山犬の長と老人01(+踏鞴場の長)


※エボシ御前の過去捏造注意。
※養父設定。









「その娘、私が貰い受けよう。」


幼い私の前に現れたのは実に奇妙な男だった。


男は特に何かする訳でもなく、ただ私に服を着せ、飯を食わせ、話をし、笑いかけ、そしてひたすら連れ歩いた。


時折、私と似たような境遇の娘を何人も買ったが、その娘らにも同じように振る舞った。

男は「可哀想に」などとは決して口にしなかった。



「嬢、この村は好きかい?」


男は立ち寄った村や町でいつもそう娘達に問い掛けた。


「好きだ」と答えれば村の者に預けられ、「嫌いだ」と答えればまた男との旅が続く。


途中、村人の一人に「ケント様、」と呼ばれ、そこで私は初めて男の名を知った。


どの場所にも男の―…ケント様の知り合いがいて、どこも心暖かな人々で一杯だった。


そしていつの間にか、ケント様の傍にいるのは私一人だけになっていた。


「ごめんなぁ、嬢。」


お前さんの居場所を見付けきれんで。


私の頭を撫でながらケント様は苦笑した。

ケント様は初めて出会った時よりも幾らか年老いていて、私ももう親を必要とする年ではなかった。


「またここに戻ってしまったよ…」


長い旅を終え、辿り着いたそこはケント様が生まれ育ったという山小屋だった。


しばらく二人っきりの生活が続いたが、どこで噂を聞きつけたのか、ケント様を頼って人が訪れるようになった。

ある者はそのまま住み着き、ある者は幼子だけを置いて行った。


そうして、気付けば集落のようなものが出来ていた。


「嬢、嬢。」


そんなある日のことだ。


「今までありがとなぁ、こんな年寄りに付き合わせちまって。」

「ケント様?」

「後はお前さんの自由に生きなよね。」


そう言って、ケント様は姿を消した。









数日後。

ケント様の知人を名乗る男が訪れた。


「そうか…やはりあの方は行ってしまわれたか…」


骸のない墓前に供えるよう渡されたのは古びた烏帽子。

ケント様とどのような関係があるのか分からなかったが、形だけの墓に飾るよりも、と私はその烏帽子を常に持ち歩いた。


いつしか私は「エボシ様、」と呼ばれ、そして村を―…「踏鞴場」を治めるようになった。





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山犬に恋をした哀れな男の話を聴くのは、もっとずっと後のこと。

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嘘つき、ロンリー。