【やなぎのした】壱
何が起こったのか、訳が解らなかった。
ただ「逃げろっ!」と叫ぶ父の声に背中を押され、脇目も振らずにひたすら走った。
【孤児】
がちがちと噛み合わない歯。
がたがたと収まらない身体の震え。
辺りを漂う露の匂いは冷たく、纏わり付く饐えた臭いはやけに生温かく感じた。
一体自分はいつからこうしているのだろう。
朝を迎え、夜が来て、また朝を迎え…
「…おい、お前。」
「っ…」
突然降り懸かった声に肩が飛び跳ね、反射的に顔を上げた。
いつの間にそこにいたのか、少年が一人、訝しげにこちらを見下ろし、佇んでいた。
「…暗くなる前に帰れよ。」
自分と同じ年頃の、いや少し向こうが上だろうか。
吐き捨てるようにそう言うと、少年は踵を返そうと着物を翻した。
咄嗟にその袖を掴んでしまい、振り向いた少年の顔が不機嫌そうに歪む。
「何だ?」
「あっ…あっ……」
(怖い)
離さなくては。
(恐い)
離さなくては。
(こわい)
はなさなくては。
(こわ、い)
何か、話さなくては。
「わ、わたしの父は、小さな商いをしてましてっー…」
それは何度繰り返されたか分からない、朝と夜の合間。
柳の下の、出来事だった。
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嘘つき、ロンリー。