踏鞴場の長と青年05
「まったく、運の良い野郎だ!」
そう鼻息荒く言い放つゴンザの指示により、慌ただしく動き回る石火矢衆に牛飼い達。
その様子を端から眺めていたエボシ御前はそっと息をこぼした。
(「運が良い」?果たして、本当にそうだろうか…)
思い起こすは、まるで舞のように斬り結ぶ二人の青年の姿。
同じ流れを汲む者同士、互いを熟知していたことも無論、要因の一つではあっただろう。
そこに技術の差、経験の差、気迫の差と、ありとあらゆる差異が加わり、奇妙で危うい均衡が長く長く続いていた。
あの娘が、突如乱入するまでは。
『もののけ姫だ!』
「エボシ様!」
追っ手の準備が出来たと、いつでも出られると伝えられ、それに頷いた。
そして号令を掛けようとしたところで、ふと思い直す。
「いや、もういい。」
「は?」
「あれは放っておけ。」
「なっ…ですが、エボシ様っ!」
「あの怪我だ。そう長くは持つまい。」
何を血迷ったのか、サンを助けるために勝負を捨てたアシタカ。
だがケントがそれを見逃すはずもなく、すぐ近くにいた娘から石火矢を取り上げるとその背中を狙い撃った。
もし撃ったのがケントでなければ、今頃怪我どころでは済まなかったはずだ、とゴンザは再三繰り返す。
あの男は運が良かった、と。
未だ戸惑いを見せるゴンザから視線を逸らせば、男達をまとめ上げるその背中が目に留まった。
(……いや、やはり運の悪い男だ。)
酷い怪我を負いつつも、あの若者が抱え去ったのは山犬の姫。
あれの母親は常に森を、シシ神を守る存在だ。
もしかしたらアシタカは、助かるかもしれない。
ならば―…
「どうかなさいましたか?」
一向に出立の声が掛からないことを不審に思ったのか、エボシらの方を振り向いてケントが問う。
そして返事に詰まるゴンザに代わり、エボシは「いや、何でもない」と微笑み返すのだった。
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ひぃ、ふぅ、みぃ、
(何度繰り返せど、)
(変わらぬ花占い)
(ここで死ねれば良かったものを)
(愛しい者の手に掛かって死ねば、ただそれだけで)
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嘘つき、ロンリー。