姫の師と愛弟子02
瘴気マスクが外れた一瞬、どうやら反射的に息を止めていたらしい。
吸い込んだ腐海の毒は思いの外少なく、若いケントならば1日清浄な空気の中で過ごせば回復が見込めるだろう。
他には特に外傷も見られず、次の街に入ってすぐ宿屋へと押し込み、大人しく寝床に入っているようにと命じた。
それから一人、周辺の様子を調べに出たのだが―…
「えっと…何か、お忘れ物、ですか?」
部屋に戻ると、ケントは言いつけ通り寝床から不思議そうにこちらを見上げた。
「忘れ物?いいや、特に何もないが…何故だ?」
「いえ、お戻りが早かったようですから…」
「そんなことはないだろう。」
反射的にそう返した後、思ったより強い口調になったことに自分自身、驚いてしまった。
それを取り繕うように咳払いを一つし、そっとケントから目を逸らす。
「まぁ、小さな街だからな…調べものも早く済んだのだ。そう感じたのも無理はない。」
「そう、ですよね…すみません。本当なら俺が行かなくてはいけないのに…」
「その話はもうよい。今は余計なことは考えず、しっかり休め。」
街はそれなりに栄えており、治安もそう悪くはない。
そして何より、風の谷ほどではないが空気がよく澄んでいる。
ここならしばらく逗留しても問題ないだろうと提案すれば、ケントは顔を俯かせ、もう一度小さく「すみません」と口にした。
(少し…灸を据えすぎたか…)
間違ったことをした、とは思わないが、こんな顔をさせるつもりもなかった。
だが今、私が何を言ったところで意味を成さないだろう。
気まずい空気に溜め息一つ吐き出して、部屋を出た。
(後はもう、時が解決するのを待つばかりか…)
すると、ちょうどそこへ宿屋の主人が通り掛かり、それを呼び止める。
「すまない。私の連れのことだが…留守の間、何か変わった様子はなかったか?」
「え?」
一瞬、先程のケントのように不思議そうにこちらを見つめた主人。
だがケントとは違い、すぐに何故だか破顔した。
「よほどお連れ様のことがご心配のようですね。」
「何?」
「先程お戻りになられてすぐ、同じことを私に聞かれたじゃありませんか。」
「……………」
言われてみれば、そんな気もするが…
「それに外からのお戻りも早かったようですし。」
「………………」
気のせい、ではない。
(…急ぎの旅の途中でな。いつまでもここに逗留する訳にはいかないのだ。)
(それは大変だ。早く良くなるといいですね。)
(…あぁ…)
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六周年企画より。
企画へのご参加ありがとうございました!
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嘘つき、ロンリー。