猫男爵と灰狼01
※攻主?
『猫の事務所』の扉を開け、そこに足を一歩踏み入れるより先に、ムタはその姿に気付いてしまった。
反射的に立ち止まり、そして顔を引き攣らせる。
「うげっ…」
「ご挨拶だな、ルナルド・ムーン。」
思わず漏れでた呻きに、返されたのは愉しげな声。
やたら気取った口調で、その灰色の毛並みには軽薄な笑みが浮かんでいた。
『狼』のケント。
当の本人は頻りに「犬だ」と主張するものの、残念ながら今のところどこからも賛同は得られていない。
そんな彼が、ここ『猫の事務所』に入り浸る理由はただ一つ。
「てめぇ、またバロンを口説いてやがるのか。」
「口説くなんて品がない。俺は愛を囁いているだけさ。」
「けっ…物好きな野郎だぜ。」
「まぁ、好きに呼んでくれ。なぁ、バロン?」
「そこで同意を求められてもな…」
それまでケントの隣で一人、我関せずと静かに紅茶を飲んでいたバロンが苦笑を漏らす。
だがそれはある種の照れを含んだもので、強ち満更でもなさそうだ。
その表情に満足したのか、ケントはバロンに優しく微笑みかけると腰を上げた。
「もう行くのか、ケント。」
「あぁ、名残惜しいがそろそろ行かなくては。」
「おーおー、帰れ帰れ。」
「無粋な輩の邪魔も入ったしね。」
「何だとぉ?」
フーッと毛を逆立てるムタの姿など見えないかのように、バロンの頬に唇を寄せるケント。
バロンもそっと目を閉じ、甘んじてそれを受け入れた。
「紅茶をありがとう。美味かったよ。」
そしてまた、ムタが舌打ちする。
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(イチャつくなら他所でやれ)
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嘘つき、ロンリー。