東の青年と現代人03(+もののけ達)


※トリップ主。
※映画中盤の話。








ふっと小さく笑ってみせたかと思えば、ゆっくりと再びその眼を閉ざしてしまったケント。

その手を握り締めていたアシタカさまの体が一瞬ぎしりと固まり、だがすぐにすうすうと聞こえてきた穏やかな寝息にそっと力が抜けていくのが分かった。


そして少し迷いながらも、どうやら今しばし眠らせておくことを選んだらしく、一度その手に唇を寄せるとアシタカさまは静かにそれを横たわるケントの上へと戻す。


「何故人間がここにいる…?」


不意に低く怒りに満ちた声が落とされた。


驚いて見渡せば、ケントの容態に気を取られている内にいつの間にやって来ていたのか、周囲を取り囲む猪の群れ。

異変を察した山犬達も姿を現し、その場が一気に殺気立つ。


全身を突き刺すようなそれは、当然ながら眠るケントにも害を及ぼし、小さな呻き声がその口から漏れ聞こえる。

宥めるようにケントの頬を鼻先で撫でていると、昨夜も見た青く恐ろしい「何か」がアシタカさまの体から再び立ち昇り―…



「…悲しいことだ…」



周囲を鎮めつつ進み出てきた、一際大きな老猪はすぐにアシタカさまと、そしてケントに纏わり付くその「何か」を感じ取ったらしい。

ゆるゆると首を横に振りながら「一族からタタリ神が出てしまった…」と嘆く老猪に、アシタカさまは眉を顰めつつもひとまず落ち着きを取り戻したようだ。


「そっちの若いのにも済まないことをした…ここはいずれ戦場となるだろう。心安らかに眠れはしまい。どこか良き場所へと案内を」

「待ちな。」


こちらに向かって、いやケントに向かって更に歩を進めようとする老猪の前、その視界を遮るように山犬がするりとその身を滑り込ませてきた。


「勝手なことしてもらっちゃあ困るねぇ…」

「我が一族の罪を我ら自身で贖う。それだけのこと、それに何の問題があるという?」

「シシ神が生かしたんだ、そいつはあたし達の客だよ。だから面倒ならこっちで見る。」

「お前達にはお前達の役目があるだろう。だからこそ」

「余計なお世話さ。それを言うならあんた達だって、何の為に海を渡って遠路はるばるここまでやってきたんだい?」


そんなことも忘れちまうぐらい馬鹿になっちまったのか。

と揶揄するように嗤う山犬の口元は大きく裂け、その苛立ちを隠しきれてはいない。


周囲が再び殺伐とした空気に飲み込まれていく。


「やばん、やばん」

「かみのこ、われらめんどう、みる」

「それがいちばん」


ぐるぐる唸る山犬とひいひい雄叫びを上げる猪達に紛れ、ぼそぼそ聴こえてくるのは猩々らの声だろう。

姿は見えないが、こちらの様子をずっと覗き見ていたらしい。


「ヤックル…?」


傍らにいた山犬の娘が戸惑うように呼び止めるのを無視して、一歩足を踏み出す。


昨夜シシ神さまの時はつい出遅れてしまったが、これ以上黙っているわけにはいかない。


アシタカさまと共に、ケントを守るのは自分の役目だ。


そう胸を張り、ケント達を背にしながらもののけ達の前へと立ち塞がった。





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(人間達と一戦交える前に)
(どうしても負けられない、もののけ達の戦いがそこにはあった)


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嘘つき、ロンリー。