顔無と飛脚01
※映画終了後。
俺の名前はケント。
『油屋』御用達の飛脚である。
今回は雇い主である湯婆婆の子、坊から伯母へ、お礼の手紙を届けるのが仕事だ。
出際に見た湯婆婆の心底嫌そうな顔も吹っ飛ぶくらい、なんて微笑ましいことだろう。
だが目的地に着いた瞬間、それすらも吹っ飛んだ。
「ここで会ったが百年目…!」
扉を開け、俺を出迎えたのは見覚えのある黒。
ちょっと不気味な、のっぺりとしたその白面を忘れられるはずもない。
「何だい、いきなり」と横から湯婆婆瓜二つの魔女が顔を出したのも驚いたが、いや今はそれよりカオナシだ。
何故、奴がここにいる。
「…すみません。以前そいつに、一飲みされたことがありまして…」
一度クールダウンして端的に話せば、先日の騒動を知っているらしく苦笑を漏らす魔女、湯婆婆の双子の姉、銭婆。
危うく忘れかけた仕事を思い出して甥っ子からの手紙を差し出すと、銭婆は嬉しそうにそれを受け取った。
あぁ、これだ。
この瞬間が好きで、俺は飛脚をやっているのだ。
まぁ、ちらちら視界の端に映る黒のせいで、せっかくの感動が台なしだがな!
「大丈夫。この子はもう、そんなことはしないよ。」
未だカオナシへの警戒を解かない俺に気付き、銭婆が笑う。
この際だ、仲直りしたらどうだい?
なんて、まるで子供同士の喧嘩のように扱われて少しばつが悪くなった。
身構えている俺の方が大人気ないような…
「ア…ア……ア…」
つられるようにカオナシの方を見れば、肯定なのか否定なのか。
頷いているようにも見えるが、それは都合のいい解釈だろうか。
「…仕方ない。全部水に流してやろう。」
湯屋での一件だけにな…なんて冗談かましても、相変わらずのっぺりとした顔が相手では通じているかどうかも分からない。
いや、ここは俺が大人になろう。
そう握手のつもりで手を差し出そうとした瞬間。
見覚えのある大きな口が、視界一杯に開いていた。
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(時間はあるかい?良かったらお茶でも飲んで…あらあら。)
(銭婆が振り向いた時、そこにはカオナシ一人しかいなかった。)
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嘘つき、ロンリー。