物語を紡ぐ物語

さて、


まずは何から話をしようか。









「カヤ……?」


恐らく本人も無意識にこぼした、小さな小さな呟き。

だけどそれは、この場にいる全ての者の耳に届いていた。


そして自身へと集まる視線に気付き、少年はばつが悪そうにその身を竦める。


「どうした、ケント。」

「いえ、何でも…お話を遮ってしまい、申し訳ありません。どうぞ構わずに続けて」

「そなたは確か、アシタカが生まれた時も『そう』だったね。」


ヒィさまの言葉にケントは肩を揺らし、数人が顔を見合わせた。


アシタカとは数年前に生まれた、ケントより三つほど年下の男児だ。

それが今、何故引き合いに出されるのか。


「、ヒィさま…」

「話してみなさい、ケント。」


戸惑うケントを、そう優しく促すヒィさま。

村の大巫女と、いずれはその跡を継ぐ養い子。


そんな二人の意味深なやり取りに、ざわめきは徐々に広がっていくばかり。

その様子にケントはますます顔を俯かせたものの、養母の後押しもあってか意を決した。


「…赤子の名を付けるこのめでたい場で、このようなことを言うべきではないのでしょうが。」


前置きからしてあまりに不吉。

誰もが途端に口を閉ざし、その齢十にも満たぬ少年の言葉に耳を傾ける。


「『アシタカ』に『カヤ』という名前では、その……アシタカがいつか、苦難の旅に出そうな…そんな気がしまして。」

「なんと…!」


あやふやな、だがどこか確信のある響きを持つそれ。

ただの戯れ言で済ますにはケントの立場も、またアシタカの役目も重かった。


「アシタカはいずれこのくにを治める子ぞ…」

「ならば名を変えさせるか?」

「今更変えられるものか。それより娘の方には、カヤではなく別の名を付けるべきでは…?」

「定めとは、そう簡単に変えられるものではないよ。」

「ヒィさま!」


騒ぐ村の者達を制して、ヒィさまは再びケントへ顔を向ける。


「ケントや、アシタカはその苦難を乗り越えられるかい?」

「それは……本人次第かと。」


恐る恐る、だが確かにヒィさまの目を真っ直ぐに見て、ケントは答えた。


曇りなき眼。

そんな言葉が皆の脳裏を過ぎる中、ヒィさまは満足げに頷いた。


「ならばケントよ、これからはそなたがアシタカをよく支えてあげるのだよ。」

「……はい。」


そしてそれ以上、ケントが何かを語ることはなかった。





--------------
(今更話す必要はないかもしれない。)
(だってここは、端から完成された物語。)

*前次#

戻る

嘘つき、ロンリー。