巷で噂の魔法使いと兄弟子01
珍しい本がある、と。
そんな甘い誘い文句を真に受けた俺が馬鹿だった。
「……いい趣味してんな、おい。」
360°得体の知れない装飾品で囲まれた部屋。
荒れ地の魔女から逃れるため、ハウルが古今東西より集めに集めた『魔除け』の品々だ。
試しに手近にあった一つを手に取ってみれば、考えるのも面倒なほど複雑な魔法が掛けられていた。
「なぁ、ハウル。『攻撃は最大の防御』って言葉、知ってるか?」
「…僕があの人に敵う訳ないだろう…」
「いっそ潔く散っちまえ。」
俺の言葉を冗談と受け取ったのか、「ひどいな…」と苦笑するハウル。
悪いがほとんど本気だ。
「それで、嘘まで吐いて俺に何の用だ?」
「嘘じゃないよ。最近通っている古書店に」
「いいから。用件を先に言え。」
そう急かしてやれば、ハウルは小さく肩を竦めてみせた。
古書店云々は後でじっくり聞かせてもらおう。
「…この部屋にはあと一つ、必要なものがあってね。」
「これだけあって、まだ足りないのか?」
「君の呪いで完成なんだ。」
「俺の?」
一瞬何のことか解らなかったが、愉しげなハウルを見て、一つだけ思い当たった。
随分古い記憶だ。
「……アホか。お前、いくつになる?」
「お願いだ、ケント…じゃないと僕は安心して眠れないよ…」
そう弱々しく笑ってみせる奴は自分の容姿をよく理解している。
そんな質の悪い優男から逃れようと試みるも、手を伸ばしたノブは一向に動かない。
ハウルが何かした様子はなかった、扉からは特に魔法も感じない、となると
「おい!出せ、こら!カルシファー!」
乱暴に扉を叩いて怒鳴る。
悪魔まで抱き込んで一体何してんだ。
というか、どれだけ本気なんだ。
戻ったら「ハウルは相変わらず情熱の向け方が間違ってる」と、サリマン先生に密告しておこう。
「ケント…」
そしたらきっと、「貴方は相変わらずハウルに甘いようですね」なんてチクリとやられるに違いない。
サリマン先生の少し怖い笑みまで想像出来て、舌打ちした。
「……もう二度とやらないからな。」
ぼそりと吐き捨てた前置きと共にハウルへ向き直り、その腕を引いてベッドへと導く。
唐突過ぎたのか、ハウルは無抵抗のまま黙って押し倒されてくれた。
「…『我が愛し子の眠り、何者にも妨げられることのないように』」
それは母から子へ施されるような、子ども騙しのまじないもどき。
夜眠れないとぐずる兄弟弟子に、戯れで施したのはいつだったか。
「『いい夢を』」
そして最後に美しい金の髪を掻き分け、その額に口づけを落とした。
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顔を離せば、妖しく笑う巷で噂の魔法使いがそこにいた。
(それで、さっきの古書店とやらはどこにある?)
(…ケント、空気を読んでくれるかな…)
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アンケートより。
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嘘つき、ロンリー。