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「もうなまえちゃんとは一緒に遊ばない」


小さい頃の話だ。俺は大好きな幼馴染にそう言って、彼女を傷付けてしまった。
幼馴染の名前はみょうじなまえという。どんなときでも明るくて、何事にも一生懸命で、こんな俺をいつも遊びに誘ってくれた。俺はそれが嬉しくて、どこに行っても彼女の後ろを無遠慮についてまわっていた。
なまえちゃんは、俺と遊ぶのが楽しいと言ってくれたことがあった。覚えたての技を見せると、すごいとかカッコイイとか、大げさなまでに褒めてくれる。さすがに小学生に上がってからは恥ずかしかったけど、それ以上に嬉しかった。俺はなまえちゃんの笑顔が大好きだった。
そんな彼女が、ある日を境に一緒に遊ぶのを拒んだ。


「ごめんね、本当にごめん!ちょっと今日は一緒に遊べないの」

「……どうして?」

「え、えっと……な、内緒!あ、ついてきちゃダメだよ!」


本当にごめんね!そう叫びながら去っていくなまえちゃんを見送る日が続いた。
嫌われたのかと思った。小さい頃から、俺は友達と遊ぶのが向いてないと自覚していたし、実際なまえちゃんの友達以外はみんな離れていった。なまえちゃんに嫌われたらどうしよう。一緒に居てくれるのが当たり前だと思っていたから、途端に怖くなった。
でも数日後、彼女はいつもと変わらない明るい顔で、俺と一緒に遊んでくれた。何も考えなかった俺は、また遊んでくれたことに喜んで、とても張り切った。それはもう、おもいっきり。彼女の笑顔が見たかった。見れば、全部元通りになると思った。明日からいつものようになまえちゃんはそばに居てくれて、一緒に遊べない日なんてもう二度と来ないだろうと。浅はかで自分勝手な考えだ。
彼女はその日、笑わなかった。端から見れば彼女はちゃんと笑っていたし、活躍した俺を褒めてくれた。でもそれは、いつも俺が見ているものとは全く別物だった。何故そう見えたのかは分からないが、きっとずっと一緒に居たから分かったのかもしれない。なまえちゃんは泣きそうな顔をしていた。そんな顔をしてほしくない。そう思ったが、これはきっと自分がそうさせたのだと、なんとなく分かってしまった。
なんてことない、いつもと同じじゃないか。俺と遊ぶと、みんなそのうち離れていく。なまえちゃんは他の人よりも長く居てくれただけで、結局は同じなのだ。彼女が特別だったわけじゃない。そう思うと悲しくて、寂しくて、けれどいらいらした。これは八つ当たりに近い感情だと思う。本当に勝手だな。
その日から数日後、なまえちゃんは何事もなかったようにまた遊びに誘ってくれた。俺はそこで言ってしまったんだ、あの言葉を。


「もうなまえちゃんとは一緒に遊ばない」


彼女は驚いていた。それを見た瞬間に、俺は後悔した。すぐに取り消そうとも思った。嘘だよ。そう言えば、きっと彼女は笑って許してくれたかもしれない。虫のいい話に聞こえるが、当時の俺は本気でそう思っていた。だが実行しなかった。


「どうして?私のこと嫌いになっちゃった?」


なまえちゃんが戸惑っていたことは、当時の俺でも分かった。それがまた俺をいらつかせた。まだ気にかけてくれる彼女の優しさが、初めて煩わしいと思った。今考えると、俺はなまえちゃんに甘えていたんだと思う。彼女がまだ離れていかないのをいいことに、俺はへそ曲がりで馬鹿な意地を張ってしまった。
なまえちゃんがまだ何か言っているのを無視して、その場から逃げ出した。後ろから呼び止める声も無視した。いつもは俺が呼び止めていたのに。そんな場違いなことを思いながら走っていた。彼女が呼び止めようとしてくれたことが、ほんの少し嬉しかったのを覚えている。我ながら能天気なものだ。それが彼女との最後の会話だというのに。