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通勤電車
満員電車(2)
└モブ集団×藤枝(1)
リクエスト(2)


いつもの時間のいつもの電車。
いつもの車両のいつもの場所に俺は立っている。
通勤時間の電車はいつも酷く混んでいて、身動きが取れないのもいつものこと。

俺は右手で吊り革を掴み、左手で胸に鞄を抱き込んでいる。
いつだったか痴漢の濡れ衣を着せられたことがあって、それからは満員電車に乗る時はいつもこのスタイルだ。

いつもと何も変わらない中で、唯一、いつもと違う点に気が付いた。
いつもは周りに二、三人はいる女の人が今日は珍しく一人も見当たらない。
ざっと見渡してみれば通勤途中のサラリーマンだらけで、この車両には、女性は一人も乗っていないようだった。
まるで男性専用車両のようだなと、ふとそんなどうでもいいことを思って笑ってしまう。
いや、サラリーマン専用車両か。

(――ん?)

その時、俺の尻に何かが触れた。
濡れ衣を着せられた時のように誰かの鞄でも当たったかとそう思った次の瞬間、

「――――!!」

尻の肉を後ろから鷲掴わしづかみにされた。
これはもう間違いようがなかった。

俺は今、見知らぬ誰か(男)から痴漢されている。


俺は来月には30歳になる。
来月には所謂三十路の仲間入りだ。
三十路男のケツなんか触って何が面白いんだろう。

そう思って身をひねって逃げようとするも、満員電車の中じゃ逃げられる範囲なんか、たかが知れている。
すぐにまた捕まって、今度は左右の尻肉を両手で鷲掴まれた。

「……ちょ……んぐっ」

その手とは別の手に口を塞がれて、上げようとした声も奪われてしまう。

(――こいつら集団で?!)

気付いた時には遅かった。
また別の手が股間に伸び、陰茎を睾丸ごと握り込まれた。
俺は窓の方に向いて立っていて、後ろがどうなっているのかはわからない。
どうやら俺の目の前に座っているおっさんもこいつらの仲間らしく、前からさわさわと俺の太股の後ろを撫でて来る。

「ふふっ。君、可愛いね。乳首、感じるんだ?」
「んんっっっ」

耳元で囁いた声は俺よりも若干年上のようで、気付いた時には、俺は40前後のおっさんに連中に取り囲まれていた。



*******

「そろそろいいかな」
「……あっ」

それから十数分後、どうやらこの集団のリーダーらしい真後ろに立つ男はそう言うと、俺の口を塞いでいた手を退けた。
この時の俺は知るよしもなかったが、どうやら裏ゲイサイトの痴漢専用スレッドでれるノンケの男がいると書き込まれていたらしかった。
そのスレッドには俺が乗っている車両が特定出来るように書き込まれ、男たちはアイコンタクトで会話している。

「ちょっとなら声出してもいいよ。多分、もうこの車両の乗客ほとんどがお仲間だから」

確かに俺の会社は結構な田舎にあり、この辺りだといつもは座席に座れるくらいに空いてくる。
なのに今日に限って満員だと言うことは、こいつら全員……。
そう思うとぞっとした。

いつの間にか両手で吊り革を掴まされ、その手を複数の手で固定されている。
バンザイをした姿勢で少し前かがみの三十路男。
こんなとこ、知人に見られたら一巻の終わりだ。

方々ほうぼうから伸びて来た手に全身をまさぐられ、俺の愚息は僅かに芯を持っている。
緩くち上がったそれを隠そうと身悶みもだえる度、我ながらくねくねとくねる身体が気色悪い。

「くはぁ……っ」

スーツのボタンを外され、ワイシャツの上から両方の乳首を摘まれている。
それだけならまだいいのだが、乳首をこねたり引っ張られたりするのだから堪らない。

「はぁはあ、おっぱい感じるんだね」

どうやら右側の乳首を弄っているのは斜め後ろのバーコード頭の親父らしく、臭い息を吐きながらまるでAVの台詞のようなことを言われた。
左右の乳首は別々の男に嬲られているから、別々の刺激を与えられてどうにかなりそうだ。

乳首なんか初めて触られたのに。
勿論自分で触ったこともないし。
股間に伸びた手はずっとズボンの上から陰茎を握られていて、そのもどかしい手淫に生理的な涙が滲んだ。

彼女と別れ、もう5年が経つ。
その間に一回もなかったと言えば嘘になるが、こう言うことを誰かにされるのは酷く久しぶりだ。
勿論、男にされるのは初めてだが。

「くはぁ……っ、やめろぉっ」

それより何より忌まわしいのは、ズボンに入り込んだ男の手だった。
先走りに濡れ始めた前には興味がないようで、後ろに差し込まれた見知らぬ男の手。
その手の指が、さっきからずっと俺の尻の穴を弄っている。
下着を巻き込みながら入って来るリアルな感覚に、嫌悪感が凄すぎて吐き気がした。

「……ああっ」

その指が二本に増え、三本に増える。
あくまでも下着越しのため、おそらくは第二関節ぐらいしか入って来ない無骨な指の束。

どうやら指先がちょうど前立腺に当たっているようで、睾丸の裏辺りをえぐられた時の快感は半端なかった。
嫌悪感からなかなか勃起しなかった俺の愚息も完勃ちしてしまい、それを見た男たちはにやにやと下卑た顔で笑っている。

「お尻、気持ちいい?」
「ひあぁっっ!」

リーダー格の男はそう言って、俺の耳を噛んだ。


「ああっ、やめ、やめ――っっ」

ズボンの中の手はどうやらこの男だったようで、手をズボンから引き抜いた後、背後から俺の腰を抱えて自分の腰を押し付けて来た。
散々弄られて敏感になった肛門を彼の巨根で嬲られる。
お互いにズボンの上からの刺激なのに、彼の先端が押し付けられるとその場所が甘く疼いた。

「ね、挿入してみる? 俺のこれ」
「ふぁぁっっ」

耳をはむはむとまれ、ぐりぐりと股間を押し付けられながらそう囁かれたら堪らない。

「くはぁぁ……っ」

やがてズボン越しにピストンされ、擬似セックスとも言えるその行為に酷く興奮した。

「……!!」

そしてまた、彼に口を塞がれる。
今度は彼の唇で。
しかし、彼の唇を楽しむ余裕はなく、口腔を熱い舌で嬲られた。

全身を男たちにまさぐられながら、俺は精液が出なくなるまで何度も繰り返しイかされたのだった。


『次は……』

それなのに終わりはあまりに唐突で。
俺が下車する駅のアナウンスが流れたその時、それを合図に、おっさん連中がわらわらと俺の周りから離れて行く。

何度も射精した下着の惨状だけはどうしようもなかったが、身なりも整えられ、

「じゃあね。お仕事がんばって。楽しかったよ」

リーダー格の男からそう言って送り出された。

あんなに満員だった車両はどうやら俺の周りだけ人口密度が高かったらしく、周りのおっさんたちは俺が降りるスペースを空けてくれた。
まるで花道をふらふらと覚束ない足取りで進む俺に、口々にまた遊ぼうねと声をかけて来る。

こんなことにはもう二度と遭遇したくないと思いつつ、俺はまた同じ時間の通勤電車に乗ってしまうだろうことを歯痒く思って電車を降りた。


End.

※蜜柑さんに『通勤ラッシュの車内で中年集団に痴漢されるアラサーリーマン受け』とのリクエストを頂いて、書き下ろさせて頂きました。

とても楽しかったです。
蜜柑さん、ありがとうございました。
あくまでも痴漢にこだわり、下着越しだったりズボンやシャツ越しの悪戯で終わりましたが、結構満足していたり。

シリーズ内分岐の『モブ集団×藤枝』についてですが、この場合の『モブ』は本来の意味の集団や群集じゃなく、物語における脇役やその他大勢のキャラを意味するモブキャラを指します。
なので『集団集団』じゃなく『モブキャラ集団』とか『脇役集団』という意味で『モブ集団』という語句を使っています。

因みに『藤枝』は主人公の苗字です。


▽シリーズ
満員電車
リクエスト

2017/01/07


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