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ご褒美とお仕置き
犬猿シリーズ(1)

土埃の臭いが立ち込める廃ビルの一画で、小柄な少年が乱れた息を整えている。

「はあっ、口ほどにもない奴らだぜ」

少年は近所の不良校に通う高校生で、この辺りでは有名なワルだった。
少年が足元に転がる鉄パイプを蹴り上げると、カラカラと派手な音を立てた。

相手が何度も剥き出しのコンクリートの地面に振り下ろしたため、無惨にもぐにゃりと歪んでしまっている。
その鉄パイプは元々は少年に向かって振り下ろされたものだったが、少年がひょいひょいと身軽に身を避けたものだから、一発も少年には当たらなかったのだ。

「……ちち」

それでも少年は、相手と組み合って地面を転がった時に軽い打撲傷や擦過傷を負っていた。
剥き出しの腕のあちこちには擦り傷があるし、口の端は唯一避け切れなかったパンチのせいで切れてしまっている。
少年がペッと唾を吐くと、鮮血が混じった唾が地面に吐き出された。

「猿!」

少年が身を翻(ひるがえ)して出て行こうとしたその時、背後で少年を呼ぶ声がした。
少年が振り返るときっちりと不良校の制服である学ランを着込んだ少年が、少年の背後で相手の一人が少年目掛けて振り下ろした鉄パイプを片手で掴んで受け止めていた。

「犬!なんでここに……」
「本当にあなたって人は……。犬って呼ぶなと何度も言っているでしょう」

猿と呼ばれた少年の問い掛けには答えずに、犬と呼ばれた少年は襲って来た相手を見ずに後ろに蹴り飛ばした。
ドサッと音を立てて倒れ込んだ相手の少年は、今度こそ動かなくなった。

地面に転がっている少年は全部で5人。
全員が荒い息をしていることから、大事には至らないだろう。

「ほら。いいから学校に戻りますよ」

そう言って、犬と呼ばれた少年は猿と呼ばれた少年の腕を引く。


「猿渡(さわたり)、また喧嘩か?」
「すみません。僕の監督不行き届きで」
「犬塚(いぬづか)、気にするな。こいつの喧嘩っ早さは今に始まったことじゃないからな」

それから30分後には二人は学校の保健室にいて、校医でもある男性養護員に手当をしてもらっていた。


猿渡と犬塚は幼なじみで、犬塚が子供の頃から何かと猿渡の世話を焼いていた。
高校生になった今も犬塚は担任に頼まれて、猿渡の世話を焼いている。

黒髪に黒い瞳、黒縁眼鏡の犬塚に対し、限りなく白に近い金髪の猿渡は見たままの不良だ。
身長は犬塚のほうが15センチほど猿渡よりも高く、よく見れば犬塚はとても整った顔をしている。
不良校は生憎男子校だったが、不良校に女子生徒がいれば犬塚を放ってはおかなかっただろう。

一方の猿渡は尖った見た目に反して童顔で、とても可愛い顔をしている。
黒目がちの目はぱっちり二重で、その目を飾る睫毛がまたくるりんと長い。

猿渡はちびのせいもあり、子供に見られることをとても嫌っていた。
その見た目をからかわれたら我慢が出来ず、それを口実に喧嘩を吹っ掛けて来る他校生が後を絶たない。
身軽な猿渡は喧嘩も攻撃よりも防御に長(た)けていて、実は喧嘩が強いと言うよりは決定打を受けない分、有利なだけだったりする。

そんな猿渡を迎えに行く犬塚もまた、ある意味防御の技に長けていた。
犬塚はあらゆる武道に通じていて、剣道、柔道、空手、合気道に至るまで全ての武道で段位を持っている。
猿渡と犬塚が殴り合いの喧嘩をしたら、間違いなく犬塚の方が勝つだろう。

猿渡が売られた喧嘩を全て買ってしまうものだから、犬塚は猿渡に喧嘩をしたらお仕置きだと言い渡していた。
そのお仕置きは猿渡にとって最初は確かにお仕置きだったが、今はご褒美に変わってしまった体(てい)がある。
その証拠に、犬塚をちらちらと窺(うかが)い見る猿渡の瞳には期待の色が濃く浮かんでいる。

「……なんですか。その期待に満ちた目は」
「べ、別に」
「どうやらあなたにとって、お仕置きはご褒美に変わってしまったようですね」
「そっ、そんなこと……」
「だから、志向を変えましょう」
「へっ?」
「喧嘩をしたらじゃなく、次のテストで全教科、平均点以上の点数を取ったらお仕置きをして差し上げますよ」
「……なっ!」

それを聞いた猿渡の顔が青ざめた。



*******

犬塚が言った『お仕置き』というのは、性的なお仕置きのことだった。
まだ猿渡が何も知らない時に喧嘩をしたらお仕置きだと言い渡し、犬塚は猿渡の後ろのバージンを無理矢理奪った。

最初はちゃんとお仕置きの意味を成していたようで、猿渡はしばらく喧嘩をしなかった。
だがしかし、しばらくするとまた喧嘩に明け暮れ始め、喧嘩三昧の現在に至る。
どうやら猿渡は、お仕置きの味を占めてしまったらしい。

「ああっ、犬塚っ。そ、そこだめぇ……っっ」
「ここですか。いい加減、素直になったらどうですか。ここを思い切り突いて欲しいんでしょう?」
「あああっ」

その結果、なんと次のテストでは見事に全教科で平均点以上の点数を取り、猿渡は見事に待ち望んだお仕置きを勝ち取ったのだった。


結果的には全ての教科で平均点以上を取れた猿渡だったが、猿渡一人の力で取れたわけではない。

「ほら、そこ。また間違ってる」
「うっ……」
「お仕置きして欲しくないんですか?ただでさえ次のテストまでお預けなのに、平均点以上を取れなかったらその次のテストまでお預けですよ」
「……!」

そう犬塚から叱咤激励され、補習の常連だった猿渡は隣家の犬塚の部屋で勉学に励んだ。
集中力が切れると『ここまで出来たらご褒美を差し上げますよ』などと、飴を目の前に吊り下げられて必死で教科書に向かった。

そのご褒美は性交ではなく、玩具を使ったちょっとした肛虐や口淫、手淫の類の愛撫だったが、それでも猿渡は一生懸命勉強をした。
勿論授業も真面目に受けたし、その後の犬塚の部屋での勉強会も欠かさなかった。
その結果、見事に目標を達成し、今に至っている。

「あっ、あっ、あっ、気持ちいい……っ」
「どこがです?ちゃんと言ってくれたら、場合によってはもっとお仕置きして差し上げますよ」
「んあんっ、お尻っ。お尻まんこが一番気持ちいいっ。それに勃起ちんこ、勃起乳首も気持ちいい……っ」
「ふはっ」

猿渡のあまりの素直さに、犬塚は思わず吹き出してしまって。
犬塚は目を細めて、猿渡に見られていない所でとても優しい顔をした。
本当のことを言うと、この可愛いバカ猿のことが思い切り甘やかしたいぐらいに愛おしい。

「ふぁ……んっ、犬塚ぁ……っ。好き好き、好きだよぉ……っ」
「――くっ、なんなんですか。また急にあなたは……っ」

思わず口から零れた猿渡のそんな一言に、必死に堪えていた意思を持って行かれそうになる。

「まったく、あなたって人は――っ」
「ひぁぁぁんっっっ」

犬塚は猿渡の両脚を肩に担ぎ上げて、猿渡の最奥を穿(うが)った。
全体重をかけて剛直を突き入れると、猿渡の体がびくびくと勝手に跳ね上がる。

「ふぁぁんっ、イってる……っ。イってるからぁ……っっ」

そう言いつつ、猿渡は射精をしていなかった。
その代わりに直腸の内壁が激しく収縮し、射精を伴わない絶頂を極めてしまった。
連続して襲い来る快感に、生理的な涙が溢れて来る。

「猿渡……」

涙にそっと口づけて、犬塚はとても愛おしそうな顔を猿渡に見せた。
その顔を見た猿渡は、無意識のうちに犬塚を締め付けてしまう。

「はぁぁんっ、犬ぅ。犬ぅ……っ。大好きだよぅっっ」

今度は猿渡に犬と呼ばれたが、犬塚はいつもの渋い顔をしなかった。
どんな猿渡も今は可愛くて仕方がなく、どんな猿渡にも愛おしさだけが募る。


そんな猿渡はテスト期間が終わると、いつものサボり魔で喧嘩っ早い猿渡に戻ってしまった。
犬塚は性交のお仕置きは封印してしまい、平均点以上を取った時だけじゃなく、お互いの気持ちが高まったらお仕置きやご褒美に関係なくするようになった。

だからと言って二人は恋人同士になったわけではなく、

「犬!」
「まったく、あなたって人はっ」

相変わらずの関係を続けている。

そんな犬塚が次のテストにはスペシャルなご褒美を持ち出して、

「平均点以上を取れたら特別なご褒美を差し上げますよ」

そう言われた猿渡はまた授業を真面目に受け、犬塚の部屋で勉強に励む。


飴と鞭を上手く使い分ける犬塚は、今日も猿渡をでろでろに甘やかすのだった。


End.

▽キャスト
攻め:犬塚(16)
受け:猿渡(16)

※優等生の敬語攻め、いいですね。
今度は不良×不良の喧嘩っぷるに挑戦してみたいです。

それにしてもお仕置きとご褒美、実は同じなことに気付いてないお猿さんってば(笑)


▽シリーズ
犬猿シリーズ

2017/01/06


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