声器から聞いたことのある工藤新一の声とも似ているな。観察するように彼を見ているといつの間にか手を取られその甲に口づけをされる。キザだ。
『素顔を晒してもよかったんですか?仮にも私は探偵の姉。あなたの素性など素顔が解ればすぐに突き止めることができてしまうのに』
「変装を見抜く目を持つあなたに偽ったところで無意味。なら初めから素顔を晒し、あなたの優しさに懇願した方が賢明だ」
イケメンフェイスで首を傾げられた。あざと可愛い。私のデータがとられている。とりあえず……イケメン万歳。
『と、いうことは何か交渉をしに来たってことですか』
「ご名答。さっすがあの名探偵のお姉様だな。話が早くて助かるぜ」
口調にも変化が…敬語口調紳士でよかったのに。平成のアルセーヌルパンジュニア。異国の匂いも嫌いじゃない。腕を組み壁に背を預けると、彼は早速その唇を軽く説いた。
「あなたには俺のアシスタントになってもらいます。もし無事に今回盗み出せたならあなたの欲しい情報を提供いたしますよ」
『私の欲しい情報を君が?』
「ああ。ほれ、この兄さんの事が知りたいんだろ」
眼前に出された一枚の写真。その写真に写る男性に目を見張る。おっと、彼は何処まで私の事を調べているのかな。恐ろしい。これは慎重に事を運ばないと。コホン、と咳ばらいをしてから唇を動かす。
『確かに私は彼の事を知りたいと思っているけど。個人情報が知りたいとかではないですよ』
「あなたが欲しいと思われる情報は“粟田口一期”についてだろ」
彼は唇に人差し指を翳し、自身のスマホを取り出し暫くすると掲げる。メモ帳にはこう書かれていた「あなたは盗聴されている」と。彼が指す方向に人の気配を察知する。物陰から誰かが此方の会話を盗み聞いているのか。軽く頷き。再度咳ばらいをした。
『よくわかりましたね。私が欲しかった情報がソレだって』
「ここ最近あなたのことを調査させてもらっていたので。それでこの交渉呑んでくれますか?」
『呑む。但し私は盗みには参加しません。あくまであなたの安全だけを保障する、それで宜しければ』
「交渉成立だ。じゃあ近いうちにまた、お嬢さん」
そういって颯爽と去ってしまった。ふぅっと息を吐いてから壁から背を離し路地から出るとそこには梓さんが立っていた。そしてこの梓さんも違う―――。
『それであなたはどちら様ですか。雰囲気から察するにベルモットさん、ですかね』
「あら、やっぱり気がついていたのね」
『梓さんにしてはバストのサイズが大きかったので(あと知人を騙せる変装の名手と言えばあなたくらいしか思いつかなかった)』
表情から笑顔が消えた。私は間違ったことは言ってないと思う。
『で、あなたは何をしに?』
「白雪姫の容態が気になって、じゃだめかしら」
『え、あ、そのげ、元気ですぅ』
「あら。かわいいわね」
グラマラスボディのお姉様に心配して頂けるとは生きててよかった。あ、心なしか良い香りが致します。
まあ冗談として、軽く咳払いをして尋ねた。
『それで本当の目的はなんです』
「ふふ、依頼の件はもう少し待って頂戴」
『既に調べていたんじゃないんですか』
「ちょっとごたついて資料が無くなってしまったからもう一度検査してるのよ。だから待って」
組織的に統括が取れているのにそんな些細なミスをするだろうか。ベルモットを見やるが彼女はその美麗を披露するばかり。素人の私がプロファイルなんて出来ない。いま私に出来る最良の台詞は。
『わかりました。結果を期待して待っています』
「いい子ね。奇術師さんと取引をしていたみたいだけど」
『あまり、私に深入りすると早死しますよ』
そう言うとベルモットは笑った。軽快に。
「thank you」
そう言うと頬にキスをされる。欧米式挨拶かな。頬を赤らめると妖艶な美女の微笑みにあてられて触覚から死ぬとこだった。
「安心なさい。彼はその日やる事があるから来れなくなるわ」
『え』
「居ないほうが都合がいいでしょう」
去り際にベルモット姐さんは心強い言葉を残してくれた。ありがとう姐さんと左胸を叩いた。
だが、共に行動している相方に内緒で来たの?それは何故ーーー。
「あ!夜子!キッド様に会いに行くわよね」
本物の園子ちゃんと買い物袋を携えた梓さんがやってくる。私は本物さん達にも偽物さん達と同じ話をして、合わせてから店内に戻った。
「遅かったですね夜子さん」
『電話着ちゃったので』
安室さんのさわりない態度に益々彼女の行動が読めなくなる。視線を床へ向け前髪の毛先を掴み引っ張る。そんな私を安室さんが探る様に見つめていたなのど知らずに。