床に転がるボールを拾った木兎は首を傾げた。小指がなんだか痛い。痛いと言うよりは、じんじんと熱が広がるようなものだった。怪我をした覚えはない。万が一怪我をしていたら見た目でわかるだろうし、そもそも、突き指をしたときとは違う痛みだった。いくら落ち着きがないと言われる木兎でも、手を怪我するようなことはしない。それが大事なものだと知っているから。
ボールを片手で掴んで、痛む小指を見つめるが異変は特にない。ただ皮膚の内側が、熱を持つだけ。骨に異常は見られなかった。他の指もなんともなかった。ただ、小指だけが、痛い。
「木兎〜! 何してんだ早く!」
「あっ、わりぃ」
チームメイトの呼び掛けに振り返る。怒ったポーズだけを取るチームメイトにボールを投げれば、バレー部らしくパスが返ってくる。入部したての一年生の練習内容なんてこんなものだった。ただひたすら基礎を叩き込まれるだけの練習は、木兎にとってひどく退屈なものだった。
(はやく試合出てぇな)
基礎が必要な理由も、練習メニューの意味も理解していたが、それはそうとして退屈だった。
バレーに意識が逸れた木兎の頭の中には、とっくに痛みのことなんて残っていなかった。