顔無と飛脚02
俺の名前はケント。
『油屋』御用達の飛脚だ。
だがここ数日、本気で転職を考えている。
「…『飛脚は天職だ』と、前にそう話してはいなかったか?」
そう愚痴をこぼせば、不思議そうに首を傾げるハク様。
この反応はハク様で七人目だ。
「それはそれ、これはこれですよ…」
「…ケントも色々と苦労しているのだな。」
ちなみにこれは三人目。
心優しきハク様の憐憫を含んだ眼差しに対し、俺は苦笑で返した。
あぁ、その優しさが身に沁みる。
沁みすぎて少し痛いくらいだけど。
「ということで職探しの真っ最中なんですけど、何かいいのありませんかね?」
同情するなら職をくれ!
いつかどこかで似たような台詞を聞いた気もするが、一先ずそれは脇に置いておくとして。
俺の切実さが伝わったらしく、しばらく考え込んだハク様は「確か下働きが一人、辞めたのだが…」とポツリと漏らした。
意外と好感触。
ここは「体力には自信があります!」と自己アピールするべきか。
「しかし、困ったな…」
「はい?」
「そなたが飛脚を辞めたら、この文は誰が届ける?」
不意にハク様が懐から取り出したのは一通の手紙。
ちらりと見ただけだが、最後に書かれた二文字だけは辛うじて読むことが出来た。
出来て、しまった。
「ちわー。郵便でーす。」
そう見慣れた家の前で声を張り上げれば、中から聞こえてきたのは「はいはい」と聞き慣れた声。
「坊様から銭婆様へ、お手紙でーす。」
あぁ、またここに来てしまった。
もう二度と来まいと心に決めていたのに。
「悪いけど、出てくれるかい?」
だが来てしまったものは仕方ない。
腹を括って、深呼吸を一回二回。
そして扉が開いた瞬間、視界に入った黒に俺は飛び蹴りをかますのだった。
--------------
(体力には自信があります)
(そして有無を言わせず先手必勝!)
---------------
リクエストありがとうございました!
*前
戻る
嘘つき、ロンリー。