眩しい太陽の下で


「最近よく話しかけてくれるね」


小夜子がそう言うと、滝夜叉丸はきょとんとして小夜子を見つめた。
滝夜叉丸が縁側に座りのんびりとお茶を飲む小夜子見つけ、隣に座り自分の事を話すこと既に30分。小夜子は依然穏やかに笑ったまま、話が途切れたタイミングで、ずっと気になっていた話を切り出した。

小夜子はずっと滝夜叉丸を目で追っていた。入学して少し経ったある日、滝夜叉丸を目にしてからずっと。ひょっとしたら本人に気づかれてしまっているかもしれない、と時折反省するほど、自分でも気が付かないうちに彼を見ていた。小夜子は、美しいものが好きだった。そして、滝夜叉丸ほど美しい人に出会うのは、人生で初めてだったのだ。

突然話しかけてくるようになったということは、今まで自分の視線に気づいていなかったのだろうと小夜子は考える。幼い頃よりもむしろずっと自然に“見る”ことができるようになった今になって、なぜ突然気づいたのか。ずっと見られていたことを気味悪く思ったり…はしていないのだろうな。そして、三木ヱ門の言う通り、話したがりでわざわざ自分に話しかけに来てるのか?本当に他に用事は無いのだろうか?などなど。小夜子は色んなことを考え、不思議に思っていた。
その一つ一つを尋ねるのは、あまりに無粋だろうと小夜子は思った。だから、続けてたった一言「どうして?」と聞けば、滝夜叉丸はやはり不思議そうにきょとんとしたまま、どうして?と反復した。


「何故って、お前は私の事が好きだというじゃないか」


真顔で言う滝夜叉丸に、小夜子は顎に手を当て考える。少し間を開けて「…そうだね、うん、そうだ。」と返した小夜子だったが、滝夜叉丸が気にするほどの間ではなかった。彼は、小夜子の返事にまたソワソワとしたあと、咳払いをして胸を張った。


「そうだろう。だが、私とお前は今まで話したことがない。だからこうして私の魅力を教えてやろうと思ったのだ」

「はあ、なるほど。そういう事か」


滝夜叉丸の答えを聞いて、小夜子は三木ヱ門の話を思い出し、やはりそういう事かと頷いた。用事がない訳ではなく、彼にとってそれが用事だったのだ。
なぜ気づいてしまったのか、そこも気になったが、滝夜叉丸は四年生の優秀な忍たまだ。そんなことを尋ねるのは失礼だろうと思った小夜子は、その答えだけで納得することにした。
それから小夜子は、指を1本滝夜叉丸の前に立てる。滝夜叉丸がまたきょとんとして小夜子を見つめると、眩しそうに目を細め、小夜子は言った─────知っている、と。


「知っているよ。私は、貴方を一目見たときから、ずっと貴方を目で追っていたんだ。貴方が美しいということ、そしてその為の努力を惜しまない人だということを、私は3年前から知っている…こうして貴方を見つめる瞬間も、そう思う。そして、それはおかしな事じゃない。きっと、皆も同じだ。」


小夜子は思う。滝夜叉丸は美しい、そんなのは、みんな知っていることなのだ。彼の周りにいる人たちも、きっと少なからずそうで、滝夜叉丸本人が言わずとも、彼が美しいことは知っているはずなのである。だって──────太陽の下で、貴方はこんなにも綺麗。


「だから、安心して咲き誇ってくれ。貴方は華だ。貴方は、華の人だ。」


滝夜叉丸が、いくら褒められなれていないといえど、誰がきいても小恥ずかしくなるような台詞だった。まるで物語の一節のようだ。
顔を真っ赤にして固まる滝夜叉丸に、小夜子はまた眩しそうに笑う。それから立ち上がり、会釈をし、その場を去った。








それから数日後。小夜子は、たまたますれ違った三木ヱ門に呼び止められた。しかし、立ち止まって返事をしても彼はジト目でこちらを睨むばかりで、なかなか話し始めない。また何か苦情だろうか、と小夜子が首を捻ると、ようやく彼は口を開いた。


「なぁ、何を言ったんだ?」

「え?」

「滝夜叉丸にだよ。何か言っただろう」

「何って、事実を」

「なんて?」


今日ばかりは詳しくその内容を聞きたがるので、小夜子は記憶を辿りながら、最後に滝夜叉丸に伝えたことについて三木ヱ門に話した。
顎に手をやり、真剣な顔で黙ってそれを聞き終えた三木ヱ門は、だからか…とため息混じりに肩を落とした。


「最近、滝夜叉丸の様子が佳川を見つける前に戻ったように見えたんだ」

「よかったじゃないか」

「それだけならな!それだけじゃないからこうして困っているんだ!彼奴…この前私に向かって突然微笑んだかと思ったら、なんと言ったと思う」

「なんて?」

「『いいんだ…お前が私を美しいと思っているのは知っているからな…』だぞ!?」


三木ヱ門の滝夜叉丸のモノマネに、小夜子は思わず笑いそうになって慌てて口を抑えた。三木ヱ門は笑われていることには気づかず、真剣に不満を漏らし続ける。否定しても温かい目で見てくるばかりで話にならない、目が腹立たしい、などなど。
小夜子が頷きながらそれを聞いていると、しばらくして満足したらしい三木ヱ門は、力を抜いてもう一度溜息を吐いた。


「私があいつのファンだと思われているのは癪だが……まぁいいだろう。多少は静かになったしな」

「大騒ぎだったんだな」

「鈍感女め…」

「平滝夜叉丸の周りはいつも賑やかでいいね」


三木ヱ門は、愉快そうに笑う小夜子をじっと見た。それから、また目を細めて、ジト目で小夜子に言う。


「…本当に滝夜叉丸が好きなんだな。理解に苦しむ」

「好き?あはは、これは好きとか嫌いとか、そういう話じゃない────────空が美しいのと、平滝夜叉丸がうつくしいのは、私にとって、同じことなのさ」


そう言って、小夜子はいちばん無邪気な顔で笑った。青空の下が良く似合う、そんな笑顔だった。

200628
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