真相は、佐伯がファンと偽ってメールを送り続けミュウに好意を一方的に寄せたことにある。元々ミュウを芸能事務所にスカウトをしたのが佐伯だった。其の頃からマネージャーとして立候補しミュウを傍で支え続け己が一番ミュウに近い存在と勘違いし、カエデと交際していることを社長に話している場面を目撃。其処から脅迫を始めたそうだ。強姦もそのひとつである。愛が憎しみに昇華された瞬間だった。
社長が警察ではなく探偵に依頼したのかを考えれば本当に事務所の人間が犯人なのだと国木田や色葉は予測できた。メールの送信日や時刻。社長が警察沙汰にしてもいい強姦の事を知っていたのに探偵に依頼した理由やミュウをやたらと擁護する佐伯と佐伯に怯えるミュウの態度。カエデに嫉妬心を露わにする佐伯の言動を見ていれば一目瞭然だった。だが厄介なのはミュウが知らぬフリをしたこと、と爆弾事件、死者28名も出した事件が引っかかった。同時期に発生したことがきな臭いと感じた国木田は調べた処、大胆差や遣り口が適合する爆弾魔が幾人か該当したが、その中で有名な人物の経歴と名に目を留めた。その人物は檸檬爆弾なるものを使用して爆弾を作っては実験のように爆撃を繰り返している名は、梶井基次郎。ポートマフィアの構成員であることがわかり色葉に連絡。また彼女はミュウとカエデの自殺計画に気づき諭すために計画に乗るふりをして客をすり替え国木田に協力を仰いだ。佐伯がポートマフィアと繋がっている確固たる証拠はない。あくまで推測にすぎない。現段階で探偵社を狙っているのなら必ず連絡をとるはずと見込み、案の定何処かに連絡をとったことはわかったが結局佐伯は殺され、携帯は持ち去られてしまい残ったのは回収した爆弾のみ。手掛かりを取り逃してしまった事実だけが突きつけられた。
国木田と色葉は可能性を秘めた爆弾を地警に引き渡す。此れで爆弾事件の爆弾と一致すれば爆弾事件から脅迫強姦事件までの一連がポートマフィアが一般人の殺人に協力し、関与した事実が解る。狙いは佐伯の言動から導き出せば色葉である事は明白だがまだ幾分か納得のいかない事実は痼として残っていた。
国木田の運転する車の中で色葉は流れる景色を眺めている。
「ポートマフィアが一般人を使い陥れようとするとは考えにくい」
『だけどとても精巧です。理に適ったやり方だけは確かです』
「……色葉。気に病むな。奴らの思う壺だ。もしお前が云う様に理に適っているのなら相手はお前の性格を熟知していることになる。一般人を巻き込みお前が油断している隙をつき奪取するだろう…気を引き締めろ。此れ以上の犠牲者は出したくないだろ」
『独歩くんは優しいです。もっと責めてくださらないと困ります』
目を伏せた色葉はまるで泣いているようだった。憂いな瞳で夕刻を眺める彼女の頭をそっと伸ばして国木田は極めて優しい手つきで撫でる。
「お前は自分で自分を罰する奴だ。俺が此れ以上云っては体罰になってしまうだろうが」
『独歩くん……前見ないとぶつかりますよ』
「ぬわぁあ!!」
赤信号と停車している車に驚き急ブレーキをかける国木田の慌てふためく顔を見て、色葉は口元に手をあてて穏やかに笑っていた。
*
事務所に到着し扉を開けると春野さんが「お疲れさまでした」と声をかけに来てくれた。
「此の度の事件は大変でしたね」
『いいえ。其れより乱歩さんは?』
「あちらにいらっしゃいますよ。多分拗ねているかと…ふふ」
『春野さん?』
「色葉さんにお客様です。今は社長と会談していますがそろそろ」
春野さんの言葉が終わる前に私を呼ぶ声が鼓膜に届く。其の懐かしい声に振り返る。和装をした若々しく視える30代くらいの男性が穏やかな顔をして微笑んでいた。
「色葉ちゃん」
『ぁ……藤花さんっ』
春野さんが道を開けると弥弥急ぎ足で藤花さんの元へ駆け寄ると芳しい香りが漂い、藤花さんは私の顔を覗くように腰をかがませる。
『おかりなさい』
「ただいま…色葉ちゃん元気ない?」
『え…』
「何かあったのかな?僕には話せないかもしれないけど僕はいつも色葉ちゃんの味方だからね」
『!……はい。其の言葉だけで充分嬉しいです。ありがとうございます』
髪を撫でつける様に藤花さんの温もりを感じ、私の心は安らいでいく。久しぶりの再会に私は矢継ぎ早に訊ねた。
『長野はどうでしたか?』
「うん。ご飯がおいしかったよ。あ、此れお土産ね。農家のおばさんが分けてくれてね。色葉ちゃん料理上手だから」
『そんなことないですよ。ありがとうございます』
「あと、はい。此れ僕の新作」
『書けたんですね。お疲れ様です』
「ありがとう。少しは休養が取れたから休もうと思うんだ。暫くの間なら家に居るから」
『あ、ではお料理の感想などお願いしてもいいですか?』
「勿論」
藤花さんは私の子どものような問いかけに優しく丁寧に返してくれる。昔と変わらぬ其の態度に心の中に蟠りが少しだけ雲散することができた。そんな私をソファー越しから見つめる四つの眼があったことを私は知らない。
「あの人誰なんですか?色葉さんとても嬉しいそうですね」
「彼は推理作家で色葉の育ての親、青葉さんとは幼馴染の人物だ」
「温厚でいい人そうですね」
「敦君。人を見た目で判断してはいけないよ。彼はああ見えて30代後半のおじさんだ。麗らかな乙女を誑かす悪徳詐欺師だよアレは」
「其れは自分の事を云っているのか太宰」
「国木田君はわからないのかい?創設以来の彼女との仲だっていうのに鈍いな〜。彼は色葉ちゃんのいい人さ」
「……えっ?!乱歩さんじゃないんですか!」
「違うけど…太宰が嬉しそうな顔してるのが腹立つ。藤花さんは色葉の事を妹だと思ってるし彼女も多分解っていない。だからあの二人がどーのって云うのはないよ絶対」
乱歩さんが此方へ近づいてくると藤花さんが話を途切らせ、乱歩さんに声をかけた。
「乱歩君。君の話は耳に届いているよ。早速だけど事件の概要を話してくれないかな」
「別にいいよ藤花さんは僕を主体として小説を書いてくれてるもんね。サービスするよ。あ、今度九州の方へ事件の依頼が来たんだけど来るかい?」
「是非!楽しみだな。僕、乱歩君の大ファンだから」
ふたりの世界になると止められず、私はお茶を用意しに席へ荷物を置いてから給湯室へと向かう途中敦くんに引きとめられた。
「色葉さん!」
『敦くん。お疲れ様』
「あ、お疲れさまです…じゃなくて!」
『昨日は眠れました?』
「なんとか…朝食もとっても美味しかったです」
『ありがとうございます。また遊びにいらしてください』
「はい……ってそうじゃなくて!藤花さんの事好きなんですか?!」
「敦君速球だね」
肩を掴まれて敦くんと対面する。真剣な瞳が射抜いてくるのを受け止めつつ私は笑みを浮かべた。
『お慕いしております』
「なっ……そ、そうなんですね(さよなら僕の初恋の人)」
「でも恋する乙女の其れって感じじゃないよね〜」
『そうですね。殿方として魅力的でありますが私が藤花さんに好意を寄せるなど大変恐縮です。其れにあの方にはもっと素敵な方がいらっしゃいますからさしずめ私の恋は終わりの鐘を鳴らしているのです』
「そ、そうなんですか!じゃあ僕の恋はまだ続行できる!!」
「敦君。心の声漏れてるよ」
「へ?!……あ、あっと……!乱歩さんと藤花さんはどういった関係なんですかッ!」
『其れはモデルと作家の関係です』
一度座席まで戻り頂いた本を敦くんに渡す。其の本のタイトルは「江戸丸くんと女子高生」というもので中身は推理小説だった。パスケースを懐から取り出し一枚だけ取り出すと其れも手渡す。
「此の写真…乱歩さんと……学生服の女の子?」
『私がまだ学生の頃の写真です。此の歳に藤花さんは乱歩さんを探偵とした話を書き始めたのです。恐縮しますが、私が助手として登場しています』
敦くんは目を丸くさせて大変驚いた顔をしていて、隣に居る独歩くんも同じ顔をしていたのが面白くて思わず声が漏れてしまう。一頻り笑い終えると給湯室へ赴きお茶の用意を始めたら流し台に包帯が巻かれた手が置かれ後ろから閉じ込められ身動きを封じられた。其れが誰なのか見当がついているため焦る事もせず茶葉が躍る様を眺める。其の人物は頭皮に鼻孔を埋めた。
「あの子を何で死なせなかったんだい?死にたがっているのに止めるなんて暴君だ」
『ミュウさんは貴方とは違う。生きる希望を見失っているだけで本当は手元にあることを忘れているだけです。だから死ぬのを止めました』
「……でも救った事に寄り君は自分の頸を絞めていることはわかっているだろう」
『ですが、救える命は救いたいと思います』
「其れは初音さんとの約束かい?難儀だね」
『お互い様です……太宰くん。一度しか云いません』
「なに?」
『無理しないでください』
「……ッえ?!」
太宰くんは驚愕し、思わず私の逃げ道を作ってしまう。数歩後退して目を向く太宰くんの顔を振り返り見つめた。驚かせるのが得意な癖に思わず笑い声を洩らしつつ私はお盆を両手で持ち乍らお茶を運び、太宰くんへ背を向けた。後ろから情けの無い声を出しているのが耳に届きまた喉が震えてしまった。
「私の心配などしないと云っていた癖に……狡い女だ」
これにて「Murder on D Street」に該当するオリジナル回の終了です。次もオリジナル回になります。「人を殺して死ねよとて」の前の時系列にあたる「オリジナル回」です。そして…有り得ない人と絡ませます。宜しくお願いします。