踏鞴場の長と青年06
書状に目を通し終えた…かと思えば、エボシ御前は何故だか近くを通りかかった女達を呼び止めた。
「お前達、これが何か解るかい?」
「さぁ?何て書いてあるんですか?」
「天朝様の書き付けだよ。」
「てんちょうさま?」
女達の反応からそれがいかに無用のものであるか、このジコ坊に知らしめてやろうという魂胆であろう。
まこと不敵なる女傑よなと笑ってやれば、エボシもまた笑う。
そして笑いながらそれを傍らの従者へ無造作に手渡す姿に、不意に思い出したことがあった。
「そう言えば男が一人、訪ねて来なかったか?」
紙切れがその懐に完全に収められるのを見届け、口を開く。
「見慣れぬアカシシに乗った……そうさな、年の頃はそちらの御仁とさほど変わらぬ若い男だ。」
いや、年どころか背格好、雰囲気までどことなく似通っている。
初め見た時には同一人物かと勘違いしてしまったほど。
と、そこまで話してようやく、その人物に心当たりがあったのか、エボシは鷹揚に頷いてみせた。
「あぁ、もうここにはいないが…あの者はこれと同郷でな。気風が似ていても不思議はあるまい。」
「なるほど…いやしかし、東の国の若者が二人、この遠き地にて相見えるとは、まこと縁とはおかしきものよなぁ。」
して、そちらにもあの鬼神のような力がありなさるのかな?
そう揶揄するように言葉を掛け、だが鋭く視線を従者へと差し向ける。
するとその若者は困ったように苦笑し、そして小さく首を横に振って見せた。
同郷とはいえ、さほど見知った間柄ではなかったか。
答えたのはエボシだった。
「あまりからかうな、ジコ坊。あれはあちらが特別なのであって、これには何の力もないよ。」
「おぉ、これは失礼した!いや何、そんなつもりは微塵もなかったのだ。許されよ。」
話し終え、頃合いを見計らってエボシが腰を上げると、若き従者が黙ってそれに続く。
そんな二人の背に向け、最後に問いを投げ掛けた。
「かの者はこれよりどこへ向かうか、聞きなさったか?」
「さて…何か聞いているか?ケント。」
「いえ、残念ながら何も聞いてはおりませんが。」
(……力ある者が去り、力なき者が残った、か。)
その取捨選択に如何様な思惑があったのか。
誰もいなくなった後もしばしそれに一人思い巡らし、ジコ坊はそっと溜め息をこぼしたのだった。
まるで児戯
(飽きてしまえば、それっきり)
(だが戯れそのものは続く)
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八周年企画より。
企画へのご参加ありがとうございました!
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嘘つき、ロンリー。