始まる

いつもの出勤時間よりも大分早く家を出て、いかにも怪しい黒塗りの車に乗り込んだ。相変わらず表情の機微が貧しい鉄仮面(しかしイケメン)のお役人さんが助手席に座っており、多分部下であろう若々しい爽やかな男性が運転席からルームミラー越しに軽く会釈をした。反射的に私も頭を下げる。置かれている状況は側から見れば結構なハラハラものだが、運転席に座る彼の人の良さそうな顔を見たら、余計な緊張も解れた。




車に揺られること数時間。やたらと規模がデカい研究施設へと連れて行かれ、一瞬人体実験の材料にされるのでは?と思ったのだが、通されたのは壁から天井、床までもが真っ白な部屋だった。机も椅子もなく、あるのは中央にぽつんと置かれた人が一人乗れるくらいの丸い円盤。円盤を囲むように、薄ぼんやりと緑の柱が立っており、それはどこからどう見てもセーブポイントであった。

「なんですかこれ」

隣にいる鉄仮面、もとい佐藤さん(名刺を貰った時から名前を知っていたのに、呼ぶタイミングを逃した)に聞いてみる。すると私に視線を寄越すことなく、円盤を真っ直ぐ見つめながら、「転送装置です」と答えた。

「てんそうそうち」

この国の科学は私たち一般市民の想像以上に進んでいたらしい。

「とりあえず乗ってみれば分かります」
「佐藤さんって結構雑ですよね」

私の発言は軽くスルーし、「ではこちらへ」と転送装置へと誘導する。緑の柱の中に立ち、佐藤さんを見つめた。

「後から行きますので、先にどうぞ」

佐藤さんがそう言い放った瞬間、ブワッと視界が揺れた。動揺をする間も無く、さっきまで居た部屋から移動したようだ。瞬きをしてピントを合わせ辺りを見回すと、目の前にやたらとご立派な日本家屋があった。思わず「ご立派…」と零してしまう。

「ここが本丸です」
「うおっ」

背後から声が降って来た。振り返ると、後から来ると言っていた佐藤さんが背後に立っていた。佐藤さんの言葉を反芻する。「ここが本丸です」―――本丸とは各審神者に与えられた拠点であり、ここで刀剣男士に指示を出したり他雑務をしたりする、らしい。
車の中で一通りの説明を受けていた私は、こんな立派なおうちがこれから私の住む場所なのか…と感動していた。戦争に参加して身を危険に晒していること、誰にでもなれるような職業じゃないことから、報奨金もたらふく貰えるそうだし、こんなに厚遇だなんて思ってもみなかった。

「ぼんやり突っ立ってないでさっさと中に入りましょう。他にも説明することが山ほどあります。」

彼は全くブレず辛辣である。


玄関口で履物を脱ぎ、廊下を歩きながら各部屋の説明を受けた。車での説明はあくまでも簡略的なものだから、と広辞苑並に分厚いマニュアルを手渡されたときは気が遠くなりそうだったが、佐藤さんが「習うより慣れろ的な面が多い仕事ですので」とフォローを入れてくれた。佐藤さん、辛辣だができる男。

「ではここからは本丸を管理する式神に」