出会ってしまった


ある晴れた日の昼下がり、こんな晴れた日には似合わないような深刻な顔で、田村三木ヱ門は頭を抱えていた。


「まずい……」


まずい、非常にまずいことになった。
忍術学園に入学して4年目、いずれこんな日が来てしまうだろうことは当初から覚悟していた。むしろ来るのが遅いくらいだ。だからこそ、油断してしまった。まさかここに来て、学園生活が折り返しに入ったところまで来て、この日を迎えてしまうとは…………
そうしてひとり唸る三木ヱ門の元に、好奇心旺盛な忍たまの1年生、乱太郎きり丸しんベヱが走り寄ってきた。


「何がまずいんすか?」


率直に問うきり丸に、三木ヱ門は閉じていた目を片方開いて3人の顔を見る。見るや、深く深くため息を吐いた。


「お前達……お前達にも関わってくる大変残念な報せだ」

「え、なんですか」

「滝夜叉丸の事なんだが」


瞬間、走り出そうとした三人の肩を、読んでいたかのように三木ヱ門は引っつかむ。
ひっくり返した三人の顔の全面に「聞きたくない」と書いてあるのを見て、三木ヱ門は頷いた。


「気持ちはわかるが、どうせ後々知ることになるんだ。逃げてどうする!」

「だってぇ……」

「仕方ないよしんベヱ、聞こう」


聞くのが嫌すぎてぐずるしんベヱの肩を乱太郎が優しく叩く。その乱太郎の表情も、その隣のきり丸も、私たちつらいですと言わんばかりの表情だった。彼らは平滝夜叉丸に散々迷惑を被ってきた1年生代表なので、滝夜叉丸の話題になると反射でこういう反応が出てしまうのだ。
三木ヱ門は、ようやく聞く気になった3人にこほんと咳払いをひとつする。それから、より深刻そうな顔で言った。


「いいかお前達。あの滝夜叉丸が────佳川小夜子というくのたまの存在に、とうとう気づいてしまった」

「「「………………」」」


たっぷりの沈黙の後、3人は思い切り首を傾げた。三木ヱ門は、想定内なのかズッコケたりせず、なおも真剣な顔で腕を組んでいる。素直な3人は、率直に気になったことを口にした。


「佳川?」

「小夜子?」

「先輩ですか?」

「お前達にとってはな。彼女は忍たまで言うところの4年生だ」


やっぱり知らない名前にもう一度首を傾げる3人を他所に、三木ヱ門は非常に困った顔をして空を見上げた。


「良い奴なんだよ。でもちょっと、いや、すごく変わったところがあると言うか……」

「どんなですか?」

「佳川はな……」


──────滝夜叉丸のことが、すきなんだ。

三木ヱ門が苦々しく口にした言葉に、3人は1度黙り込んだ後、思い切りえーーー!!!!と声を揃えて叫んだ。


「た、滝夜叉丸先輩が好き!?あの嫌味で自惚れ屋で自慢話ばかりする滝夜叉丸先輩のことを、好きぃ!?」

「何かの間違いじゃ!?」

「1年の頃から何度も確認してる!でもあいつ、絶対にこういうんだ!……滝夜叉丸は美しい人だ、って!」

「「「ひぃい〜〜!!」」」

「滝夜叉丸のやつ、嬉々として探しに行ってしまったから、恐らくもうそろそろ会ってるだろうな。ああ、佳川のやつ、滝夜叉丸を調子に乗せないといいんだけど……」


憂いを帯びた瞳で再度空を見上げる三木ヱ門に、3人も同じように憂いだ顔で空を見上げた。








「ね、小夜子。次の休みは美味しいものでも食べに行きましょうよ」

「いいね。最近できた美味しい甘味処が、あ、る……??」


楽しく談笑しながら友人と食堂へ向かっていた小夜子は、自分の前に突如差し込んだ影と、慣れない気配に、立ち止まって首を傾げた。ふと隣を見れば、くのたまの友人も目を見開き息を飲んでこちらを見守っている。
不思議に思い小夜子が思い切って顔を上げると、目の前には忍たまの四年生、平滝夜叉丸が立っていた。


「やっと見つけたぞ、佳川小夜子」


なんだかロマンチックにも聞こえる台詞を吐く滝夜叉丸を、小夜子はぽかんと見上げる。
この組み合わせはまずいと、友人も知っているのだろう。小夜子がなにか発する前にと、なんとか小夜子にむかって恐る恐る手を伸ばした────しかし、その手が小夜子に届く前に、彼女はけろりとした声で滝夜叉丸に言った。


「おや、美しい人。私に何か用か?」


小夜子の言葉に、滝夜叉丸の瞳が一層ぱっと輝く。そうしてそのまま固まり、何も言わない滝夜叉丸に、小夜子は笑んだまま首を傾げた。
小夜子の友人はいつの間にか姿を消してしまった。

190118