巷で噂の魔法使いと兄弟子01
「…お前、また場所を変えたんだな。」
いつものように兄弟子を拉致して約一時間。
いつものように怒鳴られ、罵られ、説教されたところでマルクルにコーヒーを頼めば、ケントはそのまま疲れたようにソファーに腰を下ろした。
そして視線を窓の外の賑わう街並みへと向け、ようやくそれに気が付いたようだった。
「一体どこだよ、ここ…」
「さぁ?どこだろう?」
「毎度毎度ふざけやがって…おい、カルシファー。」
帰り道が分からないのなら、いっそここに住めばいい。
なんて用意していた口説き文句を挟む間もなく、呼ばれたのは我が友である火の悪魔の名前。
それまで静かに事の成り行きを見守っていた彼が「うげ、飛び火かよォ」と呻き声を漏らした。
「お前もいちいちこの馬鹿の言うことに付き合うな。」
「だってよォ…」
「カルシファー。」
「じゃあ、ケント。オレとハウルの契約をどうにかしてくれよォ。そしたら今度はお前と契約してやるゼ!」
「アホか。俺はマダム・サリマンを敵に回したくはない。」
そう苦々しく吐き捨てるケントだが、ブスブスと不満げな煙を上げるカルシファーを見ると小さく笑った。
呆れたように、仕方のないものを見るかのように、柔らかく細められた目。
それはいつも自分に向けられているもので、向けられるはずのもので、何だか急に胸の辺りがモヤモヤとし始めた。
(…ここにはもう、何もないはずなんだけどな……)
苦しい。
「ケントさん!コーヒー、お持ちしました!」
「ん。あぁ、ありがとう、マルクル。」
目の前が徐々に薄暗くなっていくのを感じていると、それらは響き渡る幼い声によって霧散した。
そしてマルクルからカップを受け取り、その頭を撫でていたケントが不意にこちらを振り向く。
「ハウル。」
「うん?」
「お前もいい加減、一箇所に留まるようにしろよ。」
「さぁ、どうしようかな…」
「…居所が分かれば、時々顔ぐらい見に来てやるから。」
とにかく突然拉致するのだけは止めろ。いいな?
なんて念押しする兄弟子に僕はただ笑って肩を竦めてみせるのだった。
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(それで、王宮に一番近い止まり木はどこだ?)
(帰り道が分からないのなら、今日は泊まっていけばいいじゃないか。)
(アホか。)
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嘘つき、ロンリー。