恋は複雑骨折




「今日はお疲れになるでしょうから、夕飯は私が作りますね」
『ありがとう、ございます。なるべく早めに帰りますから』
「ふっ、もし遅くなりそうでしたら連絡ください。迎えに行きますから」
『うぐ……むりぃ……かっこいい……むりぃげーだよぉ』

車で送迎中に顔を両手で覆う私を余所に、昴さんは楽しげに笑っていた。
今日から帝丹高校に転入するのだが、手厚い保護を受けているのが居たたまれない。昨日から哀ちゃんが警戒を強めているおかげで、昴さんが今日は送迎をしてくれると言って聞いてくれない。

「気をつけた方がいいですよ。男というものは簡単にその気になって、些細な事で好意を募らせてしまう生き物ですから」
『それは美女に限るのでは?』
「いえ、それは寧ろあなたの様な可愛らしい女性にこそ起こりうるものだと思いますよ。気をつけてくださいね」

校門近くで停車する車。昴さんはまるで兄のような姿勢で私の返事を待っている。素直に頷くと口元を和らげて「いってらっしゃい」と見送ってくれた。その仕草に私は彷彿させてしまう。共に過ごし、兄のように慕っていた彼の事を………。

『はあ……なんかあんなのでも逢いたくなるもんだね』

そうだ、兄と云えば五条夜子にも兄がいるとか有希子さんが言ってたな。連絡先がわからないために連絡が出来ていないけれど、何だか家出同然に家を飛び出したそうだ。コナンくんが調べてくれたんだけど、不思議だな。詳細は書かれているのに五条夜子の性格や素性などは一切書いてないし、その兄についても書かれていなかった。意図的なのか、作為的なのか、それとも書き忘れたのかわからないけど。兄がいるのならちゃんと説明はしたいと思った。だって心配をさせつづけちゃうってことでしょ。それってやっぱり酷な事かな。もう血が繋がった血縁者は偽物の私しかいないけどそれでも、相手からしたら違うと思うから。

案内された教室につき、真新しい制服を揺らした。教室内に入り視線が集中する中私は咳払いを一つ設けてから笑みを張りつけた。第一印象は大切。

『転校して来た江戸川夜子です。これから宜しくお願いします』





■□■






蘭ちゃん達と仲良くなるのは早かった。コナンくんから訊かされていたみたいで、私がコナンくんの姉だと知り声をかけてくれた。それに続いて園子ちゃんや世良ちゃんも声をかけてくれて、ああ、皆可愛いし優しいな。
蘭ちゃんに事務所へ行き毛利さんに挨拶したいと訊ねると、二つ返事で承諾を貰った。よって現在、園子ちゃんも一緒に蘭ちゃんの家へと向かっていた。

「コナンくんにお姉さんがいたなんて知らなかったよ。しかも私と同い年で同じ学校だなんて」
『ごめんなさい、うちの両親が迷惑をかけてしまって……本当は私がしっかりしなくちゃいけなかったんだけど、生憎身体が弱くて。小さなコナンくんをひとりにするのもと思って博士に』
「理由があるなら仕方ないわよ。それよりもう体調は大丈夫なわけ」
『ええ。もう大丈夫。でも、コナンくん。蘭ちゃんが大好きみたいで…私もまだ生活に安定がないからもう暫く預かって頂けたらと……』
「いいよ。そんなの全然。私もコナンくんと一緒にいるの好きだもの」
「てか、それよりさ。今あんたが住んでる処って工藤くん家って処が気になるのよね」
『ああ、それは。うちの母と有希子さんが仲が良くて、住む所を探していた私に部屋を貸してくれただけだよ。新一くんのことはあまり知らないから安心して』
「べっ、別にそんなこと気にしてないけど?」
『こんなに可愛い蘭ちゃんという彼女が居るのに浮気なんてしないと思うけどな』
「……夜子ちゃんってモテるでしょ」
『いいえ』
「モテるわねこの子。素直で綺麗だし、女にも男にもモテるタイプだわ」
『いや。それはない。蘭ちゃんの方がいい女だし。園子ちゃんの方がかわいいもの。私を好きになる男なんてそんなのこの世に存在していないから絶対にそうだから、有り得ないから。もしいたら病院に通報する』


(( すっごい自己評価低い ))


女子高生のノリについて行けてるか不安だったけど。哀ちゃんが「あなた天然だから平気よ」と言っていたのでまあ、なんとかなったのか!と楽観的に受け止めた。階段を昇り扉から入室するとコナンくんが既に帰宅していたみたいで蘭ちゃんに駆け寄ってから私の元へ来た。

「父はあの席に座ってるの。ちょっと待ってね」

蘭ちゃんが毛利探偵を呼んでいる間、園子は急に用事が出来て帰ってしまい。しゃがみ込みコナンくんと小さな声で会話をはじめた。

「 変な奴に着けられてねえか? 」
『 いや、どうだろう 』
「 ったく……今日はおっちゃんに挨拶を終えたら俺が送るから。話もしたいしな 」
『 はぁい…申し訳ないです 』

小学生に頭を下げる女子高生って……私、立場よわっ。でも頭あがらないから仕方ないよね。
そうこうしていると目の前に毛利探偵が立ち、私も立ち上がり佇まいを直し頭を下げた。

『初めまして、ご挨拶が遅れてしまって申し訳ございません。江戸川コナンの姉、夜子と申します。長い間両親の勝手な振る舞いにお付き合いして頂き、弟がお世話になりました』
「いいえ、お嬢さん。そんなこと構いませんよ。子供好きですから」
『ありがとうございます。そう言って頂けると安心します。私もまだ生活が安定しませんし、弟もここでの生活を気に入っているようなのでもう暫く預かって頂けると助かります。コナンも慣れた環境の方がいいかと思って、お願いできますか?』
「構いませんよ。美しいお嬢さんの頼みを断る訳ないじゃないですか」

毛利探偵に手を取られキメ顔をしているのだが………どうしたことか。別に嫌いではないけれど、非常に対応に困る。

「お父さん!娘の友達にやめてよね」
「お姉ちゃん大丈夫?」
『ぼちぼちかな』

コナンくんと共に蘭ちゃんとおじさまの日常的な一コマを眺めていた。

「 学校どうだった 」
『 懐かしい感じがしました 』
「 まあ…十年ぶりだもんな 」
『 あら、お姉さまに年齢的な暴行は関心しませんね。コナンちゃん 』

頬をつねりくすくすと笑うと後ろから声をかけられた。

「おや、コナン君。その隣の女性は知り合いかな?」
「あ、安室さん。ポアロはどうしたの?」
「もう上がりだから毛利先生の所に挨拶にと思ってね」

流し目を贈る褐色肌のイケメンだ。声も某美少女戦士に出てくる彼と似てる……某機動戦士にも似ている。コナンくんの背丈に合わせて再びしゃがんでいたので立ち上がり対面する。優しそうな人だな……女の子にモテそう。なんか雰囲気一期みたい。でも一期は女性を喜ばせる台詞は言えないから違うけど。あと一期は色白美人で、此方の方は褐色男前。どちらかという色白美人の方が好みなんだよね……あ、やばい。恋しい。一期を思い出したら粟田口の短刀ちゃんたち思い出して、お姉さんホームシックになりそう。元気かな。
少し感傷に耽っていた見たいで、コナンくんに裾を掴まれて「あ」と失礼な態度をとってしまい。慌てて頭を下げて謝罪した。

『ごめんなさい!誰かに似ている気がして…でも似ていなかったです』
「お姉ちゃん。それはそれで失礼だよ」
『あ……本当に申し訳ございません。えっと、私はコナンくんの姉の江戸川夜子と申します。弟がお世話になったみたいで、ありがとうございます。今後とも弟と仲良くしてください』

頭を深々と下げてから顔を上げ、印象を良くするために笑みを浮かべた。その直後、骨が折れるようなバキィッという音が響き。

『ばきぃ?』
「今、すげぇ音鳴らなかったか」
「鳴ったと思うけど一体何処から」
「(おいおい…今、安室(こいつ)から音したぞ)」

変な効果音に首を傾げると徐に右手をとられ、それを両手で包まれる。視線を右手から包む手の持ち主、安室さんへずらすと視界に端整な顔が広がった。ち、近い……とても至近距離に褐色肌の金髪イケメンさんがいらっしゃるのですが……な、なにごと?

「僕は安室透と云います。探偵をしておりまして、今は毛利先生に弟子入りをしてこの下の喫茶店でバイトをしています。夜子さんはその真新しい制服を視る限り転入生ですね。しかも蘭さんと同じ学校でしかも同じクラスのようで。今後部活などは何か入る予定ですか?」
『(いきなし名前呼びかい)え、え?ぶ、部活?部活は入る予定はないですけど』
「では放課後は割と自由が利くんですね。なら是非喫茶店ポアロにいらしてください。珈琲とサンドイッチを御馳走しますよ。ちなみにこの事務所の下です。この後案内しますね」
『あ、そ、そうですか。機会がありましたら寄らせて頂きますね……』
「明日もシフト午後からなのでお待ちしてますね」
『あ、あの行くなんて一言もっ』
「連絡先交換しませんか?あ、女の子らしい色ですね。あなたにお似合いです」
『あ、ちょ!いつの間に人のスマホッ』
「はい。連絡先保護しておきました」
『ロックかけられてる…いや、あの。別に不本意だからって消したりしませんよ』
「優しいんですね。名前も可憐で…まるであなたのためだけに存在しているくらい素敵な名前で、この小さな手もとても愛らしいです」

安室さんの口が止まらない。言葉が湯水のように流れている。止められる気がしないし止めるとなっても圧が凄くて一歩後退する度に二歩詰め寄られるを繰り返し、いつの間にか壁際に追い込まれていた。顔を逸らすのだが手は相変わらず包まれていて、その手を彼は自身の口元に近づけ、皮膚に柔らかい感触を施す。思わず空気を漏らすような悲鳴が口端から毀れた。すると再び目が合い、青色の綺麗な瞳が波のように波紋していてその美しさに目を奪われる。

『綺麗な瞳ですね』
「………」

固まる安室さんに対して私は、一期の髪や山姥切の瞳など青に関連する刀剣男士たちを思い浮かべては表情が揺るまる。皆今頃どうしてるかな……元気でいるといいんだけど。そんな私を余所にコナンくんと蘭ちゃんが遠くから私達の光景を観察していた。

「(あいつ別の事考えてるな)安室さんどうしたんだろうね」
「あれはどう見たって夜子ちゃんの事」

蘭ちゃんの言葉の続きを遮るように、安室さんが「夜子さん。案内しますね。早急に。可及的速やかにあなたの席を」と言って手を引っ張られて階段を駆け下り喫茶店ポアロへと入店させられていた。

「夜子ちゃんモテモテね。コナンくん淋しいでしょう」
「あー…そ、そうだね(モテるっていうか、変な奴に、だろ)」

その後、コナンくんが私を迎えに来てくれても安室さんは私を自宅に送るまで解放してくれず。仕方なく家の近くまでコナンくんを交えて送ってもらった。


―――イケメンの圧しが怖い





■□■






「あら、遅かったわねロミオさん」
「すみません。少々女神を送っていたので」
「(女神?)ところで診断結果が出たわよ。白雪姫の殺害は取り下げ。暫く様子を見るで落ち着いたわ」
「そうですか」
「あなたは引き続き潜入して情報を仕入れていて。白雪姫の事はあたしがさぐ「彼女のことは任せて下さい」

言葉を遮られたベルモットは先程から意味のわからない発言を落としている男へ視線を投げる。

「毛利探偵の娘さんと同じ学友らしいですし、まとめて見張った方が効率がいいでしょう」
「あたしも気になるから探るわ」
「僕に断りもなく探らないでください」
「(いつから許可制になったの。というか許可が必要ってどういう事)まさかとは思うけど、白雪姫に恋した訳じゃないわよね、ロミオさん」
「ふっ、あんな小娘に恋をする訳ないじゃないですか。大人の経験豊富なイケメンお兄さんであるこの僕が。星の数程相手がいて困らないこの僕が」
「(それ言う必要あるかしら)でもまあ、そうね。年齢差もあるけどロミオさんにはジュリエット。白雪姫には王子様という相手がいるんだから余計な心配だったわね」
「ロミオはシンデレラも迎えにいけますけどね」
「……ロミオ。あなたがロミオであることは忘れてないわよね」
「あなたにロミオと言われている時はロミオですよ。姫に呼ばれたら王子ですけど」
「疲れてるなら休んでいいのよ」
「ご心配ありがとうございます。でも割と調子がいいので大丈夫です」
「あ、そう…じゃあ任せるわ。くれぐれもお姫様の扱いも気をつけなさい」
「骨抜きにしてみせますよ」

ベルモットが車から降りて去っていく背中を見つめてから、安室は携帯を取り出して素早いタップ捌きで何処かに送信をした。返事は数分後すぐに返ってきてその返答に、イケメンフェイスが肩なしになっていた。目尻を下げて口元を緩める。
今度は耳に傾けてコールを待つと三度目くらいで出た相手はおずおずといった様子。

「夜子さん、明日は何時頃いらっしゃいますか?」
《 え゛ 》

相手のまだ幼さが残る音色に彼は口元を緩めるばかりであった。



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