ケーキパイに隠したモノ



「いよっと」

校門を乗り越えて、見事着地する。
ここから先は死地……。並みの覚悟じゃ生きていけないだろう。
深呼吸を一つ吐いて、決心する。やってやる。オレはやってみせるぜ!

今日は5月5日。ゴールデンウィークで祝日でこどもの日で学校は休み。ついでに言うと、最凶と恐れられている風紀委員長の雲雀の誕生日でもある。
つーか、ぶっちゃけ今日は「ついで」が主題だったりする。
つまり今日学校が休みなのに来ているのは、日頃様々な意味で世話になっている雲雀のお祝いのためだ。もちろん様々な意味を込めたプレゼント付き。
心の中で己を励まし、いざ!

「おい、そこで何をしている?」

門の外から声を掛けられて振り向く。
時代外れのリーゼントで枝を咥えた、奴の側近の……。
……名前覚えてねぇや。

「今日は休校のはずだ。何故中に入って――」
「あれ?今日って学校休みッスか?」
「……お前、私服着てるじゃないか」
「そっちこそ学ラン着てんじゃないッスか」

……。

「じゃ、そーいうことで!」
「あ、おい待て!」

門外に居るのをいいことに、そのままダッシュして離れた。

実は今日、山本が少年野球チーム達と草野球するらしく、その応援に行く予定だった。
ところが、どこで話が脱線したのか、その日が雲雀の誕生日だということが判明した。主にハルと歩実が情報源だ。
誕生日なら祝うかとブッ飛んだ話まで発展していったが、しかし当の本人がパーティーなどを楽しむ人間じゃない。
当人が楽しめるモノ、且つ祝えるモノ。そんなモン一つしかない。

パイ投げ。

案はもちろん、このオレ。つか、元々ケンカ売ればいいんじゃね?それにプラスしてパイもお見舞いするんだ。プレゼントだぞ?立派な誕生日会じゃないか。
持参した紙袋に入っているケーキパイを確認。多少見てくれは悪くても、用途が違うから平気だろう。大丈夫だ。

奴は十中八九、応接室に居るはず。そこへ向かって走りだ出す。

計画としてはこうだ。
オレが雲雀にケンカを売って、上手い具合にケーキパイを投げつける。パイが切れたら門前まで戻る。
外で待つツナ、歩実、姉ちゃんが、どうにでもなれ精神で投げ入れる……。そういう流れだ。
残った獄寺は、見回しているだろうリーゼント風紀委員達の相手をする。オレが見つかったのも計算の内だ(歩実の)。
山本は平穏な草野球と予定通り。

ぶっちゃけオレだけじゃムリだって話だったけど、獄寺が付き合う訳がない。ツナなんか問題外だろ。歩実も姉ちゃんも巻き込むな的な目で見るし。つかツナよりあてにならねぇよ。
で、残ったのがオレ一人だった訳だ。こうなりゃ意地だ。やってやるぜチクショーが!

応接室に着いて、勢い良くドアを開け放つ。

「しつれーいたしまぁぁーす!」

怒号と共に、早速ケーキパイを投げる。ソファに投げたが、雲雀はディスクチェアの方に居た。
先手は失敗に終わる。

「……バカに輪をかけた行動だね」
「うるせぇ!いいから食らいやが…れッ!」

思いっきり振りかぶって、奴の頭を狙う。
雲雀はそれより速く避けて、オレとの間合いを詰める。
どこから出したのかトンファーを構えて振り下ろすが、オレはそれをパイで受け止める。
ベチャ、という戦闘とはかけ離れた間抜けな音と、甘い匂いが応接室に広がった。

「何の真似?嫌がらせにしてはずいぶん手が込んでるけど?」
「バーカ!んな陰湿なことするかよ!つか嫌がらせだったらもっと上手くやるし!」
「……。ふぅん…」

納得したのかしてないのか、奴はそれだけ呟くと、今度は蹴り上げてきた。とっさに身を引いて躱し、距離を取る。

「なんでここに居るんだい?今日は休校のはずだよ」
「リーゼント野郎にも言われたけど、お前らだって同じだろ」
「僕は良いんだよ、風紀委員長だからね」

どんな権限だよ。

「それに応接室もこんなに汚して……」
「お前が当たれば部屋は汚れねぇよ」
「君、咬み殺されたいの?」

結局それが言いたかっただけじゃねぇか。
内心でツッコミを入れるが、室内の温度が一気に下がったのを感じた。相変わらずの強い殺気に、思わず血が沸きそうになる。
だが。

「今日はそういうつもり無いんでね!」

言葉と共にケーキパイを投げて、行く末を見届ける前に応接室を出る。
持ち前の脚力である程度離してから、適当に投げる。
総合的な戦闘力は雲雀が上だろーが、足だけはオレが上だね!紙一重だろうけど!持久力戦上等だァァー!!


…しばらく経過…


上等……だけど、あいつタフ過ぎじゃね?オレはまだ余裕だけど、あの野郎汗ひとつかいてないってどういうことだよ!?

「チッ。くそ……」
「スピードが落ちてるよ」

言葉と同時に、トンファーで横殴りしてくる。

「うおっ!あっぶねぇーな!」

間一髪で避けて、パイを構える。こうなりゃヤケだ。

「食らえ連続攻撃!」

文字通り、パイの全てを高速に投げる。足だけが速いわけじゃないんだよ!
ところが、ケーキパイは雲雀を自ら避けるかの如く当たらない。当たる前に落下するか、窓へ急カーブする。あいつ見えないバリアでも張ってんのか?!
最後の二つを構える。内一つはビアンキ姐さん特製『ポイズンケーキパイ』だ。食らえばひとたまりもないだろうが、このままじゃ当たることはない……。
この際、毒ケーキは囮にして、とにかくケーキパイを当てることに専念する。つまり、時間差攻撃。
毒ケーキを投げた後、一瞬遅れて普通のケーキパイも投げる。ただ投げるだけじゃ当たらないだろうから、この時は何か気を引く事をしなきゃな……。
まぁ考えるより行動!つーわけで……。

「最終奥義だ食らいやがれぇー!」

作戦通り二つ共投げて、すぐ後を走る。
あいにく武器は持参してないが、それでも何かしら、オレに対しての行動準備があるだろ。その一瞬で、毒ケーキに隠れた普通のケーキが当たれば……!
雲雀は予想通り、毒ケーキということに戸惑うこともなく、何食わぬ顔で数歩ずれて避けた。が、そこで予想だにしない事が起きた。思わず足を止める。
雲雀は廊下に四散していたケーキパイを踏んで、足を滑らせた。あの雲雀が、一瞬だけでも滑った。そしてその一瞬は、事前に投げたケーキパイの隙へと変わる。

ベチャ。いやに廊下に響いた……。

当たったのはトンファー。しかし、勢い余ってケーキが腕に付いている。ぼとぼととケーキがこぼれ落ちる先は、雲雀の膝。
とっさに身を屈めたが、屈め過ぎると足元を取られて転倒する。それを回避するために、中途半端な体勢になり、危うく頭部直撃だったのをトンファーで軽減させたのだ。
そう、軽減。当たったんだ。あいつ当たっちゃったんだ。

「ぃよっしゃぁぁー!」

積年の恨み、ついに晴らせたり!
つかスゴくね?ミスしまくってたケーキパイが、まさかトラップになるなど!きっと誰も想像してなかったに違いない!だってあの雲雀が滑るんだぞ?想像出来るはずがねぇ!
ちらりと、ケーキの付いた膝と腕を見る。
ダメだ、笑いがこみ上げてくる……。あいつダッセー、当たっちゃってるよ。プッ。

「……君は絶対に、咬み殺す」

宣言と共に、トンファーに金具が出てきた。見てくれは立派な凶器だぞ。

「ちょ、え?怒った?」

返事の代わりか、合図と受け取ったのか。オレが言うのと同時に駆け出した。
慌てて逃げる。

「んな本気で怒るなよ!お遊びだろ!」
「うるさい」

その後、パイ投げからリアル鬼ごっこになったのは言うまでもない……。


…―…―…―…


甘ったるい匂いが充満する廊下。一体誰が掃除すると思ってるんだ。
校庭に目線を向ける。今だ追いかけっこを続けている二人を見る限り、絶対にやらないだろう事が伺える。
門前で彼女を見かけて嫌な予感がしたが、まさかここまでの事になるとは……。
思わず盛大な溜息が出る。
とりあえず、まずは換気だ。こうも甘い匂いが漂っていたら、悪酔いしそうだ。
窓に張り付いたケーキパイを見ながら、窓を開けて空気を入れ替える。どういう投げ方をしたらこんなところに当たるんだ。

ふと、目が止まる。張り付いたケーキパイに、耐水性のメッセージカードが入っているのを見つけた。
当たったら痛いだろうと頭の隅で思いながら、書いてある字を読む。

『ハッピーバースデー  雲省!』

…………。
『省』ではなく、『雀』だ。

「まったく……。字を間違えるとは……」

根本的に駄目じゃないか。


そう呟いた草壁の顔は笑んでいた。



(うおーい!)
(あ、来た……って、雲雀さんも来てるー?!)
(テメェー何連れてきてんだよ!)
(あれ?でも、なんかケーキ付いてない?)
(ホントだー。でかした希雀!)
(だろ!オレマジスゴくね?!)
(君達全員咬み殺す)
(ええぇ!ご本人マジギレ?!)
(ダメじゃん本人楽しませないと!)
(パイ投げられて楽しめる奴いねぇよ!)
(お前が発案したんだろ!)
(言ってること滅茶苦茶だ……!)
(言ってる場合じゃないよ、逃げよ)
(ちょ、待て待て!オレを置いていくな!)
(大丈夫、みんな心は一つだから)
(さよなら希雀、寂しくなるナー)
(お前今の顔がどんだけ歪んでるか知ってるか?!……てか、ちょ、まっ……ぎゃああああぁァァああ!)