君に祝福を

「あ、ねぇ、私が死んだら私の石、ネロに渡してくれる?」 私の突拍子も無い話に、はぁ?と言いたげな顔をするブラッド。 「テメェがネロに言えばいいだろ」 なんて呆れたように言って、私を一瞥した後、そのまま銃の手入れを続けている。 ネロは、私の石を受け取ってくれない気がする。 きっと、私と知ったらブラッドに渡してしまう気がするし。 「そんなこと言わないでよ、私と貴方の仲でしょう?」 そう気安くいえば、ハッと鼻で笑うだけだった。 ブラッドの部屋の質の良いソファの上で膝を抱えて座る私は、相当滑稽だろう。 「そもそも、なんで俺にネロのこと話すんだよ、もっとこう、そういうのは女同士でするもんじゃねぇのか?賢者とかよぉ」 「賢者さんになんて絶対言えない…賢者さん絶対ネロのこと好きだし、ネロも賢者さんのこと絶対好きだから、あのふたり両想いだよ!?そんな、亀裂の入ることできない…」 捲し立てるように矢継ぎ早に言葉を繋ぐ私に、お、おう…と引き気味のブラッドに、やってしまったと思ったが、ここまできたら全て話してしまった方が楽な気がした。 「ねぇ、いいワインあるの、一緒に飲んでくれるわよね?」 面倒くさそうな顔を隠しもしない彼に、銘柄を言えばパッと笑顔になった。 一度部屋に戻って、ワインを手に取ってから、おつまみも欲しくなった。 自室の食材をみて、キッチンに寄ることにした。 キッチンに向かえば、明かりが廊下に漏れていて、人がいるのだと思った。 …まだ、ネロが起きているのかな、と少しの期待と明日の日付を思えば、もう部屋に帰ってそうな気がして、明かりの消し忘れだと思った。 入って見れば、案の定、明かりの消し忘れで、誰もいない少し寂しいキッチンだった。 持ってきたものと、食糧庫からすこし食材を拝借する。 もちろん、明日ちゃんと使った分を買いに行く予定なので問題はない。 それに、ネロに言ったらなんだかんだ許されてしまうから、そこはちゃんとしている。 鍋に油を入れて、笑いニンニク、オスのオアシスピッグ、ヌガー芋を入れて火にかけて蓋をしてその様子を眺める。ぱちぱちとなる鍋の音を聞く。なんとなく、焚き火の薪が爆ぜる音みたいに思えた。北に帰った時、星を眺めながら焚き火を焚こうと思った。 そんな風に物思いに耽っていると、足音がする。 誰かが水を飲みにきたのだろうか? 眠れない人だったら、ホットミルクでも作ってあげようかな、なんて、お節介。 鍋の火を止めて、ミルクパンを取り出して、二人分温める。 いらないといわれたら、ブラッドに無理やり飲ませよう。 そう考えて、手からぽろぽろ生み落ちていくシュガーを見つめていた。 「シュガーの色、変わらないんだな」 足音の主がそう聞いてきた。顔を上げなくても、わかる。 「うん、この色が好きだから、この色になっちゃうみたい、ところで、ホットミルクはいる?」 顔をゆっくり上げて、そう聞く。 「せっかくだし、もらおうかな」 傍に置かれていた椅子に腰をかけるネロに、ホットミルクがはいったマグカップを渡す。 「眠れないの?」 「いや、キッチンの整理して部屋に戻ってたんだけど、明かりを消し忘れたの思い出してさ」 「だから誰もいないのに明かりがついていたんだ」 「そういうこと、で、俺に内緒でキッチン使って何作ってたんだ?」 「料理長にバレちゃったら、言い訳できないわね」 「料理長って…そんなんでもないけどな」 そう笑っていうネロに 鍋の蓋を開けて、みせれば、これ…と驚いた顔をして私をみていた。 「晩酌するためのおつまみに作ってたの、ネロのほど美味しいものじゃないけど、たべる?口止め料として」 そう言えば、戸棚からお皿を出してきたので、少し笑ってしまった。 アヒージョを食べたネロは、「美味いよこれ、俺のよりずっと」なんて褒めてくれた。 「ありがとう、ネロに褒められるなんて嬉しいな、もう少し料理頑張ってみようかな」 なんて言って、ふたりで笑い合った。 明日がネロの誕生日で、独りよがりで作ったネロの好物をネロが食べてくれて、 もう、しあわせで、今、この時、石になって貴方に食べてもらえたら、なんて。 物思いに耽っていれば、ネロが私の顔を覗き込んでいた。 「なぁ、俺も晩酌参加していいか?」 「ブラッドも一緒でいいなら…」 「あいつ…だから量が多かったのか…」 「うん、って言っても、私の相談にのってもらうだけなんだけどね」 そう笑って言えば、眉を顰めるネロ。 「それ、俺じゃダメなこと?」 貴方のことを相談しています、なんて言えない。 何て答えようかな、と思いつつ適当に答えようと口を開きかけた時。 「おい、いつまで俺様を待たせんだよ」 キッチンの入り口には、ブラッドが立っていた。 「あ、ごめん、おつまみ作ってたの」 「まぁ、それ寄越すなら見逃してやるよ、ついでにいいワインもな」 「もともとそのつもりでしょ、あ、ネロも一緒でもいい?」 「あ?お前はそれでいいのかよ」 「うん、一緒ならもっと楽しいでしょ、ブラッドも」 そう言えば、ブラッドはネロのほうを見ていた。 少しの沈黙。 「なぁ、ブラッド」 「ワインとこのつまみ置いてくならいいぜ」 「ありがとな」 会話が終わったと思ったら、ネロが私の手を引いて、 キッチンを出ていて、気づけばネロの部屋に。 「あー…まぁ、俺じゃ役不足かも死んないけどさ、俺のこと、頼ってよ」 部屋に入って早々、そう言われて驚いてしまった。 隣合って座ったベッドが少し軋んだ。 「ネロのこと、十分すぎるくらいに頼りにしているよ」 そう素直な気持ちを伝えたのに、あんまり伝わってはいないようだった。 「なぁ、ブラッドに相談することってなんだったんだよ」 「う〜ん、なんだろ、恋愛相談…と言うよりは、私が死んだ時の話かなぁ……」 「はぁ?なんで、ブラッドにそんなこと…」 「私、死んだら私を食べて欲しい人が居るの、ネロもいるでしょう?だから、どうやったら、食べてもらえるかなって」 「誰」 「言わないよ、それに、きっとその人は私を食べてくれなさそうだし」 「相談って、ブラッドに食ってくれるように頼み込みにいってたのか?」 「ブラッドは私なんかの魔力要る?でも、ブラッドは丁寧に弔ってくれるから振られたらお願いしようかな」 「そもそも、あんたに頼み込まれて断る奴なんているのか?」 「きっと重いって断られるよ、それに、俺なんかより良い奴がいるよっていって他の人を薦めてきそうだし」 伝わったのかな、伝わってないといいな、 「それにきっと、私の想いは邪魔だろうから、その人のことを応援するって決めたの。素敵な人に出会って、いま、本当に幸せそうだから」 そう言って、ネロと賢者さんのことを応援して、溢れそうな想いに蓋をする。 「なぁ、あんたが死んだら、あんたの石は俺が貰ってもいい?」 「へ…」 「まぁ、生きててくれる事のが嬉しいけどさ、死んだら俺と一緒になってよ」 「……なんで、そういうこと言うの」 「あんたのこと振る男に、あんたをあげたくないから」 「私はネロのものじゃないのに?」 「……おれが、嫌だからじゃダメ?」 「死んだ後だけでいいの?」 「…それって」 「今、要らないの?」 「え、は、」 「わたし、ネロにたべられたいんだよ」 言ってしまった言葉はもう戻らない。 「ブラッドに、私が死んだら私の石をネロに渡してってお願いを一晩中するつもりだったのよ、私」 そう言葉を続けると、はーっと大きなため息を吐いて、 私の肩に温もりと重み。 「俺、自分に嫉妬してたんじゃん…」 「ネロが私のこと結構大切に思ってくれてて嬉しいよ」 ぐりぐりと肩に頭を押し付けてくるネロは猫みたいで、 その水色の綺麗な髪を撫でる。 こんな時間が続けば良いな、って思っていると、遠くから時計のなる音。 日付の変わる音。 「お誕生日、おめでとうネロ。貴方に目一杯の祝福と幸運を」 喜びとむず痒さが入り交じった表情。 うん、いつものネロがそこに居て、今日という日の主役の貴方がいる。 君に幸多からんことを

ネロ、お誕生日おめでとう。貴方にたくさんの祝福がありますように
いつか加筆修正する


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