山犬の長と老人02
死ぬなら山犬に喰われて死にたい、と。
そう繰り返し続けた戯れ言に、いつしか周りからは「まるで山犬に恋をしているようだ」と笑われるようになっていた。
これが本当に恋ならば、報われることはないだろう。
そしてきっと、終わりもしないに違いない。
「…なぁ、そうだろう?」
同意を求めるようにその白く美しい獣を見上げると、相変わらずこちらを見下ろす眼差しは冷たくて、思わず笑ってしまった。
「まぁ、元気そうで何よりだ。こっちはもうすっかり歳食っちまって、どこもかしこもがただらけ。おかげでこのざまさね。」
勝手知ったる獣道と油断したのがまずかった。
落ちた拍子に折れたのだろう、足はどちらも全く動かない。
いや、求め続けた彼女が目の前にいるのだ。
最早動く必要もあるまい。
「本当にお前さん、久し振りだね。立派になったもんだよ。」
ここに辿り着くまで、思ったよりも長い長い旅になってしまった。
その目的すら忘れそうになるほど、長い長い長い旅。
それを思い出させてくれたのは、自分を『ケント様』と呼び、父のように慕ってくれた一人の少女だった。
「私はね、いつ死んじまっても構わんと、そう思っていたよ。自分の持ってるもんをひたすら配り歩いて、繋げるもんはひたすら繋いだりしてさ。だがその嬢を見ていたら、やっぱり、」
やはり、どんなことをしても罪滅ぼしにはならないのだと痛感してしまった。
彼女が断罪せぬ限り、自分が許されることはないのだと絶望してしまった。
「だから、なぁ、お前さん。そろそろ私を裁いちゃくれないかい?」
戯れ言のような懇願の声に、だがやはり白く美しい獣は答えない。
何十年も前のあの日のように、ただ静かに自分を見下ろすだけ。
冷たい冷たいその眼差しに、そっと息を吐く。
「……まぁ、だろうね…」
その一言に満足したのか、何の未練もなく彼女は私に背を向けた。
そして私は、その背中に向けてまた言葉を投げ掛ける。
「あれは、お前さんの父上だったのかい?それとも好い人だったかね?」
白く美しい彼女は何も答えない。
そうして私は自分の殺した山犬を思い出しながら、静かに目を閉じるのだった。
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男は最期まで、赦しを得ることは叶わなかった。
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嘘つき、ロンリー。