猫男爵と灰狼02


※攻主?










「なぁ、ムタ。」

「あん?」

「お前は何故、そんなにケントのことを嫌うんだ?」


ようやくキザったらしい狼を追い払ったかと思えば、苦笑混じりに話を蒸し返され、ムタは思わず舌打ちしたくなった。

それを寸でのところで飲み込んだのは、美味いんだか美味くないんだかよく分からない特製ブレンドと共に出されたケーキのせいだ。


いや、別にケーキは悪くない。

たとえ、それがケントの土産だったとしてもケーキ自体に罪はない。


だからムタはひとまずそれを平らげ、比較的美味しい紅茶を飲み干してから改めて舌打ちする。


「何でって、そりゃあお前…」


むしろ、あんな野郎のどこがいいのか逆に聞きたい。

と言いかけてすぐ、思い直した。


言った瞬間、きっと今日中にはここ『猫の事務所』から解放されないはず。


かと言って、素直に答えたところで結局は同じことのような気もするが。


(一晩中、ノロケ話を聞かされるなんて冗談じゃねぇ…)


また、舌打ち。


「…あー…何だ、ほら…あれだ…」
 

そこでふと、一つ思い浮かんだものがあった。


「昔話を見てみろよ。」


三兄弟の豚。

赤い頭巾を被った少女。

留守番中の子山羊達。


適当にいくつか例を挙げたところで、それらの教訓は至って明白、一目瞭然。


「狼が良い奴だった例がねぇだろ。」


苦し紛れで口にした割にはなかなか上出来だと、ムタは内心自画自賛した。


世間一般論が相手では、流石の男爵だって納得しない訳にはいかない。

「なるほど」ともしその口が動くようなことがあれば、その時はもっとケーキを強請ってやろう。


なんて算段を企てていたものの、残念ながらその手元に次のケーキが置かれることはなかった。


「それなら嵐の晩に知り合った、羊と狼の物語はどうなる?」

「………………」


最早舌打ちする気すら起きず、辛うじて「お前が羊ってガラかよ…」と返すのが精一杯だった。





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(そしてその日、ムタがちゃんと事務所から解放されたかどうかは不明である)


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嘘つき、ロンリー。