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小さい頃の話だ。私には自慢の幼馴染がいた。
家は隣同士、家族ぐるみの仲という絵に描いたような関係で、その幼馴染は1つ下の男の子だったけど、お互い全く気にすることなく遊んでいた。
何が自慢なのかといえば、それは彼の学習能力の高さだった。
新しい遊びを教えれば数日後にはマスターして、逆に私に教えてくれたりする。その要領の良さに、私は子供ながらに感動したほどだ。
私は、それはもう情けないくらいに要領が悪かった。何をやっても失敗ばかりで一向に上手くならない。だから彼にすごく憧れて、どんどん上手くなっていく幼馴染を、まるで自分のことのように自慢した。私の鋼くんすごいでしょ!といった具合に。
幼馴染の名前は村上鋼という。普段は何を考えているのか分からないくらい無表情だけど、よく笑って、けどちょっと泣き虫なところもある、素直で優しい男の子だ。小学生になって異性を気にし始める年頃になっても、鋼くんは変わらず私と遊んでくれた。
事件が起きたのはそんなときだった。みんなでわいわい遊んでいるときに、ふと誰かが言ったのだ。


「なまえちゃんは鋼くんより年上なのに全然上手くならないね」


私はこの言葉に衝撃を受けた。鋼くんが年下だという事実に、このとき初めて気付いたからだ。学年が違うことは当たり前すぎて忘れていたし、同学年の男の子より落ち着いているから、年下という印象が全くなかったのだ。
これはいけないと、当時の私は焦った。私の方がお姉ちゃんなのだからしっかりしないと。子供が持つ規定概念は単純で、それは使命感といっても大げさではないと思う。少なくとも当時の私にしてみれば重大なことだった。
それから私は特訓を始めた。上手くなるためだからと自分に言い聞かせて、みんなと遊ぶのも我慢した。ちょっと上達した気がしてまた一緒に遊んで、それでもやっぱり鋼くんには敵わなかった。ヒーローみたいに活躍する鋼くんが誇らしい反面、ちっとも上手くならない自分が惨めで悔しかった。それが顔に出ていたのかもしれない。


「もうなまえちゃんとは一緒に遊ばない」


ある日鋼くんが私に言った言葉で、それが彼と交わした最後の言葉だった。