【狐火】薬売りと修験者


※時系列的に『海坊主』の後の話。






日の暮れた、薄暗い庭園にぽつりぽつりと浮かぶは青白い炎。


化け物が出るというから来てみれば、何てことはない。

どこぞの子狐の悪戯、さっさと油揚げでもやれば済む話。


「…しっかしまぁ、妙なもんに化けやがったな。」


宛がわれた部屋の中央にごろりと横たわり、黒兎が呟く。

すると、押し殺すような笑い声が返ってきた。


「化けるなど…私はただの薬売りですよ。」


どんな言い訳が出るかと思えば、「薬売り」。

それを鼻で笑いながら、黒兎は己を見下ろす奇妙な風体の男を見上げた。


「お前さん、鏡で確認しねかったのかい?とても薬売りにゃあ見えねぇよ。」


どちらかと言えば役者と言われた方がまだしっくりする。

ふとその瞬間、(あぁ、なるほど)とそれに思い当たった。


「…まぁ、いい。ちょっくらこっちに座って酒の相手でもしてくれや。」


上体を起こした黒兎は隣をぽんぽん叩いて促した。


化け物退治と聞いて、宿泊客の一人がからかいに来たのだろう。

狐臭さよりも幽玄の薫りを漂わせ、それらしい化粧までしている辺り、もしかしたら能に通じてるのかもしれない。


宿屋の主人が油揚げを用意している間、戯れに付き合うのも悪くはないと思った。


「では、お一つ…」


誘いに乗った「薬売り」が腰を下ろす。


庭園の青白い炎に照らされた面は、恐ろしく整っていた。




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嘘つき、ロンリー。