宿直の先生02(木舌)


廊下を歩いていると、ふと前方に軍服姿が見えた。


きっと『鏡』の誰かだろう。

そう思い、特に気にも留めず足を進めていく内に、青緑の瞳と目が合う。


いや、目が、在った。


前にミキオの目玉だと勘違いし、しばらくこの手に持ち歩いていたものだ。

反射的に足が止まる。


それに気付いたのか、今度は向こうからこちらへと近付いてきた。


「木舌さん…?」

「こんにちは。」


それとも「こんばんは」かな?

そう言って律儀に軍帽を外して微笑んだのは、少し前の騒動で知り合った獄卒の一人、それも『本人』だった。

つられるように挨拶を返しながら、つい首を傾げてしまう。


「どうかされたんですか?まさか、また何か…?」

「いや、ただあれからどうなったのかなって思って、ちょっと様子を見に。」

「そうですか、それはわざわざどうも。」


とはいえ、あれから特に何もなく、普通に『ここでの日常』が続いている。

破壊された一部校舎は元から似たような状態だし、亡者についても、ここにいるモノ達にとっては「校庭に迷い込んだ犬」程度の認識だった。


むしろ、あれはここ最近で一番盛り上がったイベントなのかもしれない。


なんて少々ばつの悪さを感じながら顔を上げると再びその瞳と目が合い、ようやく自分が見下ろされていることに気が付いた。


「ここで立ち話もなんですし、良かったら向こうで座りながらお茶でもどうぞ。」

「じゃあ、お言葉に甘えて。あ、お酒があったら嬉しいなぁ。」

「はは、残念ながら一応ここは学校なので。お酒はありませんよ。」






怪談の中にただ一人、生身の人間。

その状況について、どうやら現在、当の本人が忘れてしまっているらしい。


そして、自身が頼んだ事柄についても。



『あの先生、ここから出られなくなって困っているんだって。だから、』



同僚の言葉を思い出しながら、木舌は自分の前を歩くその後ろ姿にそっと目を細めた。


(……本当は『帰る方法』を伝えにきたんだけど…忘れてるみたいだし、もう、いいかな?)





帰れない先生

(だって、それを教えてしまったらもう会えなくなってしまう、かも)(だろう?)

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嘘つき、ロンリー。