本と楽器と恋の物語
序章
くたびれたスーツに身を包み、吊り革に掴まって窓の外を流れる風景をぼんやりと眺める。
あの頃は良かった…なんて思うほど、まだそう長くは生きていない。
だけどその懐かしさに目を細めるぐらいには、日々の疲れを感じていた。
学校の帰り道。
寄り道した図書館。
高台から町並みを見下ろして、楽しげに微笑むのは自転車を引く一人の少女―…
「……あー、くそっ。」
そう悪態を吐きながら腹筋を使って上半身を起こせば、目の前に広がるのは見慣れた自分の部屋。
同室の姉はまだ帰ってきておらず、そのせいか、やけにひっそりと静まり返っている。
(故郷故郷故郷故郷……故郷って一体何なんだよ…)
がりがりと後ろ頭を掻き、周囲に散らばった紙を適当に一枚、拾い上げてみた。
『カントリーロード』と書き出されたそれ。
自分の字で書かれたそれを読み返すのは少し気恥ずかしい感じがしたが、そもそも読み返すほどの量を書いてもいなかった。
どれも一行二行で終わってしまっている。
そこから先が、どうしても思い浮かばない。
「……勉強もせず、何やってんだか…」
いっそのこと全部ぐしゃぐしゃに丸めて、ごみ箱に放り投げてしまえばどんなに、
『じゃあお願いね、ケント。』
「……気分転換でもするか。」
そしてまた新しい紙を一枚引っ張り出し、そこに『コンクリートロード』と書き出して一人小さく笑った。
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(物語はまだ始まらない)
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嘘つき、ロンリー。