夜のしじまに沫-伍






眠る遺体を背に扉から外へ出ると中也が外灯に背を預けて煙草をふかせている。其の近くには自由になった香純と少女が居て色葉の姿を見つけると香純は血の気の引いた顔をして駆け出し色葉の手を取った。

「色葉さん!其の血はッ…何処か怪我を」
『大丈夫ですよ香純くん。此れは返り血です。お見苦しくて申し訳ないのですがご容赦ください』
「其れならよかった…もし怪我でもされたら僕は…自分が赦せない」
『此度は私の所為で倶い目に遭わせてしまいすみませんでした。其方のお嬢さんも』

少女にも謝罪すると頭を振って視界に色葉を納める少女。弥弥気になり色葉も少女を見つめていたが手を握られ再度香純へと戻す。

「ごめんなさい。僕が、色葉さんは僕のお姉さんだと友人達に触れ回ってしまったんです」
『あね…』
「色葉さんがお姉さんだったら嬉しいなって…嘘つきだと嫌いになりますか?」

子犬の様に耳を垂れさせている錯覚を起こす程香純は赦しをこうていた。其んな香純を怒るほど色葉には持ち合わせはなくなるべく綺麗な手の方で香純の頬を撫でる。

『嫌いになりませんよ。とても嬉しいです…ですがもう外で其の様な事を云ってはいけませんよ。東雲様にご心配をかけてしまいます』
「…はい」

だけど決して色葉は“姉”と呼ばれることを佳しとはしなかった。話が済んだ事を悟り中也は懐からハンカチを取り出すと色葉に手渡し、自身が肩にかけている上着を羽織らせた。

「結構ホラーな格好してるからな」
『ありがとうございます。中也くんが居なければ香純くんや少女を無傷で扶ける事が出来ませんでした』
「色葉……」

手袋に覆われた指先が色葉の頬を掠める前に彼女は後ろから現れた男の手に寄って距離を離される。彼女のお腹辺りに包帯が巻かれた腕が交差されていた。

「色葉ちゃん迎えに来たよ。勿論香純くんの東雲様も一緒にね」

太宰の指す方向へ目を向けると車から桜江が現れ香純は母の腕の中へと駆けていき、其の腕に飛び込む。母と息子の再会を横目で眺める色葉は其の表情に憂いを帯びさせていた。其れを佳しとしない太宰は「コラ、君はこっちだよ」と顎を掴み無理矢理、中也と再び対面する。

『太宰くん。お迎えありがとうございます』
「抑揚をつけてくれると嬉しいな。其れより中也何かと一緒に居て大丈夫だった?変な事されてないかい?」
『あなたと居るより安心でした』
「……素直じゃないのは好きじゃないのだよ」
「相変わらず青鯖みてぇな面しやがって…いい加減離れろ」
「えー蛞蝓に指図される程落ちぶれていないのだけどな、私は」

げ、此れ中也のじゃん。と肩に掛かっている羽織を取りさると中也へ投げ渡し代わりに自身の外套を羽織らせ満足気な顔をする太宰。だが次の瞬間其の表情からは笑顔が取り去らわれる。

「此の計画は最初から彼女を誘き寄せ捕える為に実行されていた訳じゃない。君は飽く迄彼女の導き手となるためだけに参加したんだ。出なければ君の様な脳筋男に推理するなんて思いつかない」
「はっ、お得意の盗聴か?どうせ色葉の携帯に仕込んでたんだろ」
「其れで香純君は拐らわないのかい?其れか殺さないのかな」
「ンな事する訳ねぇだろ。餓鬼を殴殺する趣味はねえ。唯此れで俺の仕事は終わりだ。色葉にとって大事な物を知れた今此れ以上の深入りはしない。だが憶えておけ色葉。手前の友人中原中也として告げる“二度目はない”今度浮上したら最期、壊す」
『……中也くんと闘いたくありません』
「俺だってしたくねえ、が……然う云う顔には見えないぜ色葉」

中也は背筋に冷や汗をかいた。真っ直ぐ見つめてくる少女の瞳は血に染まるかのように鈍く光っていたからだ。表情からは仮面が消え、まるで本質の様なむき出しの殺気を向けられた中也は好戦的に笑みを浮かべた。

「はっ、いい女だよ手前は。だからこそ欲しくなる――次は絶対手前を掻っ攫うからな荷造りしとけ」
「小鬼が何云っているんだい。強がりはいいから早く帰れば」

手で追い払う太宰の態度に中也は怒りを抱えつつ「手前はぜってぇぶっ殺す!」と宣言してから闇夜に消えてしまった。残された太宰は色葉の肩を掴むなり「帰ろう」と云ってくる。

「ささっ、今夜は真夏の夜を過ごすのだよ。私に凡てを委ねてくれ「色葉さん。今晩は我が家に泊まってください。お母さまにも許可を頂きました。共に誘拐された女の子も一緒です」
『ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きますね』

太宰の手を叩き落とし香純と手を繋ぎながら車へと乗り込む色葉は素早く。あ、と声をかける前に太宰に手を振って車は走行した。

「連れないな…却説。少し手を加えるとしようかな」

太宰は振り返り教会の中へと入る。中は素敵な惨状が彼を待っていた。三体並ぶ死体。ポケットからライターを取り出し頸の無い女の躯に着火する。人の躯は燃えやすい引火は早かった。木造建築物である教会だから火の手は急速に燃え移る事だろう。太宰は死体を飛び越えて迷いの無い足取りで地下通路へ繋がる入口へと赴き蓋を閉めてから階段を下った。
弾痕や空薬莢が辺り一体に落ちている現状を見渡しながら色葉のショルダーバッグを拾い上げ鳴り止まない携帯を取り出し通話を開始する。

「やあ谷崎君。どうしたのかね?」
{ あれ?!太宰さん!いや、あの…色葉さんは? }
「色葉ちゃんなら先程香純坊ちゃんの誘いを受けて行ってしまったのだよ」
{ …そんな……やっとお泊り企画が成功するはずだったのに…!ナオミに怒られる! }
「えーうそー谷崎君も?残念だったね」
{ あの太宰さん…とても嬉しそうですね }
「うふふ。私が断れて君も断れて、其して天下の香純坊やの一人勝ち……然う。彼女にとって我々は小指の爪先程度という事だ」
{ ……勝とうと思う方が無謀ですよ。其んなの神に人が挑む様なものです }
「ああ、良い事云うね。異能者というのは何処か心が歪だ」

谷崎と談笑しているとふと、太宰は思い出す。車に乗り込んだ色葉の隣にはもう一人子供が居た。確か香純と共に誘拐された子供のひとりだったと思う。

「あれ、然う云えばあの子……どちら様?」
{ はい? }







汚れた血を洗い流す様に云われ少女と共に入浴をしていた。

『あなたのお名前は?』
「…私の名は鏡花」
『鏡花ちゃん。私は色葉と申します。宜しくお願いします』
「…よろしく」

鏡花ちゃんの髪を洗っていると彼女はとても気恥しそうに此方の様子を伺ってくる。眼に入らないか、と訊ねると首を左右に振り伝えてくれた。表情が無いというよりは其れを制限されている。或いは制御しているのだと推測すると彼女は孤児というだけでないことは明白だった。だが、此処で私が彼女の藪をつついて蛇を出す事をしては香純くんが何と思うか。

『流しますよ』

声をかけて湯で泡のついた髪を洗い流し、髪をタオルで纏めて湯船に一緒に浸かる。

『肩まで浸かってくださいね。風邪を召してしまいますよ』
「……色葉。背中の傷痛くないの?」
『…忘れてました、痛いですっ』

深く差込まれた訳ではないが指摘されて痛みを自覚してしまってからは痛みに眉を寄せてしまった。其んな私に目を丸くしてから鏡花ちゃんは笑った。音響が良い浴室内では小さな笑い声も拾い上げ能面少女を年頃の女の子へと昇華させる。

「ドジなのね。後で手当をした方がいい」
『そうします』

湯船から上がるとタオルで拭き寝巻の浴衣に着替える。長髪を所持する鏡花ちゃんの髪をドライヤーで乾かしつつ其の表情を窺うと猫の様に気持ち良さそうな顔をしていた。電源を切り宛がわれた部屋へと向かうと布団が敷かれていた。

『却説、今日は疲れましたでしょう。躯を休めましょうか』

鏡花ちゃんを布団に寝かせて掛け布団をかけてあげると鏡花ちゃんは私を見つめる。隣の布団に潜り鏡花ちゃんの手と繋ぐと彼女は弥弥眼を丸くさせるが次第に瞳を和らげ眼を閉じた。数分後には健やかな寝息が耳元に届き私も瞼を閉じた。藪はつつかなくても蛇は何れ出る。







闇夜の帳が深まる頃。整理整頓が行き届いた規則正しいベッドで眠る香純の部屋の窓から月光が差し込む。窓の影が深く成る時、其の影は大きく花が舞い散る。美しい桜化粧の中で白刃が少年の喉元を捉え仕込み刀を抜刀し斬り込む寸前で、其の剣先は大鎌の刃先が受け止めた。携帯を耳許に宛がいながら少女は後退する。扉から静かに入室して来た暗闇の中でも其の主張を留まる事を知らない白色が揺らめく。

『やめなさい。ポートマフィアの暗殺者』
「っ、気づいていたの」
『はい。あなたからは血の臭いが濃いので』
「…知ってて何故私を殺さないの。貴女なら私の頸を飛ばす事など簡単でしょ…あの女の様に」
『私は子供を虐殺する趣味はありません』
「…貴女の大切な人が、子供だから?」
『ええ。香純くんのお友達なら殺す事は憚れます。彼にとって害がないなら、の話です。此の家を狙う者は皆屠ると定めて来ました……未だ其の喉を掻き切ると仰るなら望み通り頸を跳ねます』

月光に照らされた色葉の微笑む姿は鏡花には不気味に思えた。携帯越しから男の声が聞こえる「盡く斬り刻め」と彼女の異能に働きかけ異能が応えた。色葉へ襲いかかる刃に避ける事もせず唇を動かした。

『 夜叉白雪。其方の主の命に従え 』

其の言葉を聴いた瞬間、夜叉白雪の剣先は鼻頭の前で止まった。鏡花は其の行動に驚き其の場に固まるが色葉が近寄り携帯を取り上げると電源を切った。片手に持ったままの大鎌をペンへと戻し鏡花の手をとって室内を静かに出て行く。中庭へ出られる扉を開けて外へと出ると鏡花へ振り返り微笑んだ。

『私をマフィアの根城に招待してください』




此れにてこの話は終了。まだまだオリジナル展開が続きますが末長くお付き合いお願いします。ポートマフィアじゃ!乱歩さんとか探偵社の皆が全然出ないよ!太宰さんしか出ないよ!あとはポートマフィアの連中しかでないよ!!おっしゃーーーマフィアがメインじゃこらぁーーー!!




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