「―――ここまでが一通りの説明となります。何か疑問点などはございますか?」
決して広いとは言い難いワンルームマンションの一室で男女が向かい合って座っている、それもそれなりに良い時間に。しかし、間に流れる空気はビジネス一辺倒。そこに男女間の情はなく、あるのは利害だけである。
それもそのはずだ。私たちはこれから戦争へ行くのだから。
彼の説明は簡潔に言えばこうだった。
自分たちの都合の良い歴史に改変しようとする歴史修正主義者と時間遡行軍という輩がいるらしい。ここからしてすでにSFファンタジー。その歴史修正主義者と時間遡行軍の目論見を阻止しなければ、私たちが今現在生活している現代においても様々な支障が出るそうだ。否、ついこの間まで普通に生活をしていた人が突然世界から隔絶され居場所を失ったり、夫婦として出会うはずだった男女が別の人と結婚し生まれすはずだった子どもがいなくなったり、もう既に様々な事象が報告されている。
一刻も早く彼らへの対処が求められるのだが、彼らは各時代に散らばっており、本拠地を一気にぶっ叩くことは不可能である。また、当時その時代になかった武器や兵器を持ち込むことは歴史改変にあたるため、文明の利器は全く使えないそうだ。どん詰まりかな?
ここで登場するのが、私が先ほど何度か聞き間違えたはにわこと“審神者”である。審神者とは、簡潔に言えば神様を降ろす人のことで、この戦争では重要なキーマンだ。数多の戦を駆け抜けた刀の付喪神を人型へと降ろし、自分の代わりに戦場で戦ってもらう、のだそうだ。現代の兵器が持ち込めないのであれば、その時代に存在している武器を使ってしまえという発想である。なるほど。仕組みはさっぱり分からん。
しかもこの“審神者”とやら、志願すれば誰でもなれるという訳ではなく、ある程度霊力とやらがないとできないらしい。神職に就いている人や、そういう家系の人がなりやすいらしいのだが、一般家庭で何の取り柄のない私でも霊力はあるそうだ。霊的なものには一生縁がないものだと思っていただけに、いまいち実感が薄い。
「疑問というか、もう何が何だか訳がわからんのですが……」
「皆さんよくそうおっしゃられます」
そりゃそうだ。私なりに色々と噛み砕いて理解しようと頭をひねったが、やっぱりよく分からない。分かっていることは、これが夢ではないこと、これから私はとんでもないことに巻き込まれるんだろうな、くらいである。
「―――あなたはまだ冷静な方です。審神者に拒否権はありませんから、いくら“世界を救う為だ”と説いても、自分には関係ないと暴れ出す方や精神を病む方もいらっしゃいますので。」
突然「戦争をしてください」「世界を救ってください」と言われて、二つ返事で了承をする馬鹿は早々いないだろう。目の前のお役人さんも分かっているはずだ。
しかし、彼も仕事なのだ。所詮彼も私も下っ端で雇われの身。彼は出会ってから冷静に、淡々と話しているが、やはり顔から疲労が滲み出ている。簡潔に言えば、人を戦地へと送る仕事だ。体力的にも精神的にも辛い仕事であることはよく分かる。
「実感は全く湧いてませんけど、拒否権がないのならやります」
平成生まれで戦争のせの字も知らない、ゆとりど真ん中世代である私にとって、とんでもなく大変なことが待ち受けているであろうことはもう分かっていた。しかし、こんな事態に巻き込まれていながら、浮き足立っている自分もいるのだ。
軽率なことは十分分かっている。それでも、この胸の高鳴りは嘘にはできない。
「では早速手続きに入ります」
今日はもう遅いので明日の早朝にてお迎えに参ります、と続けた。私は二つ返事で了承する。着替えなどあちらへ持って行きたいものは、整理してカバンに詰めよう。あ、でも、来月の税金や各種料金の支払いはどうしよう。
「身辺の整理など必要なことはこちらで全てやっておきますので」
「マジか」
至れり尽くせりである。
