東の青年と現代人01
※トリップ主。
※映画中盤の話。
※獅子神捏造注意。
声が、遠くから聞こえてきた。
何と言っているのかは分からないけれど、何となく自分の名前を呼ばれているような気がした。
だからそれに返事をしようとして、だけど上手く声を出すことができず、
―…もう、よい。
え?
―…もうよいのだ。
優しく諭すような声に、ようやく浮上しかけていた意識がまたゆっくりと沈み始める。
―…おまえがこれいじょうあぶないめにあうひつようはない。ここでゆっくりとやすむがよい…
まるで子守歌のようにそれを聞きながら。
ふわふわと心地良い何かに包まれながら。
それじゃあ、お言葉に甘えて、と―…
「ケントっ!」
「…アシタカ、さん…?」
目を覚ますと、焦ったような表情のアシタカさんがこっちを見下ろしていた。
目が合った瞬間、ほっとその目元が和らぐ。
そしてそんなアシタカさんの後ろにはヤックルとサンが、更にその背後には見覚えのある景色が広がっていた。
多分ここは、前にアシタカさんと一緒に怪我人を運んで通った、シシガミの森の中だろう。
何でこんなところに…?と質問するより先に、こうなる前のことを徐々に思い出してきた。
(確かタタラ場でエボシさまとサンが揉めて、アシタカさんが間に入って…誰かが石火矢を撃って、撃たれて、)
(かすり傷だっていくら言っても誰も聞いてくれなくて…「早く行けぇっ!」ってゴンザさんが怒鳴って…ヤックルに乗せられて、運ばれて、それから、)
それから?
どことなく人に似た顔付きのシシがやって来た、というところで記憶が途絶える。
もしかして、あれがシシガミさまだったのだろうか。
(……シシガミさま…)
タタリ神の呪いを解いてくれるかもしれない、神さま。
そう聞いていたけれど、と恐る恐る腕を持ち上げてみれば、そこにあるアザは少し薄くなっていたものの、残念ながらまだしっかりと残っていた。
だめだった、らしい。
俺が石火矢に撃たれた時、俺の中にいるタタリ神は致命傷にならないように体勢を変えて軌道をずらしてくれたが、出来ればそれよりも早く俺とアシタカさんの体から出て行ってくれないだろうか。
なんて溜息交じりにぼんやりと自分の手を見つめていると、ふとアシタカさんがその手を強く握り締めた。
「危うく連れて行かれてしまうところだった…」
「え?」
「改めてここに誓おう。」
アシタカさんの目が、真っ直ぐに俺に向けられる。
「生涯を懸けてそなたを守り抜くと、そしてもう二度と誰にも触れさせはしないと。」
「そんな、大袈裟な…」
思わず笑ってしまった。
きっとアシタカさんも、すでにアザのことには気付いているはず。
だけどいつもと変わらないその手、その目差し、その言葉の強さについ安心してしまった俺はそのまま―…うっかり二度寝してしまうのだった。
眠れ愛し子よ、眠れ
(そしてその瞬間、静かに戦いの火蓋は切られたのだった)
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三十万打感謝企画より。
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嘘つき、ロンリー。