姫の師と愛弟子01


パシッ、と。

そう乾いた音が聞こえたかと思えば、じわっと頬に広がる熱と痛み。


瞬きを数回繰り返してようやく、「自分はぶたれたのだ」と脳が理解した。


痛む頬を押さえながら呆然と己が師を見返す。


「理由は、分かっておるな?」


常日頃と変わらぬ穏やかな口調だというのに、反論を許さぬその重々しさ。

いや、首を縦に振ることさえ難しく、俺はただ顔を俯かせることしか出来なかった。


気まずい、沈黙が落ちる。


今までだって、決して少なくはない失態を犯してきた。

その度にユパ様から呆れたように窘められてきたが、これほどまで叱られたという記憶はない。



『ケントっ!』



あれほど鋭く名前を呼ばれたことも、なかったように思う。





腐海の森はその名の通り、どこもかしこも腐っていてひどく軟らかく、そして脆い。

踏み台代わりに使った倒木を誤って踏み抜いてしまったり、苔の向こうが空洞だったりなんてよくある話だ。


だから地面が崩れ落ちる直前、手綱を離してわざと自ら落ちるように身体を引き倒し、それから巻き込まぬようにトリウマの胴体を蹴り飛ばした。


そこまでは、良かった。


落下の途中、何に引っ掛かったのか、自分のマスクが外れるまでは。

駆けてくるユパ様の姿が、やけに鮮明に見えたのをよく覚えている。


「…ここでは何が起こるか分からんのだ。たった一つの小さな過ちが命に関わることも有り得る。」

「…はい…」

「今回はそう大事にならずに済んだからいいようなものの…」

「……はい…」

「………………」


再びの、沈黙。

そして今度それを破ったのは、ユパ様の深い深い溜め息だった。


「…お前を、失うかと思ったぞ。」





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(ズキッと痛んだ胸は、)
(吸い込んでしまった腐海の毒のせいか、それとも)


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嘘つき、ロンリー。