あかイおに

番外編:羽衣伝説


たまには息抜きも必要だろう。


そんなエボシ御前の一言で始まった大宴会。

このところ働きづめだったため、久々の娯楽に準備の段階から大盛り上がりのそれも、これからが真骨頂、



のはず、だった。




―…トゥルレレ…

―…トゥルレ…



しんと静まり返った空間に響き渡る不思議な言の葉。

それに合わせて、赤い髪の男が舞う。


緩慢な動きで、腕を、足を、しならせるように、舞う。



常の男からは想像も出来ないほどのその繊細さに、誰もが唖然と言葉を失ってしまい、ただただそれに魅入っていた。


拍子を取ろうとしていた手は一度も打たれぬまま、止まったまま。



―…トゥレレトゥルレ…

―…トゥヒャラヒャラ…



誰もが初めて目にするそれは、だが誰もが何かを知っていた。


神楽舞。


神をその身に取り込んで、そして



「………えっと?すんません、誰か手拍子、お願い出来ませんかね?」


あまりの静けさに居心地悪くなったのか、舞を止め、困った顔で辺りを見渡すケント。

それからいち早く我に返った女達の、その後の行動は速かった。


「ケント!あんた、ちょっとこっち来な!」

「うぉっ…え?何?何すか!?ちょっ…ア、アシタカさまぁぁぁあっ!?」


残念ながら乞われた当のアシタカは他の男達と共に茫然としたまま、静かにそれを見送ったのだった。










「…疲れた……なんか、こう…精神的に疲れたっす…」


盛大な拍手に見送られ、ようやく解放されたケントはそう言ってぐったりと座り込む。

労るようにその頭を掻き撫ぜてやれば犬や猫のそれのように擦り寄ってきて、思わず苦笑してしまった。


(しかし、本当に見違えたな…)


どこから引っ張り出してきたのか、女達の手によって今のケントが身に着けているのは小綺麗な着物。

女装と呼ぶには少し不格好なそれが、つい先刻までケントの動きに合わせ、ひらひらゆらゆらと靡く様は何とも蠱惑的なものだった。


だが、その余韻に浸るアシタカの心にふと陰が差し込む。


(あのような舞、一体どこで…?)


見覚えのないそれは東の国のものではないだろう。

ならばあれは、恐らくはケントの、自分の知らないケントの故郷のもの。


「…なぁ、ケント。」

「はい?」

「少し、ここから抜け出さないか。」

「へ?」


髪を梳かれ、気持ち良さそうに細められていたケントの目がきょとんと瞬く。

アシタカは微笑み返しながら、その手を引いて立ち上がった。


「大丈夫、この騒ぎだ。私達が抜けたところで誰も気付きはしないよ。」

「はぁ…アシタカ様がそう言うなら、俺は別に構わないすけど。」


でも、どこに行くんです?

そう問い掛けるケントに、すでに歩き始めていたアシタカは振り向きもせずに答える。



「二人きりになれる場所へ。」



だから一拍の後、その髪と同じく顔を真っ赤にしたケントにアシタカが気付くことはなかった。






仕来たりに則りて候ふ


(あぁ、愛しき我が舞姫よ)(そなたの還る場所はここなのだから、羽衣などは不要であろう?)


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嘘つき、ロンリー。